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田母神氏は『軍人勅諭』もご存じない?

2008/11/13 22:01

抑(そもそも)国家を保護し国権を維持(ゆゐぢ)するは兵力に在れは兵力の消長は是国運の盛衰なることを弁へ世論に惑はす政治に拘らす只々一途に己か本分の忠節を守り義は山嶽よりも重く死は鴻毛よりも軽しと覺悟せよ其操を破りて不覚を取り汚名を受くるなかれ

 → http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/gunnjinntyokuyu.htm



…と、『軍人勅諭』には書かれている。



もちろん、注目点は、


 世論に惑はす政治に拘らす


という一節であろう。



大日本帝國は、大東亜戦争の結果、滅び去ったわけであるが、昭和期の大日本帝國における特徴的事態として、軍人の政治への積極的関与が指摘出来るだろう。

端的に言って、まさに、軍人の政治への直接的関与、政治過程における軍人の直接的権力行使こそが、大日本帝國の滅亡をもたらしたのだということは、日本の近代史を語る上で、銘記されるべき事項であることは否定し難い。


昭和期の軍人が、『軍人勅諭』の精神を踏みにじり、政治に介入し、政治を軍事に従属させた果てに、ポツダム宣言の受諾という実質的無条件降伏にまで、国家を至らしめたということは、この国の歴史的経験として深く認識されるべき事柄であろう。

自国民と他国民の身の上に、膨大な犠牲を強いた果てに、大日本帝國は滅びたのである。

軍人勅諭の精神を踏みにじり、人々の命を踏みにじり、大日本帝國の存在を踏みにじった者こそが、昭和期の指導的軍人であったことを、決して忘れるべきではないのである。もし、自分を愛国者であると考えようとするならば。


自らの所属する国家を滅ぼし、多数の国民を死に至らしめたことの責任は大きいだろう。かつての大日本帝國における、政治を軍事に従属せしめるような事態を作り出してしまった高級軍人達の責任の大きさから目をそらさず、その責を追求し続けることこそ、愛国者であることを目指す者の義務ではないだろうか?




昨日、引用した猪木正道氏の言葉を、ここで再び読み返すことも、問題の理解の上で必要なことと思える。

猪木氏が、


 軍国日本が自爆したのは、軍に立憲国家を超えた特権的地位を与えた結果である。日露戦争に勝ってから、日本の軍人におごりが生じたのは、無理もない。しかし満洲を中国から切り離して日本の支配下に置こうとする野望に対しては、1906年5月の”満洲問題に関する協議会”で、元老伊藤博文がきびしく児玉源太郎参謀総長を叱ったように、文民統制を貫徹するべきであった。


 国際協調主義を堅持していたかぎり、日本の軍事力は国民からも外国からも信頼されて、わが国の興隆の原動力となった。軍事力が暴走しはじめた時、わが国は国際社会に孤立して、自爆ないし自殺に追いこまれたのである。
 (猪木正道 『軍国日本の興亡』 中公新書 1995)


と書いていた、その意味を、深く認識しなければならない。




まさに戦後日本は、その反省から、シビリアン・コントロール(文民統制)を、政治過程の基本原則としたのである。


その上に、自衛隊法も存在するわけだ。自衛隊法では、


(政治的行為の制限)
第六十一条  隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。
2  隊員は、公選による公職の候補者となることができない。
3  隊員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。


と定めている。


『軍人勅諭』においてと同様に(と言ってよいのかどうかはわからないが)、「自衛隊法」においても、軍人としての自衛官には、政治的行為からの距離が求められているのである。


航空幕僚長であった田母神俊雄氏の、「日本は侵略国家であったのか」というタイトルの「論文」(http://www.apa.co.jp/book_report/images/2008jyusyou_saiyuusyu.pdf)の内容は、集団的自衛権をめぐる主張はもちろんのこと、歴史解釈への言及自体が、非常に政治性を帯びたものとなっている。


「論文」の発表にとどまらず、防衛相による処分への反発まで公言するようでは、田母神氏の行為は、文民統制の精神をはなはだしく逸脱しているものと言わざるを得ない。


『軍人勅諭』の文言を用いれば、田母神氏の、「世論を惑はし政治に拘り」という姿勢こそが問題、ということになるわけだ。




かつての大日本帝國の高級軍人達の、『軍人勅諭』の精神からの逸脱は、亡国の事態を招いた。


今回の、航空幕僚長であった田母神俊雄氏の「文民統制」の精神からの逸脱、「自衛隊法」の精神からの逸脱も、その放置は、やがての新たな亡国にまで発展しうる、大きな危険性を秘めたものであると考えておくべきであろう。


もし、自分を愛国者であると考えるならば。






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最新コメント

  • Comment : 1
    しんすけ
     2008/11/14 12:34
     11日にリンクされていたURLで「田母神論文」を読んでみました。
    田母神さんは歴史的に無知である以上に、経済的にも無知だということが判明しました。
    下記のような文章が、各所に見られます。

     現在の中国政府から「日本の侵略」を執拗に追求されるが、我が国は日清戦争、日露戦争などによって国際法上合法的に中国大陸に権益を得て、これを守るために条約等に基づいて軍を配置したのである。

    日清・日露戦争では、日本は敗戦していると僕は思っています。
    下関条約やポーツマス条約が成立していく過程を詳細に追うと、そうとしか思えなくなってしまいます。
    戦いの勝利とは、敵を自己と同位の場におき、且つ保護できて成立するものであり、それなしには領土の経済的基盤は発展しません。
    未だに中国政府から「日本の侵略」を執拗に追求されるのは、同位の場におく努力すらしなかった結果の話です。

    当時の日本人と同位の場におかれたら、これも迷惑な話ですが。

    来週あたり、ご推薦の猪木正道著『軍国日本の興亡』を読んでみようと思っています。

  • Comment : 2
    透水
    透水さん
     2008/11/14 19:33
    http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/library/result_consider.php
    で、参議院外交防衛委員会での田母神氏の答弁、その他の様子を視聴出来ます・・・。
    この問題についての考え方は、僕はちょっと異なる視点から考えています。
    文民統制が図られているか否か、という事も確かに議論されるべき点だと思いますが、先の戦争においては、所謂統帥権の独立という帝国憲法の規定を軍人が政治利用したというところが確かにあったと思います。

    唯、今回の田母神氏が提示しているもっとも重要な点は、戦後日本の歴史観のあり方をきちんと見直すべきだ、という氏の直裁な主張にあると思います。航空自衛隊の幕僚長という立場でそのような主張を発表したことが、それ自体文民統制の原理から逸脱する、としているのが、上の参議院外交委員会で浅尾議員などの指摘でしょう。私自身は、今回の田母神氏の論文がそれ自体文民統制に反するとは思いません。

    戦後の歴史観について、元外務次官だった村田良平という人が最近大冊の本を出版されたとういうことです。→ http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/790287/ 

  • Comment : 3
    umasica :桜里
     2008/11/15 10:49
    しんすけ様


    >日清・日露戦争では、日本は敗戦していると僕は思っています。


    論点は様々だと思いますが、

    日清戦争で、大日本帝國が獲得したのは、

     \狭颪砲茲襦朝鮮独立の承認
    ◆[謀貳湘隋台湾、澎湖列島の割譲
     賠償金二億両の支払い

    △亡悗靴討蓮◆峪姐餞馨帖廚如
    遼東半島はおあずけになり、
    そして遼東半島の利権はロシアが獲得してしまうわけですが…

    日露戦争で、大日本帝國が獲得したのは、

     ヾ攅颪砲ける日本の優越的地位の承認
    ◆)洲からの日露両軍の撤退と門戸解放の保障
     遼東半島利権の日本への移転
    ぁ‥貔凝監四権の移転
    ぁ‘邀鯊世粒箴

    ロシアの領土は侵害されず、
    賠償金の獲得もなし。
    ただし、リアルな政治的認識では、
    大日本帝國の戦争目的は貫徹された、
    と考えられていたわけです(当時の政治当局者には)。
    大日本帝國の軍事力(そして、その後ろの経済力)では、
    戦争の継続は不可能であるという認識は、
    政治家軍人に共有されており、
    しかし、国民は納得しなかった(日比谷の焼き打ち)、
    というところでしょうか。



    日清・日露戦争(その後の満洲事変も含めて)は、
    単なる経済的動機による、領土拡大・植民地獲得戦争ではなく、
    膨張主義的なロシア帝国の存在に対する、
    地政学的問題意識に基づくものという側面があるでしょうね。
    緩衝地帯としての朝鮮半島という認識です。

    その意味で、日露戦争での獲得物は、
    政治的には意味あるものであったのですが、
    戦争勝利=領土拡大+賠償金獲得、
    という図式で理解していた国民からは不評を買った、
    という展開でしょう。


    日本海海戦でのパーフェクトゲームの経験が、
    負けてはいないが勝ったとはいえない戦争を、
    「勝利」と錯覚させ、
    その後の大日本帝國の自己認識の錯誤の要因となってしまった。


    そんなようなことを考えました。



    猪木正道氏なら、
    田母神「論文」を痛烈に批判することは確かだと思われます。

  • Comment : 4
    umasica :桜里
     2008/11/15 11:16
    透水様


    お久しぶりです。


    >文民統制が図られているか否か、
    >という事も確かに議論されるべき点だと思いますが、
    >先の戦争においては、
    >所謂統帥権の独立という帝国憲法の規定を軍人が
    >政治利用したというところが確かにあったと思います。

    「論文」の内容についての政治性は明らかでしょう。
    「集団的自衛権」に関しては直接的であり、
    「歴史認識」の問題に関しても、
    近代史をめぐる「政治」的評価が主題化されていますから。
    その上で、
    組織のトップ(上官)である防衛相による処分への不満を、
    公言したことには、大きな問題があると思われます。



    ただし、「文民統制」が貫徹されていれば、
    錯誤が生じないという保証もないわけです。
    「イラク戦争」では、プロの軍人の反対を押し切り、
    文民であるラムズフェルド主導で、
    軍事作戦策定が行われているわけです。
    ラムズフェルドに反対したシンセキは辞任し、
    後任者が、「文民統制」の下で戦争を遂行し、
    泥沼を招いたという経緯があるわけですね。




    >今回の田母神氏が提示しているもっとも重要な点は、
    >戦後日本の歴史観のあり方をきちんと見直すべきだ、
    >という氏の直裁な主張にあると思います。

    私が何より問題視しているのは、
    田母神氏の「論文」の内容が、
    歴史的事実を云々する目的からは、
    あまりに杜撰に過ぎるという点です。
    完全な事実誤認、
    伝聞に過ぎないものの記述(何も証明されていない)、
    論理的整合性の欠如、
    といった点で、大いに問題あり、というのが私の観点です。

    詳しくは、ここ数日間の日記で指摘してあります。


    大日本帝國を擁護しようと思うなら、
    もっと勉強してからにしてもらわないと、
    というのが田母神氏への私の不満ですね。
    あれで300万円とは、
    審査委員の恥さらしだとも思います。

    満洲を日本の植民地として描いてしまうなんて、
    私には信じられませんでした。
    彼の立場からは、
    本来ならば、決してしてはいけない記述でしょう。
    それに当人が気付かず、
    審査委員も気付いていないのだとすれば、
    それを悲劇と言うべきか喜劇と言うべきか、
    いずれにしても悲しい気持ちになってしまいます。

  • Comment : 5
    斎藤博之
     2008/11/15 14:37
    田母神なる人物の書いた論拠も示さぬ文章が、
    賞金三百万円を獲得したというところから察するに、
    この賞金は
    田母神のパトロンが田母神に金を与えようとしたものだ
    とも思えます。
    パトロンは、
    田母神から自衛隊の利権を得ようとしたか、
    田母神を利用して自らのイデオロギーを喧伝しようとしたか、
    のいずれかでしょう。
    自衛官が政治的発言を企てることも問題ですが、
    懸賞という形式を装って
    利権かイデオロギーかの絡んだパトロンが
    容易に自衛隊に巣食うことが出来た
    ということもまた問題としなければなりません。

  • Comment : 6
    umasica :桜里
     2008/11/15 18:13
    斎藤博之様


    >田母神なる人物の書いた論拠も示さぬ文章が、
    >賞金三百万円を獲得したというところから察するに、
    >この賞金は
    >田母神のパトロンが田母神に金を与えようとしたものだ
    >とも思えます。


    そういう「邪推」(?)は控えたいところですが、
    しかし、あれで300万円では、そうも考えたくなりますね。

    あんないい加減な内容で300万円!
    原稿用紙一枚で20万円!!
     ↑(確か6000字という話なので)
    世の中の文筆業者には許しがたい話でしょう。


    満洲を日本の植民地として記述した「論文」に、
    賞金300万円を与えた審査委員長が、
    かの渡辺昇一氏というのも実に何ともな話。
    満洲が日本の植民地であったと、
    認めちゃっていいのでしょうかねぇ?

  • Comment : 7
    Mr.Dark
    Mr.Darkさん
     2008/11/15 18:27
    映画[ラストエンペラー]を思い出しました。

  • Comment : 8
    umasica :桜里
     2008/11/16 10:55
    Mr.Dark 様


    >映画[ラストエンペラー]を思い出しました。


    溥儀にとっては、大日本帝國を利用したつもり。
    関東軍は、溥儀を利用したつもり。

    亡命イラク人は、ペンタゴンを利用したつもり。
    ペンタゴンは、亡命イラク人を利用したつもり。


    …と、まぁ、似たような構図は尽きませぬ。

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