umasica :桜里さんのマイページ

法と道徳の間 (現代史のトラウマ 32)

2007/04/29 23:46

中教審会長の山崎正和さんの発言が、最近では面白いニュースだったと思う。



 山崎中教審会長「道徳・歴史教育は不要」


 中央教育審議会の山崎正和会長は26日の日本記者クラブ主催の会見で、個人的な意見と断った上で「価値観が多様化する中、倫理的問題は学校になじまない。道徳を学校で教える必要はないと思う」と述べ、道徳教育は不要との考えを示した。歴史教育についても「我が国の歴史はこうだったと国家が決めるのは間違い」と強調した。

 政府の教育再生会議は小中学校で道徳を「徳育」として正式教科にすることを検討している。中教審の審議は学校教育のあり方に深くかかわるだけに、発言が波紋を投ずる可能性もある。

 山崎会長は「社会の価値観が多様化する中、決着のつかないことが多い倫理的問題は学校になじまない」と指摘。妊娠中絶や、勝者と敗者を生む競争社会など是非をめぐって意見が割れる問題を例に挙げ「点数を付けられるものでもなく、学校で簡単に教えられない。代わりに民法や刑法などの順法精神を教えればいい」と持論を述べた。(23:00)

(NIKKEI NET 4月26日)


というものだ。

興味を引かれたのは、道徳教育は不要という論と共に、「代わりに民法や刑法などの順応精神を教えればいい」という発言だ。

「道徳」の教科としての適切性への疑問と共に、「順法精神」教育の必要性が語られている。
ここでは、「法」が「道徳」に対比されている。

法とは成文化されたものだ。明文化されたと表現すべきかもしれない。
誰に対しても、誰の行為に対しても、一義的に(なることを目指して)明文化された法の条文が適用される。
また、法は、立法府(議会)によって制定・承認されるものであり、少なくとも手続き上は、国民多数の合意に基づくものである。
また、法は罰則を伴うこともあるが、それも明文化されており、その執行は行政機関にゆだねられる。
法の執行が個人の恣意によることはあってはならない。

道徳は、内面的倫理を中心とする、共同体により形成・共有された、行為への価値基準であり、成文化されたものではない。
たとえ同じ集団に属していても、価値判断の基準は異なり、一義的なものとは言えない。


中教審の山崎会長の発言は、このような両者の性格を十分に理解した上での見識あるものと、私は思う。特に価値観の多様化した現代において、教科として一義的に道徳教育をすることの問題を見据えての発言と考える。


政府主導の教育再生会議での、「道徳」の教科化への提言に比べた時に、山崎発言は光る。

現政府は道徳教育推進には熱心である。その意を受けての教育再生会議での提言であろう。
しかし、皮肉なことに、私たちはここで、あの「なんとか還元水」をめぐる大臣の発言を思い浮かべざるをえないだろう。
何より倫理的問題(=道徳的問題である)を問われているにもかかわらず、「法的に問題ない」という弁明で、問題追及をかわしたのである。
道徳など問題ではない、それが安倍内閣閣僚自らの発言の意味するところなのだ。

山崎正和氏の道徳教育をめぐる見解は、現内閣に対する皮肉として発せられたものではないと思うが、そのような文脈において眺めてみると、実に味わい深いものだと思う。


読売新聞によれば、山崎発言には、

 道徳は教科で教えるべきではなく、教師や親も含めた大人が身をもって教えるべきだ。科目として点数をつけ、教科書を使う教科とすることは無理があると思う。

というくだりもある。松岡大臣、身をもって子供たちに何を教えたいのか?

          (画像は、「ミイラ化しつつある花」4週間経過 ← 本文とは何の関係もありません)


Binder: 現代史のトラウマ(日記数:656/全体に公開)
Gg[ubN}[N
最新コメント

  • Comment : 1
    まみちゃーな
     2007/04/30 01:31
    最近ゆえあって法律を勉強しています。
    学生時代、偶然法律系の科目を一つも取らずに通ってしまったので、驚くことが
    まあ多いです。

    そして、この日本という国は、ものすごく法律がややこしくて、しかも知らずに
    「損」してしまう人に対して、たいへん冷たいことがわかりました。
    法律を知らずに損してしまったのは、法律を知ろうとしない本人がイケナイのです。

    そんなシステムの国であったことに、この年(18歳)になって気がつき、愕然です。
    今まで、あんなこともこんなこともできたのに、知らずに権利を行使できませんでした!

    そんな国であるならばこそ、ごく簡単でいいので、高校までに最低限の法律を
    教えてほしいですね。道徳の問題とは別にしても。

    ちょっと日記の内容からはずれましたが、今痛切に感じていることです。

  • Comment : 2
    にんにん
     2007/04/30 09:45
    、税務署が、税金を取れる申告のときは質問してくるけど、還付申告の見逃しはわざと放置する、みたいな。


    なんか、汚職があるたびに、やった側の人間の所属する政党なり会社なりが、「心が無かった」とか「道徳、倫理の問題だ」「コンプライアンスだ」と言います。うちの父の勤める大手企業で不祥事があったときも、利益を上げるために違反と知りながらあえてGOサインを出した最高責任者がこの「コンプライアンスだ、法令順守義務を現場が守るべきだ」と言ってごまかそうとしました(しかもうまいことうやむやになりかけました)が、この倫理、道徳の押し付けって、結局そういう機能にしか働かないように思います。二度と起こしたくなけりゃ、起こす構造ごと分析して改めなきゃなりません。


    まみちゃーなさんの言うこと、わかります。うちの国は、憲法をはじめ、法律に関しても、国民に知ってほしくないんでしょうね。例えば労働基準法についてみんなが知ってしまえば、現場の違法も少しはマシになる。自治体なりが完全に教えきる体制なども提案されてるんですがねぇ。

  • Comment : 3
    にんにん
     2007/04/30 09:55
    道徳倫理教育の押し付けに熱心な政治家の方々で、政党助成金と、企業団体献金に反対の立場を貫ける人が一人でもいらっしゃるかどうか、でも試金石になると思う。これが無くならない限りどれだけ「心」とやらを鍛えるふりをしてもムダでしょ。賭けてもいい。このままの仕組みでは、彼らが(ポーズだけでも)頭を下げ続けた問題は根絶できないですね。


    …刺激的な日記だからコメントも長くなってしまった。めんご。にんにん

  • Comment : 4
    しんすけ
     2007/04/30 19:56
    umasica :桜里さん、こんばんわ

    山崎正和さんって『世阿弥』を書かれた方ですよね。

    彼の幽玄の世界への文章は、中世史を知るもののによって書かれたものとして感心させられたものでした。

    道徳不要というのは判るのですが、歴史不要というのは気持ちが判りません。
    韓国や中国のように、その国本位の歴史を教えるのは意味がないということなのでしょうか。

    僕の高校時代の日本史教師は愛国党の赤尾敏のような人でした。
    彼の日本史授業を面白く聞いていた僕は最後には、その教師とは正反対の考えをするようになりました。

    考える教育が存在した時代の話です。

  • Comment : 5
    umasica :桜里
     2007/04/30 20:22
    まみちゃーな様

    法の問題をきちんと教えないというのには問題ありだと思います。

    文部科学大臣の、かの「人権メタボ発言」の問題の底にも、法に対する無理解が潜んでいるようにも思えます。
    権利・義務の問題の根幹にあるのは「法」なのだと思います。
    そして、法は国民の代表により構成される立法府で作られるものだということの意味も、きちんと理解されなければならないでしょう。
    そして、実際の法体系についても。

    道徳的問題とは別枠で、法体系が存在していることの意味も理解出来ないといけないでしょうね。

    なんかその辺のことがごっそり抜け落ちて、権利というよりはお上の利権に群がる国民という図式だけが、この国の現実のような気がして来ています。なんか情けない世界ですね。

  • Comment : 6
    umasica :桜里
     2007/04/30 20:38
    にんにん様

    コンプライアンス(法令順守)の問題も、下手をすると、法で禁止されていないことなら何をしてもよいという理解がされてしまいますよね。
    その辺に、道徳と法の微妙な関係があるようにも思います。

    実はこの問題を取り上げた直接の原因は、もちろん、教育再生会議のメチャクチャな議論と、松岡大臣の存在でした。
    もう一つ後押しをしたのは、友達限定日記で取り上げた問題です。

    つまり、個人情報保護を問題とした時に、星座情報というのは、まみちゃーなさんが指摘されたように、厳密には(法的には)保護されるべき個人情報ではないのかも知れない。しかし、この問題は、そのような形で争われるべき問題ではないだろうと考えたからでした。
    利用者が生年月日情報の非開示を設定してることの意味を考えれば、そのような形での情報利用はすべきではないというのが、倫理的=道徳的判断としてなされて当然であろうと、私は思ったわけです。
    当初はそこまで思い至らなかったにせよ、問題を指摘されれば、法的厳格さにおいて争う前に、他者(この場合は利用者)への配慮として、対処がされるべき問題ではないかと感じているわけです。

    そんな意味で、他人事ではなく、企業利益を追求する生活の中で、誰もが問われうる問題として書いておきたかったことでした(実際にはそこまでは筆が及びませんでしたが)。

    ……と、こっちも長くなってしまいました。

  • Comment : 7
    umasica :桜里
     2007/04/30 20:53
    しんすけ様

    あの、山崎正和さんですね。

    歴史教育の問題については、詳しい記事がないので、真意を測りかねるところもあるのですが、「国定」の歴史というものへの懐疑があるように推測しています。

    教科書検定の問題に重なるのだと思いますが、「歴史」というものを単一の唯一の正しい歴史があるという前提の下で教えることへの懐疑をお持ちのように感じました。

    NIKKEIの記述では「わが国の歴史はこうであったと国家が決めるのは間違い」という表現になっています。

    毎日新聞によれば、

     歴史教育についても、稲作農業が日本で始まった時期が変遷していることなどを指摘し「歴史教育もやめるべきだ」と述べた。

    となっていて、もう一つ真意がわかりかねるところなのですが、唯一の歴史記述を国家が管理するようなあり方への疑問のように私には思えました。
    稲作農業の例は、歴史記述の非確定性の事例として理解してみました。

  • Comment : 8
    s06007
    s06007さん
     2007/05/06 19:31
     あの山崎正和さんがまだ生きていたということも感動だし、発言の鋭さ面白さも一級ですね。道徳・歴史教育不要とは目からうろこ、今後議論が深まればと思います。法律は私は苦手なんです。大学の時、社会人の時、ちょろっとかじっただけですね。基本的に「損」だけしている人みたいなものかもしれませんね。でも現状は商売中心主義であるこの国家もその背景には民法、商法の概要がわからないと本当はいけないでしょう。何をやったらいけないか・・・刑法の概要からその中身を考えればあまり揉めなくて済みそうですね。今や一民族幻想はくずれつつあり、外国からのいろんな情報が入る世の中で、スタンダードもどんどん変化していく中での正義は法律ではないか、というのは説得力がかなりある様に思いました。今は法律教育は大学からではないでしょうか。この年齢を下げるというのも面白い発想ですね。

  • Comment : 9
    にんにん
     2007/05/06 21:30
    しんすけさんのコメを読み、再読してみて、歴史教育まで不要?って思いました。今の与党の皆さん:要するに教育を司ってる:が今の段階で歴史観を口にしたらアラが出過ぎるからか?とか思っちゃった。

  • Comment : 10
    にんにん
     2007/05/06 21:32
    いや、「国家が」と強調するんなら、現場の教師に任せてくれるのか…??

  • Comment : 11
    umasica :桜里
     2007/05/06 21:51
    s06007様
    にんにん様

    歴史教育をめぐる山崎発言ですが、この一連の発言をめぐる読売報道をご紹介しておきます。

     山崎氏は「中教審会長としては、委員の議論に耳を傾け、多数意見を文科相に伝達するだけだ。議論をリードする気はない。あくまで個人的な意見だ」と断った上で発言した。

    となっています。
    この点と、NIKKEIの「わが国の歴史はこうであったと国家が決めるのは間違い」という報道内容を考え合わせると、教科書検定を含む文部科学相主導の、つまり国家主導の歴史教育への批判であると感じてます。
    あくまでも私の解釈ということですが。

    国定の都合のよい歴史記述には、文部科学省も与党の皆さんも積極的だと思います。それへの批判に当たることを、中教審会長が、個人的見解であれ口に出したというところに面白みを見出しているわけです。

このブログにコメントをつけるには、ログインする必要があります。
マイページをお持ちでないひとは「マイページを作成する」ボタンを押してマイページを作成してください。
不適切なブログを見つけたら、こちらからご報告ください!

Mail Address(GMO ID):

Password:

自動ログインパスワードを忘れた方

最近書いたブログ


http://www.freeml.com/feed.php?u_id=316274&f_code=1



Copyright(C)2017 GMO Media, Inc. All Rights Reserved.