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続々々・「事変」と「中立」

2010/08/03 22:54

1937年、つまり昭和12年の5月1日、米国の「中立法」が成立した。

正確に言えば、1935年に成立した最初の「中立法」が1936年に修正され、続いて1937年に再び修正されたのであった。その間の事情を、法律としての内容も含めて確認しておきたい。まず、ここでは『ウィキペディア』の記述を読んでおこう。

 

 

中立法(ちゅうりつほう、Neutrality Acts)とは1935年(昭和10年)にアメリカで制定された法律で、大統領が戦争状態にある国が存在していること又は、内乱状態にある国が存在していることを宣言した場合には、その国に対して武器や軍需物質の輸出を禁じるというものである。

1941年(昭和16年)の改正では、商船の武装禁止及び戦闘区域侵入の禁止が廃止された。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E7%AB%8B%E6%B3%95

 

 

…という簡単な記述であるが、1935年とは、イタリアによるエチオピア侵攻(第二次エチオピア戦争)の年であり、当時は孤立主義的であった米国が制定したのが、問題の「中立法」なのである。他国の戦争に関わらないことを目的とした法律であった(当初は「戦争状態にある国」だけが対象とされた)。

1936年の修正で「内乱状態にある国」にまで対象が拡大されたが、それはスペイン内戦を受けてのことである。

『ウィキペディア』では触れられていないが、1937年の修正では「現金自国船条項」が追加されている。これは英国を意識した付加であり、依然として米国籍船舶による輸送・輸出は禁止されるが、輸送・輸出物が既に現金決済され、その上で自国の船舶(ここでは英国の船舶が想定されていたわけである)を使用しての輸送・輸出に関しては制限を設けないことを内容とするものだ。

 

前回にご紹介した条文で、その「現金自国船」に関する修正に該当するのが、

 

 

 2.他の物資・原料の輸出

 〔a〕 大統領は、本法第1条によつて布告を発し、かつその後の武器、弾薬、軍需器材に加うるに、ある物資、原料の合衆国より交戦国または内乱の存する国への輸送に制限を加えることが、合衆国の安寧を促進し、その平和を維持し、あるいは合衆国市民の生命を保護するために必要であると認めたときは、その旨を布告する。以後は……合衆国の船舶が右の物資および原料を、本法第一節により発せられた布告に指定された交戦国、または内乱のおこなわれる国に向けて、あるいは右交戦国または内乱のおこなわれる国へ積換える目的をもつて、またはその使用に供するために、いかなる中立国へ向けて運搬されることも不法とされる。大統領は合衆国船舶が輸送することが不法となるべき物資、原料を時々布告をもつて明確に列挙する。

 〔b〕 大統領は、本法第1節によつて布告を発し、かつその後物資および原料の合衆国より交戦国、または内乱の存する国への輸出に制限を加えることが、合衆国の安寧を促進し、その平和を維持し、あるいは合衆国市民の生命、通商を保護するために必要であると認めたときは、その旨を布告する。以後は……合衆国より本法第1節により発せられた布告に指定された交戦国、または内乱のおこなわれる国に向けて、あるいは右交戦国または内乱の行われる国へ積換える目的をもつて、またはその使用に供するために、いかなる中立国に対し輸出ないし輸送し、または輸出ないし輸送を企て、または輸出ないし輸送せしめることも、右物資あるいは原料に関する一切の権利、権利の根拠および利益が外国の政府、代理人、機関、協会、組合、法人または国民に譲渡されるまでは不法とされる。

 

 

…という条項である。これは私には大変にわかりにくいと思われるのだが、

 

〔a〕において、「合衆国の船舶が右の物資および原料を、本法第一節により発せられた布告に指定された交戦国、または内乱のおこなわれる国に向けて、あるいは右交戦国または内乱のおこなわれる国へ積換える目的をもつて、またはその使用に供するために、いかなる中立国へ向けて運搬されることも不法とされ」ているわけだが、

〔b〕において、「不法とされる」のは「右物資あるいは原料に関する一切の権利、権利の根拠および利益が外国の政府、代理人、機関、協会、組合、法人または国民に譲渡されるまで」という限定が付され、かつ「合衆国の船舶が」との限定は取り除かれている、

 

…ということなのである。

 

当時の日本国内での受け取り方の例として、「米國中立法の意義及其適用に就いて」と題された昭和十二年十月五日発行のパンフレット(明倫会)の内容を読んでみよう。筆者である法学博士、大山卯次郎氏は、

 

 

     四、中立法の要領

 

 斯ういふ風で中立法制定の裏面に全然思想の異なつた意見が対立して居た為、議論百出といふ有様で、容易に纏らなかつたのを、漸く妥協に依て之を造り上げた次第であるから、そこに幾多の矛盾と欠陥を生ずるに至つたのは、誠に已むを得なかつたことと思はれる。然らばさうして出来た中立法はどういふ内容のものかといふと、その全文は十五箇條から成立つて居るが、その中重要なものは次の通りである。

 

 第一 此法律は云ふ迄もなく戦時に適用するのであるが、戦争の事実が存在するや否やは大統領の認定に一任してゐるのである。従つて大統領に非常な運用の自由が与へられる結果となつてゐるのであつて、大統領が之を以て外交上の駆け引きに利用するであらうことは想像に難からずとするところである。尤も交戦国が自ら宣戦を布告した場合は、大統領はそれに依り直ちに戦争存在の事実を認め、その旨を布告せねばならぬ訳であるが、その場合に於ても大統領がその布告を為すまでは本中立法の発動しないことは云ふまでもない。

 第二 交戦国並に内乱国に対し、武器、弾薬並に軍用器材の輸出を禁止し、且つそれが中立国に輸出せられる場合に於ても、交戦国に転送せられ、又は交戦国の使用に供せられるものと認められた時は、矢張りその輸出を禁じて居る。尤も中立国は国際法上斯る禁輸を実行せねばならぬ訳のものではないが、米国は自ら交戦国との紛争を避ける為、自分の都合で之を禁止するまでである。

  (註)本項に所謂武器、弾薬、器材とは如何なるものを云ふのであるかは大統領に於て遅滞なく時々明確に列挙して布告せねばならぬことになつて居るが、現在は一九三七年五月一日本法制定と同時に大統領令を以てその品目を定めて居り、軍用器材は主として薬品であつて、鉄、石油、綿花等は含まれて居らず。

 第三 武器弾薬軍用器材以外の物品、例へば食料又は製造原材料等の貨物も、大統領の見込みにより輸出を禁出し得ることにし、その例外として外国の政府が現金で買入れ、自分の船舶で積取る場合には輸出を許すことにして居る。之をキャツシュ・エンド・キャーリー即ち「現金買入・自国船積取」の規定と云ひ、本法の最も大なる特色である。これは本年春米国会議で中立案を討議中英国商務大臣のランシマン氏が渡米して談判の結果、かういふ除外例を設けたのであつて、米国はこの結果、一方に於て武器、弾薬、軍用器材並びに原料その他の物品の輸出を禁ずることによつて、理想主義を実行したけれども、他方に於て斯る除外例を設け、米国自らの為に戦時商業の道を開き、併せて財力の豊かな海上の優者たる英国が交戦国である場合に之を援助しようとしたのであつて、主義上大なる矛盾と云はねばならない。

 第四 交戦国及交戦団体に対し金融上の援助を禁じて居るが、米国は予て米国に対し借金を払はない国に対して金融上の便宜を与えないと云ふ法律を作つてゐて、欧州諸国は大抵此法律の為に米国から金が借りられないことになつてゐるから、この禁止条項は欧州に関する限り、実際上余り効果はないのである。

 第五 米国人に対し交戦国又は交戦団体の船舶に依つて旅行することを禁止して居るが、是は米国人をして戦争に関係せしめない為の手段であつて孤立派の主張を容れたものである。

 第六 米国の商船に対して武装することを禁じて居るが、之も米国人をして戦争に関係せしめない手段である。

 第七 外国潜水艦及武装商船が米国の港に出入りすることを禁じて居るが是も右と同様の趣旨である。

 第八 此法律は南米及び中米諸国が米州以外の国と戦争する場合に適用せられないことになつてゐるが、是は南米及び中米を米国の縄張とする為であつて、中米南米諸国と他の国とを区別し、中米及び南米の諸国が米州以外の国と戦争する場合に、米は中立国の態度をとらぬと云ふ意思を明らかにしたものである

 第九 此法律は恒久的に有効なものとせられて居るが「現金買入・自国船積取」の規定に限り一九三九年即ち昭和十四年五月一日まで有効とせられて居る。是はこの規定に多くの反対があるから、他日適当に修正しようとする為である。

http://books.google.co.jp/books?id=Dfz0RwuxRgoC&printsec=frontcover&dq=%E4%B8%AD%E7%AB%8B%E6%B3%95%E3%80%80%E7%B1%B3%E5%9B%BD&source=bl&ots=464prErFzj&sig=XiGUpJFsbtvT4Fbk-nRTGXtTA1M&hl=ja&ei=4-BUTLyGONqPcIyJoMAM&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=1&ved=0CBQQ6AEwADgK#v=onepage&q&f=false

 

 

…と、当時の日本人に対し、「米國中立法の意義及其適用に就いて」解説しているのであった。

 

 

 

大山博士も、はっきりと、

 

 尤も中立国は国際法上斯る禁輸を実行せねばならぬ訳のものではないが、米国は自ら交戦国との紛争を避ける為、自分の都合で之を禁止するまでである。

 

…と書いている。つまり、

 

 事変と言っても実質国家間の戦争行為だった事は明らかで、中立を守らず蒋を支援し続けた列強の行為も問題です。
 

…という指摘は、どうしようもなく的外れなのである。

米国の「中立法」は、あくまでも国内法であり、しかも米国大統領は支那事変に際しては「中立法」を発動・適用することはなかったのである。

合衆国大統領に課せられていたのは、

 

 ある物資、原料の合衆国より交戦国または内乱の存する国への輸送に制限を加えることが、合衆国の安寧を促進し、その平和を維持し、あるいは合衆国市民の生命を保護するために必要であると認めたときは、その旨を布告する

 

…という任務であり、米国大統領は支那事変に際して、中立法を発動・適用することが、「合衆国の安寧を促進し、その平和を維持し、あるいは合衆国市民の生命を保護するために必要であると認め」ることはしなかった、ということになる。

 

 
 

 

 

 


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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2010/08/03 23:47
    ちなみに「中立法」の正式なタイトルは…

    "Neutrality Act" of May 1, 1937

    --------------------------------------------------------------------------------

    JOINT RESOLUTION

    To amend the joint resolution entitled "Joint resolution providing for the prohibition of the export of arms, ammunition, and implements of war to belligerent countries; the prohibition of the transportation of arms, ammunition, and implements of war by vessels of the United States for the use of belligerent states; for the registration and licensing of persons engaged in the business of manufacturing, exporting, or importing arms, ammunition, or implements of war; and restricting travel by American citizens on belligerent ships during war", approved August 31, 1935, as amended.



    http://www.mtholyoke.edu/acad/intrel/interwar/neutrality3.htm

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