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老眼と自己決定 (23) 脳死を生きる 16

2009/07/15 22:23

脳死臓器移植「医療」をテーマに書き始めて、今回で16回を数えることになる。

 

 

 

「脳死を生きる 12」(「老眼と自己決定 (19)」でもある)で書いたことだが、脳死臓器移植「医療」を推進する者にとっての利益と、救急救命医療の対象となる者の利益は一致しないという側面がある。

脳死体を確保し、脳死体からの臓器摘出利用を利益と考える者と、脳死状態の回避に全力を尽くし救命回復に努力する側の利益は、相反するものとなりうるのである。

 

 

「脳死を生きる 12」では、


 一方で、脳死を人の死とすることには宗教界や法曹界、交通事故遺族の会など、さまざまな方面から反対がある。国会での慌ただしい動きに、改正に反対する医師らが先月、「移植を受ける人と提供する人の救命は表裏一体。審議は慎重の上にも慎重であるべきだ」と緊急声明を発表した。
 脳神経外科医の山口研一郎氏は「医療の進歩で(現行法制定時より)もっと脳死イコール人の死ではない状況となった。親は子供の体が冷たくなって初めて死を認められるもの」と指摘、早急な結論に危機感を表した。
 (時事通信 2009/06/18 13:42 → http://www.jiji.com/jc/zc?k=200906/2009061800447&rel=j&g=soc


という、衆議院本会議での臓器移植法改正案(A案)可決を受けての報道を紹介しておいたが、


 移植を受ける人と提供する人の救命は表裏一体。審議は慎重の上にも慎重であるべきだ。


 医療の進歩で(現行法制定時より)もっと脳死イコール人の死ではない状況となった。親は子供の体が冷たくなって初めて死を認められるもの。


というそれぞれの言葉が、問題の所在を語っているものと思う。

 

 

7月13日の参議院本会議での臓器移植法改正案(基本的にA案を踏襲)可決後の報道の一つでは、


 小児の脳死移植を可能とする改正臓器移植法が成立。海外に頼らず国内で「助かる命を助ける」ことに近づいたが、もう1つの「助かる命」を抱える小児救急医療現場は、充実しているとはとても言えない状況だ。関係者らは「十分な治療が尽くされなければ臓器提供は成り立たない」と一様に体制整備を訴えている。
 「私たちの医療の根本は脳死の子をつくらないこと」。参院厚生労働委員会に参考人として出席した日本小児科学会会長の横田俊平横浜市大教授はこう切り出した。臓器を提供する側と受ける側、すべての子の命を守りたいとの思いだ。
 同教授は、小児の救命救急システムが全国に2カ所しかないと指摘。その一つ静岡県立こども病院では、おぼれた子どもが医師の乗るヘリで平均1時間以内に集中治療室(ICU)に運ばれ、ほとんどのケースで後遺症もなく回復しているのに対し、システムのない横浜市では病院搬送に1時間半〜4時間半かかり、死亡したり重度の脳障害が残ったりしているとの実態を紹介。「体制一つでこんなに違う。こうした状況で『臓器提供を』と言って納得してもらえるのか」と問い掛けた。
 日本は新生児の死亡率が世界一低いのに対し、1〜4歳児は21位。小児救急は専門の医師も施設も不足している。こうした実態を踏まえ、重症小児の救急医療に関する厚生労働省の検討会は先週、小児救命救急センターの整備などを盛り込んだ中間報告をまとめている。
 委員を務めた同病院の植田育也・小児集中治療センター長は、日米で脳死の子の診療やみとりに携わってきた。小児の脳死移植には法整備だけでは不十分だとし、「臓器提供が最良の選択だったと、長く思ってもらえるような医療が必要」と話した。

 (時事通信 2009/07/13 16:38 → http://www.jiji.com/jc/zc?k=200907/2009071300619&rel=y&g=soc


と、小児救急医療現場が抱える問題が指摘されている。

今回の改正案で可能となった15歳未満の小児からの脳死臓器提供を考える上で、小児救急救命医療自体の不十分さという現状は、脳死臓器移植推進への前提となる環境としてお粗末に過ぎる。


救急救命医療の受益者としての患者と家族の利益を守るための努力が不十分なところで、脳死臓器移植の受益者としての患者と家族の利益へのより多くの配慮を求めることになってしまうのが、今回の改正案のもたらす帰結であろう。

もちろん、言うまでもないことだろうが、この指摘は臓器移植法改正案そのものへの批判とは別のことである。脳死を人の死とし、脳死体からの臓器移植を「医療」として推進することの是非とは別に、小児救急救命医療体制は拡充されなければならないのである。

「私たちの医療の根本は脳死の子をつくらないこと」という日本小児科学会会長の横田俊平横浜市大教授の言葉に、まずは耳を傾けねばならない。

助けることの出来るはずの命を助けることへの努力を怠ったままに、(怠るからこそ容易になるわけでもあるが)脳死体からの臓器移植の推進を図ることは倫理的ではないだろう。助けることの出来たはずの命を助けずして、助からず脳死状態になった患者の臓器利用にのみ腐心することには同意し難いのである。脳死臓器移植を「脳死の子どもをつくること」という構図の上に成立させてしまうことは、推進者も望まぬものと思いたい。


 

 

この問題は、臓器移植医療推進の前提として解決されていなければならないはずだ。今回の臓器移植法改正案成立後の大きな課題となるべき事項であろうが、改正案可決に寄与した国会議員諸氏にその自覚はあるのだろうか?

そもそも、国民それぞれに、その自覚があるのかどうか?という問題であるわけだが…

 

 

 

 

 

 


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Binder: 現代史のトラウマ(日記数:652/全体に公開)
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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2009/07/15 23:35
    暑さの中、何とか書いてみました。


    まぁ、つまるところ、個々の国民の関心が高いとは言えないわけで…
    脳死は他人事なんでしょうねぇ。
      (実際、誰もが脳死状態を通過するわけではないし)

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