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琉球國の「独立」の問題をめぐって 5

2013/02/09 21:44


明治5(1872)年、琉球国王を華族に列することの可否に関して、左院の答義には次のようにあった。


 華族宣下ノ不可ナル所以ハ国内形成沿革ノ自来ルニ従テ人ノ族類ヲ区別シテ皇族華族士族ト称謂ヲ定メタルハ国内人類ニ於テ自然ニ斯ク名目ヲ設ケサルヲ得サル勢ニ立至リシモノニシテ今般更ニ琉球国王ニ華族ノ称ヲ宣下スヘキ謂レアラス琉球国王ハ乃チ琉球ノ人類ニシテ国内ノ人類ト同一ニハ混看スへカラス


ここで左院は、まず華族宣下の意味を、


 国内形成沿革ノ自来ルニ従テ人ノ族類ヲ区別シテ皇族華族士族ト称謂ヲ定メタルハ国内人類ニ於テ自然ニ斯ク名目ヲ設ケサルヲ得サル勢ニ立至リシモノ


…として示している。左院にとっては、宣下の対象は「国内人類」に限定すべきものなのである。琉球国王に対する「華族宣下ノ不可ナル所以」の核心は、


 琉球国王ニ華族ノ称ヲ宣下スヘキ謂レアラス琉球国王ハ乃チ琉球ノ人類ニシテ国内ノ人類ト同一ニハ混看スへカラス


…という認識にある。その認識を要約すれば(前回に書いたように)、


 あくまでも琉球は日本の「外部」の存在、ということ


…なのである。

琉球國の「両属」という状態に関する左院の認識を見ておくと、それは、


 琉球ノ我ニ依頼スルコト清ヨリ勝レルハ清ニハ名ヲ以テ服従シ我ニハ実ヲ以テ服従スレハナリ


…というものであった。ここにある「名」と「実」の関係については「名ハ虚文ナリ実ハ要務ナリ」とされ、「我其要務ノ実ヲ得タレハ其虚文ノ名ハ之ヲ清ニ分チ与ヘ必シモ之ヲ正ササルヘシ」という判断を示していた。

ここでは、左院により、琉球國は「我ニハ実ヲ以テ服従」しているような存在として位置付けられてもいることに留意しておきたい。

つまり、琉球は日本の外部であり、しかし同時に、日本に「実ヲ以テ服従」している存在として位置付けられていたことになる。



それに対し、井上馨は、


 抑臣等居ル所ハ即チ 天子ノ土臣等牧スル所ハ即チ 天子ノ民ナリ安ンソ私有セへケンヤ今謹テ其藩籍ヲ収メテ之ヲ上ル願クハ 朝廷其宣ニ処シ其与フ可キハ之ヲ与ヘ其奪フ可キハコレヲ奪ヒ凡列藩ノ封土更ニ宜シク 詔命ヲ下シテコレヲ改メ定ムヘシ


…との論理の延長に琉球國を位置付け、「速ニ其藩籍ヲ収メ明ニ我所轄ニ帰シ国郡制置租税調貢等悉皆内地一軌ノ制度ニ御引直相成」るべきであると主張していた。琉球国王への対応は、井上馨には、あくまでも国内問題なのであった。




結果から言えば、明治新政府は、左院ではなく井上馨の路線を採用する。

明治5(1872)年9月14日、伊江王子以下の維新慶賀使は、明治天皇に謁見し、


 朕上天ノ景命ニ膺リ萬世一系ノ帝祚ヲ紹キ奄ニ四海ヲ有チ八荒ニ君臨ス今琉球近ク南服ニ在リ気類相同ク言文殊ナル無ク世々薩摩ノ附庸タリ而シテ爾尚泰能ク勤誠ヲ致ス宜ク顕爵ヲ予フヘシ陞シテ琉球藩王ト為シ叙シテ華族ニ列ス咨爾尚泰其レ藩屏ノ任ヲ重シ衆庶ノ上ニ立チ切ニ朕カ意ヲ体シテ永ク皇室ニ輔タレ欽ヨ哉

…との、琉球国王尚泰を華族とし琉球藩王とする旨の詔書を受け取ることになる。


以前にも紹介した琉球大学付属図書館の貴重書展の解説では、


 1872年(明治5)、明治政府は鹿児島県を通じ、初めて琉球の入朝を促してきた。これを受けて王府は維新慶賀使を派遣したが、同年9月14日、政府は琉使を参朝させ、国王尚泰を琉球藩王となし、華族に列する旨の詔文をくだした。いわゆる琉球藩の設置である。これによって鹿児島県(薩摩藩)の管轄下にあった琉球を、明治政府の直轄に移し、藩王および摂政・三司官の任免権を明治政府が掌握することになった。


…として示されていた歴史的過程である。ただし、この解説では、「琉球藩の設置」の意味が十分に説明されていないようにも思われる。

冊封体制の下では、琉球国王は、あくまでも中国(明・清)の皇帝の臣下なのであり、国王の地位は中国の皇帝の権力と権威に基くものであった。確かに琉球國は、日本にとっては「我ニハ実ヲ以テ服従」するような存在であったが、君臣関係においては、琉球国王はあくまでも中国皇帝の臣下なのであって、天皇を頂点とする日本国内の君臣関係の外部の存在だったのである。

琉球大学図書館の解説文にある、


 琉使を参朝させ、国王尚泰を琉球藩王となし、華族に列する旨の詔文をくだした


…ということの意味は、単に新たに琉球藩を設置したことにあるのではなく、冊封体制内の(中国皇帝の臣下としての)琉球国王尚泰を明治新体制内の華族とし琉球藩王とすることで、新たに天皇の臣下として位置付けたことにある。

このようにして明治の新政権は、琉球の取り扱いを国内問題として再定義することに成功したのである。








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