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トランプのルール (後)

2016/03/31 22:57

 

 さて、ツイッター上での橋下徹氏の、

 

  沖縄の米軍基地をなくしたい人たちへ。トランプ氏が大統領になればすぐに沖縄米軍基地はなくなるよ。朝日新聞、毎日新聞、沖縄米軍基地反対派はトランプ氏を熱烈応援すべきだ。

 

…との発言について、古谷経衡氏は「無論この発言は、リベラルメディアへの揶揄を含んでいるが」と評していたわけだが、同時にトランプ氏自身の主張の帰結として、「そうなると、逆説的には「対米従属」から日本は「強制的に脱却」する、という流れが強まる。中国の海洋進出や北朝鮮の核の脅威に、日本はアメリカの援護なしに自主防衛の道を余儀なくされるだろう」と論を展開していた。前回は、この帰結が非武装論を掲げるサヨク的(と一般に考えられている)人々にどのような影響を与え、どのような事態に直面させられ、何を考えねばならないのかを考えてみたわけだ。


 一方、古谷氏はその先で、

 

  現在のところ、日本の保守論客からは、トランプが白人ブルーカラー層から支持をされている点に着目して、民主党候補のサンダースと同様に反グローバリズムの視点から評価を下しているもの(三橋貴明氏)、既存メディアのタブーを突破して過激な言説が受けている姿勢そのものを評価するべき(田母神俊雄氏)などといった声が上がっている。

  特に後者の、「トランプが既存メディアのタブーに果敢に挑戦する姿勢」を日本の国内状況に重ねあわせ、リベラルの姿勢を糾弾するもの(馬渕睦夫氏)など、「反メディア」の観点からトランプを評価する視点が多数であり、日本国内の「ネット右翼(ネット保守とも)」にもそのような風潮は根強くある。つまり反メディア、反リベラルとしてのトランプ評価(そしてそれを日本国内の状況に援用する)が圧倒的であり、いずれも「対米従属からの脱却」という視点での声は鈍かった。

  が、前述の橋下氏のように「対米従属からの脱却」という視点からトランプを「逆張り」で評価する声も出始め、例えば憲政史家の倉山満氏は自身の動画番組で「(トランプが大統領になった場合)日本が自主独立を果たす最後のチャンスになる」(2016年3月13日)と肯定的な見解が保守正面から出始めている。

 

…と、保守(あるいはウヨク的)層の反響がどのようであるかを示している。続けて古谷氏は(私なりに要約すれば)、

 

  従来からの(主流派としての)親米保守=トランプ批判

  所謂「ネット保守層」=「反メディア」「反リベラル・左派」としてのトランプ支持

  反米保守=「日本の対米従属脱却」という視点からのトランプ大統領待望論

 

…と分析し、「トランプをめぐり三分される日本の保守層」として論じている。「ネット保守層」については、そのトランプ支持は心情論以上のものではないと考えられるが、つまり大統領としてのトランプ氏が日本に(そして国際社会に)もたらすであろう政治的影響を知的に分析した上での判断ではないと考えられるが、従来からの親米保守は、米国の存在に支えられた現在の国際法秩序(いわゆるパクス・アメリカーナであり、その中で日本が利益を得ていると考えられている)がトランプ大統領の登場によって崩壊することを危惧し、だからこそ安倍首相も新聞記者に対し、

 

  次の米国大統領が誰になるにせよ、日米同盟は日本外交の基軸であり、アジア太平洋や世界の平和と繁栄のために米国と緊密に協力をしていくことに変わりはないと考えております

 

…と、自身の期待を言葉にして見せているのである。

 現実には、安倍氏が「日米同盟は日本外交の基軸であり、アジア太平洋や世界の平和と繁栄のために米国と緊密に協力をしていくことに変わりはない」と希望したとしても、大統領選挙でトランプ氏が選出されてしまえば、「太平洋地域の平和維持に貢献することが米国の利益になるという考えを否定」し、「米国のことを第一に考える」を原則とし「米国は国際社会の平和と安定に、カネも軍事力も費やすべきではな」いと考える大統領の下で、米国は「孤立主義」政策へと転換することになる(トランプ氏が誠実に自身の主張を実行に移すとすればの話ではあるが)。安倍氏の言葉の背後には、そのような事態への危惧があることくらい読み取っておくべきであろう。

 そもそもの話、野党党首の岡田氏の指摘するように、「(在日米軍)基地は日本防衛のためだけでなく、米国がアジアでプレゼンスを確保するためにある」のである。その点については既に尖閣の領有権問題に関連させて、

 

  まずここで忘れてはならないのは、あるいは誤解してはならないのは、米国からすれば「日米安保条約」は、形式的には、日本防衛という日本の国益のための条約であるにしても、実質的には、太平洋(そして極東)における米国の地位の維持という、米国の国益確保のための条約だという事実であり、日米安保条約の米国から見た現実的意味合いである。


  理路としては、米国が日米安保条約に基づき、日本のために(日本の防衛のために)戦争をするのではなく、米国の利益の維持のために、日米安保条約を口実に米国のために戦争をすることになるということ。

  日米安保条約の存在する現状は、単に日本に有利なだけでなく、既に米国の利益にも合致しているのである。

 

…と指摘してある通りだ(たとえば「集団的自衛権論議と外交と軍事のリアリズム」参照)。

 

 米国が国際社会への積極的介入主義(「国際協調主義」と呼ばれているが)を維持し、その下で日米同盟が存続する限り、安倍氏が立憲主義に反してまで手に入れた「集団的自衛権」で米国に媚を売る必要などなかったはずなのである。

 トランプ大統領の誕生で、その「集団的自衛権」の価値も大きく低下することになるだろう。

 米国が国際社会への積極的介入主義から孤立主義に転換したとすれば、地球規模での米軍の展開の時代は終わり、米軍が国外での攻撃の対象となる可能性は低下し、集団的自衛権に基く自衛隊の出る幕も無くなる(これ自体は悪い話ではないが、反対に米軍の代理の軍事力として駆り出され続けることになるかも知れない)。しかも、同時に米国にとっての日本の地政学的価値は失われ、たとえ(トランプ氏の要求通りに)在日米軍駐留経費を全額日本が負担するようになったとしても、米国には「日本の防衛」のために軍事的に介入する積極的理由はなくなってしまう(となれば、米軍は頼りになる存在ではなくなってしまうだろう)。そこでは、米国にとっての日米同盟の価値は限りなく低下しているのである(そもそもトランプ氏自身は日米同盟に価値を認めていない)。

 だからこそ、これまでの保守の主流的位置にいた親米派の人々にはトランプは受け入れ難い存在ということになっているのだ。

 もっとも、安倍氏がその「集団的自衛権」だの「積極的平和主義」だのを、今後の日本の地球規模での軍事力を伴った積極的介入主義の起点として位置付けているのだとしたら話は違ってくるが、現実的に考えれば、日本には米国の撤退した世界で米軍の肩代わりをする力量はない(軍事的にも外交的にも)。

 

 

 サヨク的心情主義に対して「保守」がどのようであるのかを考えれば、「保守」もまた心情主義者であることに違いはない。

 心情主義に彩られたサヨク的平和主義に対しては、それが「親米保守」であろうが「ネット保守」だろうが「反米保守」であろうが、「空想的平和主義」とのレッテルを貼ることにおいては意見を共有しているようである。

 

 しかし、「空想的平和主義」批判に熱心な側もまた、現実的思考が得意というわけではないように見える。

 古谷氏によれば、反米保守(ただし古谷氏は「反米」という直接的表現は用いてはいないが)は「日本の対米従属脱却」という視点からの「トランプ大統領待望論」を展開する人々である。そして「空想的平和主義」を嘲笑し、軍事力保有とその強化の必要を主張する人々でもある。

 対米従属を脱却した日本が、軍事的に自立することによってこそ、「真の独立」の達成が可能になる。そのように考える人々でもあるだろうし、軍事力の強化が外交力の強化を意味する、と考える人々でもあるだろう(この点においては、親米保守もネット保守も同様であろう)。

 確かに(先に指摘したように)、現代世界においても、軍事力の保有は外交の自主性の確保の基底として役に立つ(「必要条件」と言ってもよいだろう)。保有する軍事力を威嚇の手段として用いることで、外交的問題の解決を図ろうとする国家は現に存在する(もちろん米国はその代表である)。それが現実である。そのような国家に対し、軍事的威嚇を無効化する手段としての対抗的軍事力を保有することには意味がある(それによって、軍事的威嚇に屈することなく、外交の自主性の確保が可能になる―つまり国家としての独立が維持される)。

 しかし、自らが軍事的威嚇を外交の手段として位置付けてしまうに至れば、その向うところ、軍事力だけが決着の手段となってしまうのである。

 必要なのは外交的力量なのである。外交に未熟なままで軍事力だけを決着の手段としてしまえば、日本には国際社会の中で生き残る可能性はない(既に「先の大戦」でも示されたことである)。

 保守一般に、日中関の紛争の解決法として軍事的決着を予期する中で、保有する軍事力をその手段として位置付けようとする傾向があるが、しかし、これは想像力の貧しさを自ら表明しているものであろう。特に(これまでに論じてきた)トランプ大統領の誕生という事態を考えれば、日米関係もこれまでのような「同盟」ではなくなってしまうわけで、同時に米中の対立関係もこれまでとは異なる様相に移行する可能性が大きい。米中同盟と日本の対立という事態さえ「想定内」としなければならないし、「米中露」と日本の対立という事態さえ現実となり得るのである。そこで軍事力での対抗は論外である。

 つまり、米国の孤立主義化と日米同盟の空洞化は、日本に、軍事力による問題解決をより困難にする状況をもたらすのである。軍事力に依存すれば何とかなる的発想は捨てねばならない。


 トランプ氏の日韓の核武装についての主張は、


  対話集会の司会者はトランプ氏が日本と韓国の核兵器保有を容認した発言を繰り返し質問。核拡散防止条約(NPT)による不拡散体制を否定すれば、米国の優位性を揺るがす大きな政策転換になるからだ。
  だが、トランプ氏は政策を変更する可能性があると指摘し、「北朝鮮が核兵器を持っているのだから日本も持った方がいいということにならないか」と問いかけた。また、「日本が北朝鮮に対して防衛力、攻撃力を持った方がいい。米国は引き金を引きたくない」と語り、日韓双方に自主防衛の努力を促した。
     (産経新聞 2016/03/31 07:55)


…と報道されている理路を持つものだが、これに対し日本政府は、


  トランプ氏が日本の核保有を容認する考えを示したことについては「『持たず、つくらず、持ち込まず』の非核三原則は政府の重要な基本政策だ。今後も堅持していくことは全く変わらない」と語った。
     (産経新聞 2016/03/28 12:19)


…との基本姿勢を示している。一方で野党勢力の中には、


  おおさか維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)は29日、「完璧な集団的自衛権の方向にいくか、自国で全て賄える軍隊を備えるのか、今こそ政治家が議論しなければならない」と述べた。その上で「自国で武力を持つなら最終兵器が必要になる」とし、安全保障環境次第では日本の核武装も議論の対象にすべきだとの考えを示した。府庁で記者団に語った。
  松井氏は、米大統領選の共和党候補指名争いで首位のドナルド・トランプ氏が在日米軍撤退の可能性などに言及したことに触れ、「聞こえないふりをするのは無責任極まりない」と発言。安全保障関連法も変更を検討すべきだとした。「核保有も否定しないのか」と問われ、「僕はやめた方がいいと思うが、夢物語で何とかなるではすまない」と語った。
     (毎日新聞 2016/03/30 13:32)


…と認識も表明されているし、この松井氏の見解は、与党自民党議員の中にも(そして保守層の中にも)共感者を持つものであろうと思われる。
 しかし、この点に関して米国政府は、


  アーネスト米大統領報道官は30日の記者会見で、大統領選の共和党候補指名争いの首位に立つ不動産王ドナルド・トランプ氏(69)が日韓両国の核武装容認を主張していることについて、「信じられないほど(地域情勢が)不安定化する」と批判した。
  その上で「自分の言葉と政策決定から生じる結果を理解できる最高司令官」を選出するよう、国民に訴えた。
  アーネスト氏は「トランプ氏の主張は、米国が長い間追求し、国際社会が支持してきた政策と正反対だ」と指摘。「核兵器計画を加速させる言い訳と動機を北朝鮮に与えるのが、なぜいい考えなのか、想像しがたい」と語った。
     (時事通信 2016/03/31 07/28)


…との認識を示し、トランプ氏の主張の乱暴さを指摘している。私は、このアーネスト報道官の見解に同意する。現在の核不拡散体制(つまり「米国が長い間追求し、国際社会が支持してきた政策」である)に満足すべきとは決して思わないが、しかし、アーネスト氏の指摘するように、トランプ氏の主張は「兵器計画を加速させる言い訳と動機を北朝鮮に与える」ものとして帰結するのは確かであり、現在の核不拡散体制を崩壊させ(そこで核武装を正当化するのは北朝鮮だけではない)、増加するであろう核保有国の核兵器使用へのハードルを低くさせ、人類をより危険にさらすことにしかならない。
 この点において、トランプ氏を支持するのは愚かである。



 求められるのは外交的賢明さであり、外交的巧妙さである。

 自らが心情主義に溺れながらサヨク的「空想的平和主義」を批判しても、自己満足以上のものにはなり得ない。まず、「現実」という地に足が着いていない現状を脱却することから始めなければならないのは、「保守」の側も同様なのである。










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