umasica :桜里さんのマイページ

聞こえない木下さんと屠場の人の声

2013/04/21 20:40


想像力の及んでいない領域が存在することを、映像作品との出会いを通して知る。

百瀬文さんの『聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと』、そして久保田智咲さんの『屠場を巡る恋文』。


どちらも「武蔵美優秀展(平成24年度 武蔵野美術大学 造形学部卒業制作・大学院修了制作 優秀作品展」で出会った映像作品である。



百瀬さんの作品の「聞こえない木下さん」とは木下知威さんのことで、若手の建築史・視覚文化研究者として紹介されていた。「聞こえない」というのは、彼は、実際に(生まれつきまったく)耳が聞こえないからである。

その木下さんとの「対談」として作品は作られている。

生まれつきまったく耳の聞こえなかった木下さんは、「口話」という手段で、相手の発言を把握する。口の動きから発せられた音声を判断し、言葉として再構成し理解する。そのことも、「対談」を通して明らかにされる。

木下さん自身は、自身の音声で相手の問いかけに答える。自然でなめらかな発声とは言い難いが、何を言っているかを理解することは難しくはない。


聞こえないということは、そして口の動きで音声を判断するということは、似た口の動きの音を弁別することの困難であることも意味する(ということも対談の過程で明らかにされる)。たとえば、バとパとマ、アとカとハの違いを口の動きだけから判別することは難しい。


そこで重要となるのは前後の文脈である。もちろん、耳の聞こえる人間でも、相手の発音がはっきりしなかった場合、語を聞き落とした場合、同音異義語を判断する場合など、前後の文脈を参照することで、正確な把握を目指す。

しかし、「聞こえない木下さん」の場合は、会話の全体にわたってそれが必要とされるような条件下にある、ということなのだ。


百瀬さんの映像作品では、さらに絶妙な仕掛けを用いることで(作品の構成上、この仕掛けについてここで語ることは出来ないが)、音声情報による対面的コミュニケーションの限界と可能性を露わにして見せる。

「暴力的」という言い方も可能な「仕掛け」ではあるが、しかし、「聞こえない木下さん」の側も、聞こえる側の思いもよらない視点で相手を見透していることが明らかにもされる(本人の意図しない所で引き起こされた反撃にさえ見える)。


30分に満たない作品であるが、多くのことを考えさせられることになるのだ(百瀬さんは油絵コースの院生、学部の卒制時にも優秀作品に選ばれていたような記憶がある)。





『屠場を巡る恋文』の「屠場」とは、まさに家畜を食肉として処理するための場所(屠畜の場)である。その「屠場」を巡るドキュメンタリー作品だ。


生きていた家畜が殺され解体され、肉と皮と内臓と血液に分けられる。その肉を食べるのは我々である。いわば、現代社会に欠くことの出来ぬ装置である。


主人公は屠場の労働者であり、屠場そのものである。


屠場で働くのは解体のプロである。刃物による作業では怪我もする。保育園に子供を迎えに行く際に、怪我の原因について聞かれる。あるいは、子供のお父さんの仕事を問われる。しかし「トジョー」という語は日常会話での理解の対象ではない。「トジョー」という音が「屠場」という語に変換され、職業として把握されないのである。

つまり、肉を食べている我々の想像力の外部に「屠場」は存在するということだ。

それは聞こえのよい言い方であって、屠場での労働は差別意識の対象となっているのが現実というものである。


近世以来の、部落差別の「伝統」は、現在でも「屠場」の存在を見えないものとしているのである。


屠場で働く人々へのインタビューと、屠場での取材を通して、その「現実」を明るみに出していく。

映像は、屠場を見えないものとしていく意識構造に対する告発であると同時に、あるいはそれ以上に、屠場で働くプロフェッショナルたちへの「恋文」として仕上がっている。


屠場という知らない世界へ分け入って行くという意味でも、我々が現に生きる社会の問題を屠場の存在を通して可視化したという意味においても、その屠場の現場で出会ってしまった人々の魅力を伝えるという意味においても、ドキュメンタリー作品として見事である(久保田さんは映像学科の卒業生)。









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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2013/04/21 22:13
    以上、今年の「武蔵美優秀展」レポート。

  • Comment : 2
    umasica :桜里
     2013/04/22 07:49
    加筆してココログ版の「現代史のトラウマ」にアップ。

     聞こえない木下さんと屠場の人の声
     http://uma-sica.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-5233.html

  • Comment : 3
    河童
    河童さん
     2013/04/22 12:04
    http://www.youtube.com/watch?v=1niwRK25k4E
    こういう聞こえない声もある。

  • Comment : 4
    河童
    河童さん
     2013/04/23 22:42
    まあ周りにいなければ理解しづらいよね。
    韓国人の連行云々もそう。
    一度うましかどんを若松に案内して教えてあげたいね。

  • Comment : 5
    umasica :桜里
     2013/04/24 00:18
    《ムサビ関係の皆様へ》

    場違いなコメントを残しているバカは無視して下さい。

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