ジージさんのマイページ

妖精たちが降りた森

2012/02/11 11:17


 男の子は救援団体の仕立てたバスから降りかけてステップに立ち止まりました。両手で鼻と口を押さえながら、きらきらまぶしい午後の光をにらみつけています。 なんだか、降りるのをこわがっているようです。見かねて手を差しのべると、「これ、さわってもいいの」と、舞い落ちる枯れ葉を、こわごわ指差します。バスの外にあるのは、赤や黄にかわった枯れ葉を、いっぱいかかえこんだ森です。 風が吹くたびさやさやと音がして、いつまでも枯れ葉が舞い続けます。この森は、ぼくのお決まりの散歩コースでした。 まじりっけない、すきとおった空気のおいしさをからだいっぱいに感じながら、森の音を聞き、森の色を見、森のにおいを感じ、心に染み込ませるのが好きでした。 でも、男の子は身をちぢめ、上目使いにあたりをみまわし、息を吸うのさえためらっているみたいです。「いいんだよ、ここでは」 そういいながら、落ちてくる葉っぱを手にとりました。地上にある枯れ葉をつかんで、ぱっと頭の上へほうりなげました。 枯れ葉たちはまた空へもどれたことを喜ぶように、金色に輝く光の中で、くるくるとダンスをしています。ときどきぶつかり合い、からからとささやきあっています。風にのって、いっせいに舞い降りてきます。「こんなことができるし、こんなことだってできるんだ。マスクもいらないんだよ」 ぶあつく積もった枯れ葉の上へ横になり、ごろごろ転がりました。わずかに残った湿りのなかへ、顔を埋めてみせました。「うーん、いいにおいだ」いいながら、あおむけの大の字になって、また両手いっぱいの枯れ葉をぱっと空高く放り上げました。でも、調子に乗りすぎたようです。枯れ葉はすぐ頭の上に落ちかかり、「こりゃたまらん、わはは」 ぼくは大笑いしていました。男の子はたしかめるように伏し目で見ていましたが、ぼくの笑い声で元気づけられたようです。きゅうにあかるい顔になると、大きな声でバスの中へよびかけました。「すごいよ。ここではマスクをしなくていいし、さわっても、寝転んでも、思いっきり息をしてもいいんだ」 するとどうでしょう。とつぜん「わあっ」という声が上がり、バスがどすどすゆれて、窓からたくさんの顔がのぞきました。 ステップから、男の子がいきおいよく飛び降りてきます。舞い落ちる枯れ葉の中に飛び込みます。積もりに積もった葉っぱの上を、走りまわります。「マスクなしなんて、ひさしぶりだ。みんな出ておいでよ」 男の子の声が、森にひびきわたります。 葉っぱにさわって、しげしげながめていたかとおもうと、鼻に押しあててにおいをかいでみたり、胸いっぱいに深呼吸してみたり。 風がたち、葉っぱが手をつなぎ、ぐるぐるとうずになって男の子をとりかこみ、ダンスを踊っています。 爆発したような笑顔にびっくりしてみとれていると、バスから声があふれだしました。息をつめていた子どもたちが、いっせいに飛び出してきます。 たくさんの枯れ葉が、あたりいちめんにはじけた歓声とまざって、青空へわんさか舞い上がっていきます。「よかった」 ほっと一息ついたとき、ポケットの線量計に指がこつんと触れ、ぼくはいまどこにいてなにをしているのか、思い出しました。ーこの子たちが、これからもずっと、森とともに、いられますようにー ぼくは小さい箱をにぎりしめながら、ぼくの心にむけて祈りました。



Tags: 物語
Binder: ジージのバインダー(日記数:397/全体に公開)
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