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殺生戒 vs 極楽往生(浄土真宗的殲滅戦の論理)

2014/02/19 22:43




 殺生戒といつて、人の生命をとるなかれといふ戒の如きは、直接今の問題になつてゐる戦争と関係があることになる。殺生戒を守つて、人の生命をとらぬとなれば、それは戦争ができないこととなり、国家の一員として非常に困惑することとなるであろう。

     佐々木憲徳 「仏教と戦争」 (『立信報国』 戦時布教文庫 興教書院 昭和12年9月刊)



昭和12年の9月刊ということは、支那事変の「勃発」からまだ間もない時期の出版物である。「あの戦争」での宗教界による戦争協力の問題を語る際に、浄土真宗の果たした大きな役割は、いわば常識に属するものとさえ言えるのだが、ここで(真宗教団の一員としての)佐々木憲徳氏は、「殺生戒を守つて、人の生命をとらぬとなれば、それは戦争ができないこととなり、国家の一員として非常に困惑することとなる」との言葉で、問題の所在を指摘している。「殺生戒」の存在が「事変完遂」の障害となることに「困惑」しているわけだ。

「殺生戒」を優先させ、「殺生戒を守つて、人の生命をとらぬ」道を選択することこそが仏教徒としては当然であるはずなのだが、佐々木氏は仏教徒であることよりも「国家の一員」であることを優先させることを当然と考えてしまっているので、ここで「困惑」が生じるわけである。「極楽往生」がかかっているのだから、浄土真宗的には当然の話ではある。言うまでもなく、「殺生戒を守つて、人の生命をとらぬ」道を選択することこそが、浄土真宗的にも「当然の話」であるとは思われるのだが、当時はそこで「困惑」することの方が、「当然の話」と考えられていたのであろう。


この問題について、早川タダノリ氏は、あっさりと、


 別に困惑しなくても、お釈迦様の教えを守ればよいだけである。


…と指摘している(早川タダノリ 『神国日本のトンデモ決戦生活』 260ページ)。

早川氏は続けて、


 佐々木は戦争を「折伏」であると言う。戦争とは常に正義と悪が争うものであり、正義が悪を折伏する過程なのだと考えねばならぬ……ということらしい。


…と、佐々木憲徳の論理を解説し、引用を続ける。



 戦争の如きことも、正義の戦争なるものは、実に折伏逆化の心術方法によりて行わるるわけで悪逆非道にして暴慢なる敵国に、膺懲の大鉄槌をあたへて反省自覚せしめ、以て正義の大道に復帰せしむる目的よりほかはない。



佐々木憲徳はこのように「戦争」を位置付ける。「事変」における「敵国」は既に「悪逆非道にして暴慢」な存在として規定され、自らの「正義」は自明の前提とされているのである。その上で…



 ……勿論戦争には人が死ぬる、金がかかつて、不容易の大事ではあるが、しかし戦争をせなくては正義が世界からつぶれ、正道が埋没するのであるから、どうしても菩薩の願行よりしても、正義を守り正道を護るために、銃剣をとつて悪逆無道の魔軍を殲滅せねばならぬのである。



このように、佐々木は語る。「正義」の名の下に、「殺生戒を守」ることなどは、二の次の問題にされてしまうのである。


 戦争をせなくては正義が世界からつぶれ、正道が埋没するのであるから、どうしても菩薩の願行よりしても、正義を守り正道を護るために、銃剣をとつて悪逆無道の魔軍を殲滅せなばならぬ


佐々木の理路からすれば、「菩薩の願行よりしても、正義を守り正道を護るために、銃剣をとつて悪逆無道の魔軍を殲滅」することは極楽往生の障害になるはずがないことになる。




しかし、国体明徴論的には、皇国臣民は極楽往生など望んではいけないのだ。



 若しその霊を阿弥陀仏に托して西方十万億土に送り、釈迦仏に附して彼岸極楽に送りやる如きことあらば、忠死の根本否定であり、忠霊の致命的冒涜である。肉体の生命は至尊に捧げるが霊魂の生命は天津日嗣以外に捧げると言ふのでは忠節どころか、恐るべき国体叛逆の大罪である。



 生きている間は戦死するまで滅私奉公

 戦死したら永遠に滅私奉公









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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2014/02/19 23:51
    早川タダノリ氏は、
    佐々木憲徳を「浄土真宗版ジャイアン」と評してます。

  • Comment : 2
    やわらか☆不思議猫
     2014/02/20 00:15
    仏教の殺生戒と戦争を論じるならば、キリスト教(など)ではモーゼの十戒の中の殺人禁止と戦争はどう折り合っているのだろう(;゚−゚)??

  • Comment : 3
    umasica :桜里
     2014/02/20 11:51
    >キリスト教(など)では


    思い通りにならなかったといって、
    神自ら大洪水を起こして、
    人類(ただし一家族を除く)皆殺し実行しちゃう世界(旧約)でございます。
    神の気に入られなかった人類はともかく、
    とばっちり喰って溺れ死んだ他の動物はいい迷惑。


    異教徒は殺してオッケイ。
    身内でも異端認定されたら虐殺オッケイな世界(新約)ですからね。

  • Comment : 4
    やわらか☆不思議猫
     2014/02/22 00:27
    モーゼの十戒(旧約)の石は行方不明だそうですからね〜

    結局は誰かの都合が良いように……

  • Comment : 5
    umasica :桜里
     2014/02/22 07:52
    自分の都合=正義、というのは(人類の)お約束でございます。

  • Comment : 6
    umasica :桜里
     2014/07/31 21:59
    加筆修正の上、ココログ版の「現代史のトラウマ」記事としてアップ。


     高級國語時代の思想(原理主義者の描く「靖國」と浄土真宗的殲滅戦の論理)
     http://uma-sica.cocolog-nifty.com/blog/2014/07/post-898d.html

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