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続々・「事変」と「中立」

2010/08/02 22:57


「陸戦ノ場合ニ於ケル中立国及中立人ノ権利義務ニ関スル条約」を読むことによって、つまり1937年(昭和十二年)当時の国際法の観点からは、

 

 事変と言っても実質国家間の戦争行為だった事は明らかで、中立を守らず蒋を支援し続けた列強の行為も問題です。
 

…という指摘が、まったくの的外れであることを確認することが出来た(前回までの話)。

たとえそれが「事変」ではなく、「戦争」であったとしても、条文に、

 

第七条

 中立国ハ交戦者ノ一方又ハ他方ノ為ニスル兵器、弾薬其ノ他軍隊又ハ艦隊ノ用ニ供シ得ヘキ一切ノ物件ノ輸出又ハ通過ヲ防止スルヲ要セサルモノトス

 

第十八条

 左ニ掲グル事項ハ第十七条ロ号ニ所謂交戦者ノ一方ノ利益ト為ルヘキ行為ト認メス

 イ 交戦者ノ一方ニ供給ヲ為シ又ハ其ノ公債ニ応スルコト

 

…とある以上、「蒋を支援し続けた列強の行為」に対しての「中立を守らず」という評価は成立しないのである。「交戦者ノ一方又ハ他方ノ為ニスル兵器、弾薬其ノ他軍隊又ハ艦隊ノ用ニ供シ得ヘキ一切ノ物件ノ輸出又ハ通過」が、中立国に禁止されているわけではないのだ。

 

しかも、「戦争」ではなく「事変」であるという立場は、日本政府のものだったのである。既にその問題に関しては、国際法である「開戦ニ関スル条約」(1907年)との関係から論じておいたが、国内法的な取り扱いも見ておこう。

 

大本営令(昭和12年軍令第1号)
第一条
 天皇ノ大纛下ニ最高ノ統帥部ヲ置キ之ヲ大本営ト称ス
 2 大本営ハ戦時又ハ事変ニ際シ必要ニ応ジ之ヲ置ク
第二条
 参謀総長及軍令部総長ハ各其ノ幕僚ニ長トシテ帷幄ノ機務ニ奉仕シ作戦ヲ参画シ終局ノ目的ニ稽ヘ陸海両軍ノ策応協同ヲ図ルヲ任トス
第三条
 大本営ノ編制及勤務ハ別ニ之ヲ定ム

 

この「大本営令」発令以前に「大本営」設置を規定していたのは、「戦時大本営条例」(明治36年勅令第293号)であった。それが昭和12年11月18日「戦時大本営条例廃止ノ件」(昭和12年勅令第658号)により廃され、

 

 大本営ハ戦時又ハ事変ニ際シ必要ニ応ジ之ヲ置ク
 

…と、それまでの「戦時」限定の「大本営」から、「戦時又ハ事変ニ際シ必要ニ応ジ之ヲ置ク」という「大本営」へと、わざわざ改変されたのである。大日本帝國の国内法令上でも、「支那事変」は、あくまでも「事変」なのであり「戦時」ではない、つまり「戦争」ではないということなのだ。

 
そもそもは「陸戦ノ場合ニ於ケル中立国及中立人ノ権利義務ニ関スル条約」は、「戦争」に際しての「国際法」なのであって、「事変」には適用されないはずである。

である以上、

 

 事変と言っても実質国家間の戦争行為だった事は明らかで、中立を守らず蒋を支援し続けた列強の行為も問題です。

 

…という指摘は、二重の意味で的外れなものなのであった。

 

 

実際問題としては、大日本帝國にとっての「支那事変」、つまり(対支「戦争」ではない)「事変」という選択の背後にあるのは、国際法であったと言うよりは米国の国内法であったと言うべきであろう。

 

米国の「中立法」の存在の大きさが、「事変」という名目による処理を選択させたのである。

 

 

中立法 Neutrality Act (1937)

 1.武器、弾薬および軍需器材の輸出

 〔a〕 大統領は二国あるいは三国以上の外国間に戦争状態の存することを認めたときは、同事実を布告する。同布告以後は合衆国内のいずれの地より、同布告に指定されるいずれの交戦国に対しても、あるいは当交戦国へ積換える目的をもつて、または当交戦国の使用に供するために、いかなる中立国に対しても、武器、弾薬または軍需器材を輸出し、輸出を企て、あるいは輸出せしめることは違法とする。

 〔b〕 大統領は第三国がその戦争に参加するに至るにしたがつて、同国に対しても武器、弾薬または軍需器材の輸出禁止を時々布告をもつて拡張するものとする。

 〔c〕 大統領はある外国に内乱状態が存し、かつその内乱が大規模であるか、あるいは合衆国よりの同国への武器、弾薬または軍需器材の輸出が合衆国の平和を脅し、あるいは危殆に陥れるがごとき状態において遂行されていることを認めた場合には同事実を布告する。…

 〔d〕 本節によつて輸出の禁止される武器、弾薬、軍需器材は、大統領が時々布告をもつて明確に列挙する。…

 2.他の物資・原料の輸出

 〔a〕 大統領は、本法第1条によつて布告を発し、かつその後の武器、弾薬、軍需器材に加うるに、ある物資、原料の合衆国より交戦国または内乱の存する国への輸送に制限を加えることが、合衆国の安寧を促進し、その平和を維持し、あるいは合衆国市民の生命を保護するために必要であると認めたときは、その旨を布告する。以後は……合衆国の船舶が右の物資および原料を、本法第一節により発せられた布告に指定された交戦国、または内乱のおこなわれる国に向けて、あるいは右交戦国または内乱のおこなわれる国へ積換える目的をもつて、またはその使用に供するために、いかなる中立国へ向けて運搬されることも不法とされる。大統領は合衆国船舶が輸送することが不法となるべき物資、原料を時々布告をもつて明確に列挙する。

 〔b〕 大統領は、本法第1節によつて布告を発し、かつその後物資および原料の合衆国より交戦国、または内乱の存する国への輸出に制限を加えることが、合衆国の安寧を促進し、その平和を維持し、あるいは合衆国市民の生命、通商を保護するために必要であると認めたときは、その旨を布告する。以後は……合衆国より本法第1節により発せられた布告に指定された交戦国、または内乱のおこなわれる国に向けて、あるいは右交戦国または内乱の行われる国へ積換える目的をもつて、またはその使用に供するために、いかなる中立国に対し輸出ないし輸送し、または輸出ないし輸送を企て、または輸出ないし輸送せしめることも、右物資あるいは原料に関する一切の権利、権利の根拠および利益が外国の政府、代理人、機関、協会、組合、法人または国民に譲渡されるまでは不法とされる。…

 (以下省略  文言は、『西洋史料集成』 平凡社 1956 による)

 

 

正確には、「1935年8月31日修正通り裁可せられた『武器、弾薬、および軍需器材の交戦国への輸出の禁止、交戦国の使用に供するために合衆国の船舶によつて武器、弾薬および軍需器材を輸送することの禁止、武器、弾薬、または軍需資材の製造、輸出または輸入に従事するものの登録、免許に関し規定し、かつ戦争中交戦国船舶によるアメリカ市民の旅行を制限する共同決議』と題する共同決議を修正する共同決議」という名称の法律である。

 

 

 

 

 




Binder: 現代史のトラウマ(日記数:659/全体に公開)
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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2010/08/03 00:29
    「中立法」の正式名称には負けた。

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