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生き残るということの意味

2007/08/27 22:55

生き残ることについて考えてみたい。


自分が生き残ることが、誰かの命と引き換えになってしまうような状況について。


昨日、「東京大空襲・戦災資料センター」を再訪し、展示品を見ながら、あらためて考えさせられたことだ。

実はこのところ、過去に録画したドキュメンタリー映像を見直していた。東京大空襲をはじめ、ヨーロッパの無差別爆撃の歴史や、爆撃機のエピソードといった映像である。

焼夷弾による都市無差別爆撃がもたらす被害には想像を超えているところがある。
火の勢いは、あまりに強く、1000度を超える熱さとなる。ガラスも融け、人間が燃える。熱風が生じ、嵐のように吹き荒れる。世界が燃える。燃焼により酸素が奪われ無傷のままに窒息死する。

安全な場所は誰にもわからない。

熱風は、人が逃げる速度を超えて吹き荒れ、火に追われてきたはずが、火に逃げ道を閉ざされる。
避難者の列が火の壁となる。燃える人間が道を塞ぐ。


必死で猛火の下を逃げまどい、結果として生き残っていたことに気付くのである。


かろうじての安全地帯も収容人数は限られている。入れた者は助かるかも知れないが、すべての者が逃げ込むわけにはいかないのだ。入り口は閉ざされなければならない。入れた者達が生き残るためには。
生き残った者は、翌朝には、逃げ込むことの叶わなかった者達のおびただしい無残な死体に出会う。
自分が生き残るために、彼らの死があった。

安全な防空壕に家族を残し、自分にはもう入る余地がないので炎の中を逃げ、翌朝、防空壕に戻ってみれば、全員が蒸し焼きになっていたという体験者もいる。
家族の安全を確保し、危険に身を投じたはずの自分が生き残り、家族は炎の犠牲となっていた。結果として、守ろうとした家族を殺したのは自分である。

安全な場所は誰にもわからない、とはそのような状況なのである。

プールに逃げた者もいる。後から後から逃げ込む人をかき分け押し戻しながら自分の場所を確保しないと、深みに追いやられ溺死することになる。朝を迎え、溺死した者達の積み重なった死体の上に立っていたことに気付く。死体の中に自分の家族の姿を見つける。自分の家族を踏み台にすることによって生き残ったということになる。


生きている自分、生き残っている自分について考えざるを得ない。他の者の死が、現在生きている自分を支えているのである。他の者の死と引き換えに、現在、生きている自分が存在するのである。
他の者が家族であり、愛する者であるという体験を想像出来るだろうか。

生き残ることが出来た喜びは、同時に愛する者を喪った悲しみであり、しかも愛する者の死に、自分が責任を負っているという感情に伴われるものとなる。


自分が生きるためには、人を押しのけることを当然と考える者も確かにいるだろう、この世の中には。
しかし、多くの人間にとって、自分が生き残ったことが、他者を死に追いやったことと引き換えに得られたものだという事実は、簡単には受け入れ難いものとなるだろう。もちろん、その状況に責任があるわけではない。しかし、引き換えとなって死んでいった者達への責任を感じることなく、その後の人生を生きることもまた難しいものとなるのである。


東京大空襲、あるいは都市無差別爆撃の犠牲者だけの問題ではない。戦争が究極的に個人にもたらすのは、そのような状況なのである。
中国残留孤児は、家族の犠牲となったのでもあるし、残留孤児となったために他の家族と共に死ぬことを免れていたかも知れないのである。残留させられることも、引き揚げることも、どちらも確実な生きる保障につながるものではなかったということだ。
最前線の兵士にとっても、強制収容所の被収容者にとっても、生き残るということは、誰かの死と引き換えにもたらされるものとなるのである。


都市無差別爆撃は、そのような状況を市民に強いるものとなった。

昭和20年3月10日、2時間の空襲で、被災者100万人、死者10万人だ。夜明けとともに、自分が生き残ったことは理解出来た。しかし、やがてそれは10万人の死と引き換えの生存でもあることに気付かされることになる。
一晩の空襲の結果、100万人もの市民が、そのような経験に巻き込まれたのだ。10人に一人の死者ということは、誰か遠くの知らない人間の死と引き換えに生き残ったのではなく、自分の命は親しい誰かの命と引き換えに得られたものだという経験として意味付けられることになるのである。

近代的戦争、総力戦が市民にもたらしたのは、そのような経験であったのである。


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最新コメント

  • Comment : 1
    s06007
    s06007さん
     2007/08/27 23:58
    私もN○Kのドキュメンタリーでたまたま出張先のビジネスホテルで東京大空襲のを見ました。まさにおっしゃるとおり、生き残った人は死者を踏んづけて自分だけ生き残ってしまったという負い目を持っている人ばかり3、4人の老人が自分の体験として語っていました。
    よくぞ白状してくれたと思います。それにしてもこんなことで生き残ってしまうとはさぞや生き地獄だったのでしょう。
    こういう人達を産む近代戦争は起こしてはならぬものとして、やはりもっと宣伝されるべき事態ですね。

  • Comment : 2
    umasica :桜里
     2007/08/28 13:54
    s06007様

    2時間で死者10万人、被災者100万人という出来事は、最前線でも経験されることはないのではないでしょうか。

    近代戦、総力戦下ならではでの都市無差別爆撃であり、民間人、一般市民の犠牲であったと考えられますね。

    支那事変の軍事的解決を国策として採用していく中で、大日本帝國は「国家総動員体制」を構築していったわけです。結局のところ、「総動員体制」とは軍人と市民の境界を取っ払ってしまう体制でもあるわけですね。

    「総動員体制」を支える論理と「都市無差別爆撃」を支える論理は実は同根である、という理解も出来そうに思いました。


    近代戦の実相を理解しないままに行なわれたのが、大日本帝國による、あの戦争であったという気もします。

  • Comment : 3
    あつこ
    あつこさん
     2007/08/28 21:47
    そういう こと なのですね、、、アメリカに住んでいる
    妹が、9月11日の 後、政府が、あのように 神経質に なったのは、
    アメリカ本土で ああいう 事が 起こったのは、はじめての経験だった
    からだと、言っていましたが、軍隊に まかせて、本土では、何事も
    起こらないと いう、枠が、はずれて しまった。。。近代戦武器さえ
    あれば、すまされる ものでは なくなった 、、、だから 止めよう
    と ならない のが、困るところ ですね。

  • Comment : 4
    こもさと
     2007/08/29 12:48
    生き残るということは、誰かの死と引き換えにもたらされるもの。
    そういう事実は、何年経っても、簡単には受け入れることはできないでしょう。
    考えてみたこともない事実でした。

  • Comment : 5
    umasica :桜里
     2007/09/09 18:28
    あつこ様


    9月11日以降、「テロとの戦い」が続いているわけですが、ブッシュのやり方では、まったく「世界はより安全になった」とは言えない状態です。

    そして、イラクで続いている戦闘は、正規軍としての米軍に対してイラクの軍隊が闘っているわけではありません。
    正規軍が、軍隊でない人々の抵抗に勝利することが出来ないわけです。

    21世紀における「戦争」の形を考える上で、見逃せない「事実」でしょうね。

  • Comment : 6
    umasica :桜里
     2007/09/09 18:34
    こもさと様


    大きな視野で考えれば、生き物の命をいただいて、私たちは生きているわけです。

    しかし、大空襲の下での体験は、被災者100万人、死者10万人。つまり、10人に一人の死ということになります。すべての被災者によって、顔見知りの人間の死が経験されているわけです。
    死んでいった者と、生き残った者の距離の近さは、生き残ったことを喜びとして味わうことを妨げてしまうでしょうね。本当につらいことだと思います。

  • Comment : 7
    あつこ
    あつこさん
     2007/09/09 22:45
    今日の 新聞に、ブッシュ大統領は、旧約聖書を 基にして、

    イラクの 侵入を、決めたとか ありました。

    宗教を 導入して、正当化する、その為に イスラエルは

    絶対に 守るべき国とか なって しまって いるのですね。。。

    判断する時に すでに 眼鏡が かかって いる。。。恐ろしい事です。

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