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トランプのルール (前)

2016/03/30 19:46


 米国大統領選挙の共和党指名争いで(意外にも)トップを走り続けるトランプ氏の主張と日本の安全保障問題について考えてみたい。


 まず紹介したいのは、


 

  3月23日、元大阪市長の橋下徹氏は、ツイッターで以下のように発言したことがにわかに注目された。


   沖縄の米軍基地をなくしたい人たちへ。トランプ氏が大統領になればすぐに沖縄米軍基地はなくなるよ。朝日新聞、毎日新聞、沖縄米軍基地反対派はトランプ氏を熱烈応援すべきだ。
          出典:橋下徹氏Twitter
     (古谷経衡 「日本でじわり広がる”トランプ大統領”待望論―対米自立か隷属か―」 Yahoo!ニュース 個人  2016/03/27 10:39)


 

…というお話である。古谷氏は続けて、


 

  無論この発言は、リベラルメディアへの揶揄を含んでいるが、橋下氏の見解には一理どころか二理も三理も、四理もある。ジャーナリストの冷泉彰彦氏によれば、「(トランプの姿勢は)強いて言えば、不介入主義とか、孤立主義と言えるもの」(Newsweek日本語版 2016年2月16日)という。特にトランプの対日姿勢に関する発言を聞いていれば、この分析は正鵠を得ている。
  トランプは「在日米軍の駐留経費を(日本が)大幅増額せねば撤退」と発言しているし、「日本がアメリカの防衛義務を負わないのに、なぜアメリカが日本を守る必要があるのか」と言った主旨の発言(その事実認識はともかく)を繰り返している。この発言を額面通りとれば、このまま共和党予備選挙でトランプが指名され、本戦でも勝ったならば確実に日米同盟は後退する。あるいは辺野古移転問題が進展しないのならば、いっそのこと米軍はグアムまで後退し、日本防衛の必要なし、という流れになるかもしれない。
  そうなると、逆説的には「対米従属」から日本は「強制的に脱却」する、という流れが強まる。中国の海洋進出や北朝鮮の核の脅威に、日本はアメリカの援護なしに自主防衛の道を余儀なくされるだろう。


 

…と論じている。この古谷氏の分析も「正鵠を得ている」、と私は思う。

 念のために、トランプ氏自身は何を言い、それがどのように解釈されているのかを確認しておこう。


 


  トランプ氏は21日にワシントン・ポスト紙、26日にはニューヨーク・タイムズ紙の取材に応じ、外交・安保政策を語った。トランプ氏は「米国はもはや裕福ではない」と指摘。財政上の観点から、同盟国などとの協力関係や負担のあり方を見直すべきだと繰り返し強調した。
  トランプ氏は、太平洋地域の平和維持に貢献することが米国の利益になるという考えを否定。在日・在韓米軍の駐留経費について「なぜ(日韓の負担が)100%ではないのか」と疑問を示し、撤退をちらつかせて大幅な負担増を日韓両国に迫る考えを示唆した。
  米政府は沖縄県・尖閣諸島が日本防衛の義務を定めた日米安保条約第5条の適用対象だと明言してきた。しかし、トランプ氏は、中国が尖閣諸島を占拠した場合に「何をするかは言いたくない」と回答を避けた。
     (毎日新聞 2016/03/29 19:48)

 

 毎日新聞は、ワシントン・ポスト紙及びニューヨーク・タイムズ紙のトランプ氏取材記事を要約する形で、「トランプ氏は、太平洋地域の平和維持に貢献することが米国の利益になるという考えを否定」しているとの解釈を示している。「毎日新聞」は愛国派の人々からはサヨク新聞扱いをされているので、ここではバランスをとってサヨクの人々からは政府御用新聞扱いをされている「産経新聞」の記事も確認しておこう。産経新聞は「トランプ氏「日韓は核を独自保有したら」「在日米軍撤退を」止まらぬトンデモ安保論」(トランプ氏の主張は産経新聞的にも「トンデモ」であるらしい)と題された論説的記事で、

 

 トランプ氏の原則は「米国のことを第一に考える」だ。米国は国際社会の平和と安定に、カネも軍事力も費やすべきではなく、余剰資金を国内経済に投下しようというわけだ。そこから米軍撤退や、日韓の核兵器保有容認論も出てくる。
 米国は第二次大戦への参戦によって、それまでの孤立主義を放棄し、国際協調主義に転換。世界の「超大国」として、義務と責任を果たすという道を突き進んだ。オバマ政権は、「世界の警察官」という役割を放棄し、米国の指導力は相対的に低下した。しかし、国際協調主義は維持し、地球規模の課題などでは指導力を発揮している。
     (産経新聞 2016/03/28 10:30)

 

…との理解を示している。産経新聞もまた「トランプ氏の原則は「米国のことを第一に考える」だ。米国は国際社会の平和と安定に、カネも軍事力も費やすべきではなく、余剰資金を国内経済に投下しようというわけだ。そこから米軍撤退や、日韓の核兵器保有容認論も出てくる」との構図を描いているのである(つまり、この理解に関しては、「サヨク反日新聞」と「ウヨク御用新聞」は一致している)。

 産経新聞が明示しているのは、「孤立主義」が源泉であり、米軍撤退や日韓の核兵器保有の主張はその帰結との理解である。太平洋や東アジアの現状は米国の関与によって維持されていることは事実であり、たとえ現状が好ましいものではないとしても(実際、望ましい状態にあるとは思わないが)、米国の関与がなくなれば地域は更に大きく不安定化することにもなってしまう(米国の性急な撤退が生み出すのは地域のアナーキー状況であり、確実に現状よりも悪い状態―相互の軍事力行使をも含む紛争状態―をもたらすだろう)。

 この問題については、

 

  民進党の岡田克也代表は日本テレビの番組で「(在日米軍)基地は日本防衛のためだけでなく、米国がアジアでプレゼンスを確保するためにある。そういう基本的なことをどこまで理解しているのか」といぶかった。
     (時事通信 2016/03/28 17:13)

 

…との報道もあるが、トランプ氏は既に(岡田氏の言葉を用いれば)「米国がアジアでプレゼンスを確保する」ことに関心を持っていないのだと理解されているのである。この認識(あるいは危惧)は野党党首だけではなく日本政府にも共有されたもので、

 

  菅義偉官房長官は28日午前の記者会見で、米大統領選の共和党候補指名争いで首位を走るドナルド・トランプ氏が、米メディアのインタビューで在日米軍撤退の可能性に言及したことに関し「誰が大統領になろうと、日米安保体制を中核とする日米同盟はわが国外交の基軸で、アジア太平洋と世界の繁栄と安全のために極めて大事だ」と指摘した。その上で「米国と緊密に連携することに全く変わりない」と強調した。
  トランプ氏が日本の核保有を容認する考えを示したことについては「『持たず、つくらず、持ち込まず』の非核三原則は政府の重要な基本政策だ。今後も堅持していくことは全く変わらない」と語った。
     (産経新聞 2016/03/28 12:19)

 

…と報じられている通りである。


 そのような認識を共有しさえすれば、古谷氏の主張、

  

  (トランプ氏の)発言を額面通りとれば、このまま共和党予備選挙でトランプが指名され、本戦でも勝ったならば確実に日米同盟は後退する。あるいは辺野古移転問題が進展しないのならば、いっそのこと米軍はグアムまで後退し、日本防衛の必要なし、という流れになるかもしれない。
  そうなると、逆説的には「対米従属」から日本は「強制的に脱却」する、という流れが強まる。中国の海洋進出や北朝鮮の核の脅威に、日本はアメリカの援護なしに自主防衛の道を余儀なくされるだろう。

 

…との問題提起が「正鵠を得」たものとして位置付けられるだろう。

 いくら日本政府(菅義偉官房長官)が「誰が大統領になろうと、日米安保体制を中核とする日米同盟はわが国外交の基軸で、アジア太平洋と世界の繁栄と安全のために極めて大事だ」と主張しようが、決めるのは次の米国大統領なのである。

 トランプ氏自身は、

 

  自身は孤立主義者ではないと語る一方、米国は貧しい債務国なのに北大西洋条約機構(NATO)や国連(UN)といった国際機関への資金分担は不相応に多いとの認識を示した。日本や韓国、サウジアラビアといった同盟諸国との関係についても、同じように不公平だと述べた。
  トランプ氏は「われわれは、知恵が回り抜け目がない手ごわい人たちから、長年見下され、笑われ、搾取されてきた」と述べた。「従って、米国を第一に考えてこれ以上搾取されない形にする。友好関係はあらゆる方面と結ぶが、利用されるのはごめんだ」と強調した。
     (AFP=時事 2016/03/27 15:22 ニューヨーク・タイムズのインタビュー記事)

 

…としており、自身が「孤立主義者」であることを否定しているようだが、トランプ氏の主張は孤立主義者のものである。「孤立主義者」であることを否定する理由としては、

 

  米大統領選の共和党候補指名争いでトップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏は21日、11月の本選で勝利すれば米国とイスラエルの強固な同盟を追求すると公約した。
  また、国連が自らの意思をイスラエルに押し付けようとすれば抵抗すると述べた。
  同氏は米イスラエル広報委員会(AIPAC)向けの演説で、イスラエルとパレスチナの交渉ではイスラエル側に立つと表明。「パレスチナは米国とイスラエルの結束が壊れることはないということを知った上で交渉の席に着かなければならない」と述べた。
  また「イスラエルはユダヤ人の国家であり、永遠にユダヤ人国家として存在することを受け入れるつもりで交渉の席に着かなければならない」とも指摘した。
     (ロイター 2016/03/22 09:49)

 

…と強調される、イスラエルとの特別な関係があるのかも知れない。しかしイスラエルとの関係を除けば、トランプ氏は中東に大きな関心を払わないし、ヨーロッパにも太平洋東アジアの安定にも関心がないように見える(j実際、「トランプ氏は、太平洋地域の平和維持に貢献することが米国の利益になるという考えを否定」していると理解されている)。もし、トランプ氏が大統領選挙に当選し、トランプ米国大統領が実現し、トランプ大統領が共和党予備選挙時の主張通りの政策を展開することがあるとしたら、古谷氏の提起した問題は我々が直面させられる現実となるのである。


 日本の安全保障問題を米国抜きで考えなければならなくなる、ということだ。

 そして、橋下氏が指摘(揶揄)しているのは、日本が非武装国家としてあるべき(いわゆる9条原理主義―一般的にはサヨク的と位置付けられている立場)との主張が、そのような現実に対応するに際してどこまで現実的であるのか(現実的であり得るのか?)との問題なのである。


 考えなければならないのは、中国の存在であり、北朝鮮の存在である。


 私はかつて、この問題を、

 

  問われているのは、日本国憲法の楽観主義をもって、大日本帝国に立ち向かうことが出来るものであるのかどうか、ということなのである


…と定式化してみたことがある(http://uma-sica.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/vs-02c0.html)。かつては、北朝鮮との関係で論じたのだが(金正日時代の北朝鮮―現在の金正恩体制の粗暴さと比較すれば、金正日時代にはまだ冷静な計算が存在した―を大日本帝國との相似点ににおいて関連付けた上で)、現在の中国もまた、かつての大日本帝國の似姿として位置付けられ得る存在となっていることを忘れてはならないだろう。

 現在の中華人民共和国は、厳しい言論統制によりかろうじて権力の維持が可能になっている強権的国家であり、軍事力の強化に依存した拡張主義的政策を進める強権的国家なのである。

 内政に問題を抱えた強権的政府は、対内的求心力の確保を対外的緊張の創出に求め、軍事的威嚇により支配領域を拡大することに熱心である。その意味において、現在の中華人民共和国の姿にかつての大日本帝國を重ねて考えてみることは役に立つはずである。

 軍事国家としての大日本帝國のご主人たちに、「日本国憲法」の戦争放棄の精神が理解し得るようには、私には思えない。中華人民共和国の強権的政府を支える党幹部と軍人たちが、「日本国憲法」の平和主義を尊重し、軍事的威嚇に依存した外交政策を修正して下さるようにも思えない。そのような期待が現実的であるとは、私には思えないのである(願望だけで国家の政策を決定することは許されない)。


 国家としての独立は、対外的にはまず外交の自主性の確保によって示されるものだと思う。軍事力の保有は外交の自主性の確保に有効だというのが私の考えである(詳細は「外交の自主性の確保と軍事力保有の有効性の関係」参照)。もちろん、保有する軍事力を外交上の威嚇の手段として用いろという話ではない(ましてや外交上の要求実現の手段として軍事力を行使しろという話ではない)。保有する軍事力を外交上の威嚇の手段として使用しようとする国家に対し、その無効化の手段として、一定の軍事力の保有は役に立つという現実的な話であるに過ぎない。

 現に、中華人民共和国は、南沙諸島において、保有する軍事力を背景に(軍事力を威嚇の手段として用い)、支配領域を拡大しているのである(係争の相手であるベトナムやフィリピンには中華人民共和国に対抗し得る軍事力の備えがなく、軍事的解決―軍事力の発動―を望まない米国の姿勢を見越してのことである)。

 「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という点に「日本国憲法第9条」の核心を見出すならば、先の意味においての軍事力の保有は、必ずしも現在の日本国憲法の精神に反するものでもないだろう(国際紛争を解決する手段として武力の行使を厭わない国家に対して、武力行使の試みを躊躇させる目的での軍事力の保有、ということである)。「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とは、いずれ実現されるべき理想として位置付けるべきであって、その性急な原理主義的実行を求めることは実際的ではないように、私には感じられる。

 非武装を主張するのであれば、非武装が理想状態であるから非武装を選択するということではなく、非武装が現実的であるから非武装を選択することを、希望的観測や願望ではなく政治的リアリズムの帰結として示すことが、まず求められるのである。



  問われているのは、日本国憲法の楽観主義をもって、大日本帝国に立ち向かうことが出来るものであるのかどうか、ということなのである







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Binder: 現代史のトラウマ(日記数:647/全体に公開)
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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2016/03/30 19:53
    前半終了。
    続きは明日にでも。

  • Comment : 2
    やわらか☆不思議猫
     2016/03/31 20:10
    そもそも現代はいまだに帝国主義時代が続いているわけですからね。戦争に負けて大日本帝国が瓦解したときに、世界中の帝国主義が終焉したと勘違いしている日本人……

  • Comment : 3
    umasica :桜里
     2016/03/31 23:48
    後編と併せて、ココログ版の「現代史のトラウマ」記事としてアップ。

     トランプのルール
     http://uma-sica.cocolog-nifty.com/blog/2016/03/post-0042.html

  • Comment : 4
    umasica :桜里
     2016/03/31 23:52
    >世界中の帝国主義が終焉したと勘違いしている日本人……

    「あの戦争」の際の認識の甘さの裏返し、なんでしょうかね?
    戦中戦後、認識の甘さには一貫性がある、ということで…

  • Comment : 5
    やわらか☆不思議猫
     2016/04/03 09:56
    >認識の甘さには一貫性がある

     「平たい顔族」ではなくて、「願望を事実と思い込む族」であると思われ。

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