| 件名: | 『潜水服は蝶の夢を見る』 |
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| MLNo. | [book_love:0673] |
| 差出人: | かつきさん |
| 送信日時: | 2002/12/31 20:28 |
| 本文: |
こんばんは、かつきです。
今年最後の本の紹介をしたいと思います。 アオナナさんに指摘されてしまいましたし(笑い)。 とその前に、今年は大変お世話になりました。 来年も長ったらしい、私の紹介文にお付き合いくださいますよう、 またいろいろな本のご紹介をお願いいたします。 そして楽しい時間を作り出せますように。 さて、以前タイトルと著者の概略だけご紹介した『潜水服は蝶の夢を見る』 (ジャン=ドミニック・ボービー 河野万里子訳 講談社)を改めて ご紹介します。 著者のボービーは1952年生まれのフランス人。ジャーナリストを経て、 女性ファッション雑誌『ELLE』の編集長として、名を馳せます。 しかし1996年12月8日、突然脳出血で倒れます。3週間の意識不明後、 「ロットイン・シンドローム」(LIS)という、全身麻痺で、しかし意識も 知能も全く元のままの症状に陥いりました。彼の体の中で唯一動くのは 左のまぶただけ。もちろん視覚は左の目だけ。聴覚も失いつつあります。 ベルク海軍病院で、彼は出版社から派遣されたクロード・マンディビルと ともに本を書き始めます。クロードが、学問的に計算された、フランス語の 単語を作り上げるのに使用頻度の高い順にアルファベットを読み上げます。 「E S A R I N T U L O M D P C F B V H G J Q Z Y X K W」 そしてボービーはあらかじめ頭の中に作っていた文章に沿って、 その当てはまるアルファベットのところで、左のまぶたを1回パチリと つぶります。そしてクロードは最初から始めます。 「E S A R I・・・・・・」 そのようにしてこの『潜水服は蝶の夢を見る』は書かれました。 この本はプロローグと28の短いエッセイから成ります。 プロローグはこのように始まります。 古ぼけたカーテンの向こうから、乳色に輝く朝がやってくる。踵が 痛い、と僕は思う。頭も痛い。鉄の塊がのっているようだ。体じゅう、 重たい潜水服を一式、着込んでしまったようなものだ。 潜水服に例えられた彼の重い体。そして読み進めるとすぐに蝶が舞います。 潜水服も、わずかに軽くなったような気がする。すると僕の心は、 蝶々のように、ひらりと舞い上がる。したいことはたくさんあるのだ。 僕は、時も場所も越えて、蝶々の姿のまま飛んでいく。南米の島ティ エラ・デル・フエゴへも、ギリシャ神話のミダス王の宮殿へも。 それから愛しい女のもとへ行き、そのかたわらにすべり込んで、ま どろむ顔をやさしく撫でようか。それともスペインに城を建て、神話 の黄金羊毛を手に入れ、伝説の島アトランティスを発見して、子供の 頃の夢と、大人になってからの憧れを、みんな実現させてみようか。 蝶は彼の心、想像力。彼のベッドの上の新しい人生、新しい一日、過去、 思索、退屈な病院を美しく物語る言葉の数々。潜水服に例えられた、 重く硬く痛く冷たい体の状態とは対照的な、軽やかでエレガントな言の葉。 それを生み出す力強さ。それらがページをめくる毎に舞い上がります。 彼の細やかな感性は蝶のように飛び跳ねます。 僕はある日、この病室で、僕専用の特別なアルファベットをもらっ た。その一文字一文字を、とても愛している。 夜、真っ暗になった病室の中で、昼間の生の痕跡をとどめるものは といえば、わずかに光るテレビの小さな赤いスイッチだけとなった時、 そのアルファベットの文字たちは、僕のために、シャルル・トレネの 歌に合わせて陽気に踊り始める。 −−ヴェニスよ、美しき都よ、忘れられぬ甘き思い出・・・ 母音も子音も手に手をとって連なり、部屋じゅうに広がったかと思 うと、ベッドを囲んでまわり、窓辺をめぐり、曲がりくねりながら壁 をのぼってドアのところまで駆けていき、そこからまたふわりと戻っ てくる。(「アルファベット」より) 彼は、特殊なアルファベットを与えてくれた語学療法士サンドリーヌの胸の 名札には、本当は<守護天使>と記されるべきだ、と書いています。 (「守護天使」)サンドリーヌは彼のために他にもコミュニケーションの 方法を作ってくれました。 この『潜水服は蝶の夢を見る』が好評で、2冊目の本の用意をしていたにも かかわらず、彼は1997年3月9日、感染症のための合併症で、 突然亡くなります。 彼は最終章「新しい季節」でこのように結んでいます。 僕はとまどい、考え込む。この宇宙のどこかに、僕の潜水服を開ける 鍵は、あるのだろうか? 終点のない地下鉄路線は、あるのだろうか? 僕の自由を買い戻すことのできる通貨は、あるのだろうか? いや、と にかく、違うところを探してみなくてはならないのだ。 ならば、僕は行こう。そこへ。 最後に所蔵図書館です。 点字:奈良県視覚障害者福祉センター、東京都墨田区あずま図書館 |
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