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洋上のB-29 資料編

2016/03/24 19:07

 まずは、3月10日の「東京大空襲」の際の米軍の「作戦任務報告書(Tactical Mission Report)」から、「空海救助計画」の項と、「空海救助」の実際を記した部分を中心に抜き書きをしておく(奥住喜重・早乙女勝元 『新版 東京を爆撃せよ 米軍作戦任務報告書は語る』 三省堂 2007 による)。映像の背景には、事前に周到に準備された米軍の救難システムがあることが理解出来るはずである。

 

 

2 作戦の戦略と計画
c.計画の詳細―作戦関係:
 (7) 空海救助計画
  a海軍はこの作戦任務について詳細な情報を提供され、空海救助の目的に役立つ便宜を図るように求められた。
   。汗匹寮水艦が以下の位置に就いて救命の任に当るよう命じられた(位置は緯度と経度で示されているが詳細は略)。
   ■垣匹凌緇經歪が以下の位置に就くよう命じられた(位置の詳細は略)。
   2機のダンボ機が次の位置に就くよう命じられた(位置の詳細は略)。
   ご道訥と救難艇は、離・着陸の危険な時間帯の間、管制塔から解除命令が出るまで、空海救助の任務を遂行するよう命じられた。
  b当爆撃機集団は、4機のスーパー・ダンボ機(救難用B 29)に、以下の位置で旋回することを命じた(位置の詳細は略)。これらのスーパー・ダンボ機は、遭難位置の発見を援け、遭難信号を受信し、救急設備を投下し、空海救助作業が必要となった場合には、潜水艦を誘導することとなっていた。
 

 

 まさに映像では、△痢嵜緇經歪」の一隻である水上機母艦「ベーリング・ストレイト」によって、海上に不時着水したB-29乗員が救助されるまでの一部始終が記録されているわけである。また、救助作業に当る「ベーリング・ストレイト」の上空を旋回し続けるスーパー・ダンボ機の姿も映像に度々登場するが、それもb項に規定されている通りだということがわかる。米海軍と米陸軍航空軍に属する爆撃機集団が緊密に連携・準備し、実行すること(まさに映像に記録されているように)で、海上で遭難したB-29搭乗員が確実に救助されているのである。

 

 

3 作戦任務の実行
f.作戦の概要:
 (6)空海救助: (詳しくは付篇A、第塞瑤鮓よ)
  4機のB-29が不時着水し、全部で40名の生存者が救助された。

 

付篇A 作戦
第塞堯ゞ海救助
1.以下はこの作戦任務で起きた不時着水事故の要約である:(この報告のあとの空海救助図を見よ。―図は省略)
a.No.7 V 759機:第313航空団所属――この機は100145Zに、北緯17”40’-東経145”38’に不時着水した。11名の搭乗員は100725Zに1機のダンボ〔海軍大型飛行艇〕に発見され、101130Zに、水上機母艦ベーリング・ストレイトによって、全員が救助された。〔*訳注 the tender Bering Strait は、作戦任務29番の報告書中に a small seaplane tender "Bering Strait" として登場している〕
b.No.19 V 757機:第313航空団所属――この不時着水は、092238Zに、北緯18”00’-東経145”15’で、水上機母艦ベーリング・ストレイトの傍らで起き、8名の搭乗員に1名の同乗者を加えた全員は、18分以内に救助された。
c.No.25 V 527機:第314航空団所属――この機については、092244Zに、北緯22”00’-東経147”30’の位置で最終の報告が入った。11名の生存者は、102233Zに、北緯22”24’-東経146”19’で発見された。DMS-18(掃海艇)がこの報告を受けて引き返したが、その位置に到着した時刻は110700Zと推定された。11名の生存者の救助は、この掃海艇によって110700Zから111211Zの愛dに行われた。
d.No.44 V 759機:第313航空団所属――この不時着水は、100145Zに北緯19”10’-東経145”30’で報告された。3名は不時着水時に生き残らなかった。9名の生存者はパジャリス島(原語表記略)の海岸にたどりつき、捜索機と連絡をとって、1隻の船が1時間以内に彼らを収容するはずだと知らされた。救出は、補給船クックス・インレット(原語表記略)によって110800Zに実現された。
2.この作戦では、ほかに7機の行方不明機があり、それからは何の連絡もなかった。連絡がないため、捜索することができなかった。

 

 

 「付篇A」からの抜き書きにある不時着水機の二機目が、まさにフィルムに登場するマッキャスキル大尉の「ホープフル・デビル」であり、「8名の搭乗員に1名の同乗者」とある「同乗者」が副操縦席に搭乗していたマコンバー大佐であった。B-29の搭乗員は通常は(他の機がそうであるように)11名であるのだが、なぜ「8名の搭乗員に1名の同乗者」という少ない人数で作戦に参加したのかはわからない(この作戦では、爆弾搭載量を増加させるために装備から防御用の銃砲を取り除いていたので、機銃手の搭乗は必ずしも必要ではなかったということなのかも知れないが)、大佐の搭乗理由(任務)も今のところ不明である。

 時刻表示にある「Z」は、世界協定時ないし標準時を示すもので現地時間とは異なる(動画サイトの解説では、不時着水時刻は「Captain McCaskill ditched alongside at 12:38PM on March 10, 1945」であり、「Wikipedia」の「USS Bering Strait (AVP-34)」の項でも「On 10 March, Bering Strait established contact with a B-29, nicknamed Hopeful Devil, that radioed a distress call during its return from a bombing mission over the Japanese home islands. The Superfortress ditched alongside at 12:38 hours, and Bering Strait picked up the nine-man crew in short order」となっている)。

 

 

 マッキャスキル大尉の「ホープフル・デビル」の所属は、動画に添えられた説明によれば「484th Squadron, 505th Bombardment Group, 313th Bombardment Wing」となっており、指揮系統の序列で(上位から下位へ)示せば、陸軍航空軍>第20航空軍>第21爆撃機集団>第313爆撃航空団>第515爆撃群団>第484爆撃戦隊の1機であったことになる。

 「作戦任務報告書」の「付篇E 集約統計表」によれば、313爆撃航空団のB-29保有機数は146機で、出撃予定機数が121機、実際の出撃機数が110機であった。そのうち3機が不時着水しており、その1機が「ホープフル・デビル」ということになる。

 「ホープフル・デビル」については、「USAAF Nose Art Research Project」に爆弾を手にした角の生えた悪魔の描かれたノーズ・アート画像(http://www.usaaf-noseart.co.uk/plane.php?plane=hope-full-devil#.VvOILa1f2M8)が掲載されており、ボブ・ホープにちなんだ命名だと説明されている。また、機体のシリアル・ナンバーが「42-63482」であることも示されているので、手元の資料を参照することで、ボーイングのウィチタ工場製の1634機―初期に生産された機体―に含まれることもわかる。

 

 

 「ホープフル・デビル」のクルーを救助した水上機母艦「ベーリング・ストレイト」については、先の『Wikipedia』記事から、1944年7月に米海軍の水上機母艦として就役し、退役が1946年6月。以後、米沿岸警備隊、ベトナム海軍、フィリピン海軍で就役し、最終的に1990年4月に退役していることがわかる。

 米海軍の水上機母艦としては、輸送船の護衛任務、B-29搭乗員の救難、そして沖縄戦では航空機搭乗員救難任務に加え対潜哨戒任務もこなしている。

 

 『Wikipedia』記事中で重要だと思われるのは、「ベーリング・ストレイト」による搭乗員救難活動に対し、313爆撃航空団司令官から感謝の言葉が贈られたエピソードである。水上機母艦に宛てたメッセージの中で爆撃機司令官は、「ベーリング・ストレイト」は不時着水した搭乗員の「守護天使」として50名の戦闘員を海上で保護し、彼らの多くを再び敵への戦闘に従事させることが可能になったことに言及している。

 不時着水した爆撃機搭乗員の救難システムの構築が、単に米軍の将兵への人命尊重精神を示すにとどまらず、まさに戦争遂行のマネジメントの問題でもあったことが示された言葉であろう(将兵の「無駄死に」を避けることはヒューマニズムの問題でもあるが、戦争遂行のマネジメントの問題でもあり、日本の軍隊は、そのどちらにおいても米軍の水準に大きく劣っていた)。


 その点については、動画に添えられた解説の最後にからも読み取れるだろう。そこでは、「ベーリング・ストレイト」による着実な爆撃機搭乗員救難活動が(これは単に「ベーリング・ストレイト」一艦だけの問題ではなく、背景にある空海軍の緊密な協力により組み上げられた救難システムの存在を考えるべきであろう)米軍機搭乗員の高い士気を後押ししたとの認識が示されているのである(The USS Bering Strait was part of a well coordinated Air-Sea Rescue operation deployed each time the B-29s attacked Japan. It was a prime concern of the Bomber Command to rescue as many of these downed crewmen as possible. For American aircrews, this was a huge morale booster)。

 

 

 

 以前の記事(「統帥の無責任としての特攻精神 7 (ボンバールとスーパー・ダンボ)」)で、アラン・ボンバールの知見に基づき、

 

  ここには不時着水と難船との違いはあるが、広い洋上をいつか発見される偶然に頼り漂流するだけという状況は多くの人間には耐え難いものであり、たとえ救命ボートを手に入れられたとしても「死ぬのには三日で十分」という事態になってしまう、とボンバールは言うのである。
  それに対し、スーパー・ダンボやOA−10A飛行艇が空から捜索し、海軍艦艇が洋上から支援し、つまり太平洋上を漂流する搭乗員を発見し救助するための努力が存在するという事実は、孤立無援の絶望感に沈むことではなく生き延びる可能性を考えることにつながるだろう。それは、洋上に不時着水した搭乗員の生存率の向上に、大きく寄与したはずである。
  そこにあるのは自分たちが「見捨てられてはいない」という希望であり、より正確には自分たちが「見捨てられることはない」という信頼感である。

  実際に捜索されることで救助され生存が確保されるわけだが、ボンバールの知見により推測されるのは、捜索されているという事実があり、救助のためのシステムが存在するという事実が、それだけで生存率の向上をもたらすだろうという構図である。

 

…と指摘したが、まさにその点に、フィルムに記録された「ホープフル・デビル」と「ベーリング・ストレイト」のエピソードの背景にある、米軍の手厚い救難システムの存在の意味が見出されるであろう。

 

 また、「統帥の無責任としての特攻精神 5 (洋上のB−29と特攻精神)」で要約して示した、

 

  救難システムの存在には、単なる人命尊重以上の意味があったのである。搭乗員には訓練が必要であり、その養成には時間と資金の投下が不可欠なのである。爆撃機搭乗員とは、その養成に多くのコストを要するものなのであり、使い捨てにするのではなく使いまわさねばならないものなのである。要するに、米軍における救難システムの存在は、単に軍人兵士の人命尊重を意味するだけではなく、戦争遂行のマネジメントの問題でもあるということなのだ。
  特攻とは、訓練養成にコストを要するパイロットを使い捨てにすること(もちろん、航空機という生産に高いコストを要する兵器も使い捨てにされる)で可能となる軍事行動である。
  戦争遂行のマネジメントという観点からしても、軍事作戦としての「特攻」という選択は、「統帥の無責任」を象徴した行為であることを、あらためて確認しておく必要を感じる。

 

  B−29一機の喪失は、11人の搭乗員の喪失に結びつく。機体は失われても、搭乗員を失わないための努力が、このような海上救難システムとして組み上げられていたわけである。それは何より搭乗員自身の生命の問題であるが、銃後で無事な帰還を待つ搭乗員の家族―それぞれに一票を投じる権利を持った、政治的決定に関与出来る、国内世論を形成する家族である―の問題であり、訓練を経た貴重な搭乗員を失う軍の問題でもある。
  米軍の場合、手厚い救難システムの整備をすることが、前線兵士のより高い士気を支えると考えられ、戦争遂行に対する国内世論の確保に結びつくと考えられ、様々な意味で軍の利益に合致すると考えられていた、ということになるのであろう。

 

…との認識の重要性が、動画サイトにある1945年3月10日の太平洋上の記録フィルムを通して、あらためて確認され得たように思われる。









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