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無差別爆撃の論理 4 (特攻と戦略爆撃)

2009/08/15 20:59

「あの戦争」について語る時、「特攻」の問題を避けて通ることは出来ないだろう。

 

 

特攻による戦死者を、崇高な精神の発揮者として賛美するか、無謀な戦争の果ての無責任な作戦の犠牲者として悼むのか、いずれにせよ、そこにあるのは軍の作戦としての自殺攻撃という手法なのである。

近代における技術と生産力の発展という条件の下に、人類は二度にわたる「世界大戦」を経験することになった。技術革新と新たな兵器の登場。それが20世紀の戦争を語るに際し、あの時代の戦争の特徴的な姿として、私達に共有されているように思える。

 

近代戦争、近代総力戦と呼ばれる戦争の形の背後には、技術革新と生産力の結合がある。そこからは、戦争遂行者としての軍隊が、技術革新の集約的産物である最新兵器を最後まで駆使し得るかに戦争の勝敗の帰趨がかかっている、という認識が生まれるだろう。

「あの戦争」において大日本帝國の軍隊が追い込まれたのは、技術革新と工業的生産力に基づく戦争遂行という条件における無能力さという現実であり、特別攻撃という名の自殺攻撃の採用であった。そこには、兵器の操作者としての軍人・兵士の存在は既になく、人間の命そのものが攻撃兵器として「作戦」に使用されるという状況のみが残されていた。

 

特攻による戦死者を賛美するにせよ、犬死として悼むにせよ、そこには近代戦争としては異様な用兵・作戦の存在があったことが、前提として理解・共有されているものと言い得るだろう。

 

 

 

大西瀧治郎の名は、その特攻攻撃の組織者あるいは責任者の名として理解されている。近代戦争における非近代的な用兵・作戦の実行者、ということになるだろう。昭和19年10月に大西が第一航空艦隊司令長官として、特攻作戦の指揮を執ったことは事実である。

しかし、大西の軍人としての生涯を見渡せば、彼自身はそのような非近代的用兵・作戦の発想から最も遠い場に身を置いていたことがわかる。

第一次世界大戦後の世界に軍人として身を置いた彼は、戦争における航空力の優位を主張していた人物として、日本海軍で頭角を現すのである。戦艦の建艦能力と保有量が海軍の戦力を決するという当時の認識の中で、第一次世界大戦後の世界、第一次世界大戦後の戦争のあり方を、つまり近代戦争の現実を正確に理解していたのが大西瀧治郎その人、ということなのだ。

 

 

 

たとえば荒井信一は、1936年の陸軍航空本部作成の『航空部隊用法』中の「政略攻撃」の項を、当時の日本陸軍における「戦略爆撃」思想の例として紹介した上で、


 一方、海軍では1937年7月、航空本部の意見パンフレットとして『航空軍備に関する研究』が関係者に配布された。起案者は、当時航空本部教育部長であり、のちに特攻作戦の発案者となる大西瀧治郎大佐であった。陸海軍の作戦への協力以外に戦略爆撃を実施する独自の戦力として空軍(純正空軍)の独立を説き、「純正空軍式航空兵力の用途は、陸方面においては、政略的見地より敵国政治経済の中枢都市を、また戦略的見地より軍需工業の中枢を、また航空戦術見地より敵純正空軍基地を空襲する等、純正空軍独特の作戦を実施するほか、要する場合は敵陸軍の後方兵站線、重要施設、航空基地を攻撃し陸軍作戦に協同するにある」と述べ、「純正空軍式の戦備」の急速な整備を急務と説いた(戦史叢書『海軍航空概史』)。

 …

 しかし、海軍ではパンフレットは部内の統制を混乱させるとして、回収を命じられた。海軍の主流にとっての関心事が、海上決戦の主力である主力艦を戦艦にすべきか航空母艦とすべきかという時代錯誤的な論争にあったからであろう。

     荒井信一 『空爆の歴史』 (岩波新書 2008)


と、海軍における戦略爆撃思想の理解者・主唱者として、大西瀧治郎の名を提示しているのである。

 

支那事変の進展に伴い、


 海軍は陸軍の要請に応え、航空隊の主力を支那方面艦隊の指揮下に移し、第一・第二連合航空隊(司令部漢口)に配備していた。海軍きっての戦略爆撃論者大西瀧治郎は、1939年末に第二連合航空艦隊司令官に任じられ、奥地爆撃の強化に当たる。翌年4月10日付で各艦隊司令官などに配布された『海軍要務令(航空戦之部)』は、「要地攻撃」を「軍事政治経済の中枢機関、重要資源、主要交通線等敵国要地に対する空中攻撃」と定義している。作戦実施要領の骨子は、37年に大西が起案し「怪文書」として没収されたパンフレットの内容そのままである。「要地攻撃」の最大目標として重慶爆撃が本格化するのは39年5月からである。


という形で、近代戦における航空機の優位と戦略爆撃の有効性の論理を理解し、部隊司令官として攻撃を実行した人物としての大西瀧治郎の姿が、荒井により描かれている。

 

 

 

しかし、海軍では艦隊決戦論者の下に戦艦大和・武蔵の建造が優先され、航空母艦及び航空兵力の充実は後回しにされることになる。真珠湾攻撃(大西の基本計画に基づく)の成功は、実戦での航空力の優位を証明するものであったにもかかわらず、そのことへの理解が得られたようにも見えない。

そのような状況下で、米国の圧倒的な工業生産力との闘いとして大東亜戦争は進行し、生産力の絶対的劣位の中で大日本帝國は敗退していくのである。

 

軍人として近代戦争を誰よりも理解していた人物が、航空本部教育部長としてパイロット養成の困難を誰よりも理解していたはずの人物が、「特攻」という「統帥の(統率の)外道」の作戦指揮を執る事態に陥るに至る軌跡は、この国の歴史の一断面として、「あの戦争」の現実を語る際に忘れずにいたいことの一つである。

 

 

軍事理論としての「戦略爆撃」思想の先駆的理解者の一人が大西瀧治郎であったのであり、中国大陸における「要地爆撃」を実施する「戦略爆撃」の先駆的実行者の一人が大西瀧治郎であった。

大東亜戦争の戦局の悪化の中で、その大西が「特攻」を指揮し、その祖国が容赦のない戦略爆撃の対象となっていく。空襲により荒廃した東京で、ポツダム宣言受諾に反対し、徹底抗戦を叫び続けたのも同じ軍令部次長としての大西瀧治郎であった。

昭和20年8月15日、大西は渋谷の軍令部次長邸で自決する(靖国神社『遊就館 図録』によれば自決の日付は15日であるが、『ウィキペディア』によれば8月16日である)。

 

 

 

 

 

【大西瀧治郎】

 → http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%A5%BF%E7%80%A7%E6%B2%BB%E9%83%8E

 

 

 

 

 




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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2009/08/15 23:53
    ホントは昨日これを書くつもりだったんだけど…

  • Comment : 2
    medicus19
    medicus19さん
     2009/08/16 16:51
    大西滝治郎に関して詳しい記事を読ませていただきました。これを読むと、やはり日本海軍では、真珠湾攻撃の成功にも関わらず、航空機よりも軍艦が海軍の中心だという固定観念から逃れられなかったのだろう思いました。

  • Comment : 3
    たぬき男いたち男
     2009/08/16 17:52
    あ〜あ、肝腎の「セーブデータ」を消しちゃった。大丈夫なのかなぁ。

    次の「最強データ」が無事に作動すれば、何も心配する事はないけど。

    「ウマシカ」は「TVゲーム」なんか、全然やった事はないのかい…。

    まぁダマサレタと思って、一度やって見たらいいんじゃあないのかな。

    そうすりゃ「理屈」のバカらしさに、たっぷり気付かされる可能性が

    ある…と云うモンだがネ。あんまりマジメになるのも体に良くないぜ。

    「遊ぶ」のも「勉強する」事の内。何でも挑戦して見て「損」はない。

    アンタの、いい加減に小ヤカマシイ「理屈癖」の「治療」にもなるぞ。

  • Comment : 4
    Mr.Dark
    Mr.Darkさん
     2009/08/16 19:22
    ↑治療が必要なようです。

  • Comment : 5
    umasica :桜里
     2009/08/16 19:28
    >↑治療が必要なようです。

    修理不能で暴走状態というウワサです。

    誰か早いとこ電源を切ってしまえ!って状態ですが、
    ネコの首に鈴ならぬ、タヌキのスイッチオフは実に難題なのでありました。

  • Comment : 6
    たぬき男いたち男
     2009/08/16 19:33
    「ダーク」の野郎メ、憎まれ口を叩きおって…。天罰が下るぞヨ!!

  • Comment : 7
    Mr.Dark
    Mr.Darkさん
     2009/08/16 19:36
    うははははっ

  • Comment : 8
    たぬき男いたち男
     2009/08/16 19:38
    何だ「ウマシカ」!! アンタの首に「鈴」を付ける勇気のある奴は、

    どこにもいないんじゃあないのか?「私」を唯一の「例外」として…。

  • Comment : 9
    Mr.Dark
    Mr.Darkさん
     2009/08/16 19:43
    あらら。スミスさんに「首輪」をつけられても知らないよ。

  • Comment : 10
    たぬき男いたち男
     2009/08/16 19:55
    又しても「スミス」か!! アイツ(大先生)が余計な事をするから、

    「話」がヤヤコシクなって来るんだ。解りましたよ「スミス」さん。

  • Comment : 11
    たぬき男いたち男
     2009/08/16 20:39
    糞ゥ!!「スミス」に適当にからかわれて「封印」までされる…とは。

    「日本人権援護会」に申し立てて「スミス」を逮捕してもらう事も!!

    単なる「冗談」で済まない…と云う事を「キャツ」に解らせるからな。

  • Comment : 12
    umasica :桜里
     2009/08/16 20:44
    >「日本人権援護会」に申し立てて「スミス」を逮捕してもらう事も!!


    その前に、タヌキが「思想警察」とやらに「逮捕」されてオシマイ。
    思想警察のスミス氏がスイッチオフして、タヌキは封印。

               メデタシメデタシ   

  • Comment : 13
    たぬき男いたち男
     2009/08/16 20:57
    何もかも「メデタシ」では終わらせないぞ。「私」の怒りは天に届く。

    「思想警察」はザレ事ではない。再び「封印」するなら、しかるべき

    処置を取るまで。「キャツ」は違法な「ストーカー」として扱われる。

  • Comment : 14
    umasica :桜里
     2009/08/16 21:46
    まぁ、タヌキの相手はこのくらいにしておくことに…
     (もう十分だろ?人恋しいタヌキさんよ?)



    medicus19 様


    コメントありがとうございました。

    >大西滝治郎に関して詳しい記事を読ませていただきました。これを読むと…

    実は今回の内容は、これからの導入として書いたもので、
    これからが本論、ということになるはずなのですが、毎度のことで、
    書いて見ないとわからない、というのも正直なところです。

    これからもよろしくお願いいたします。

  • Comment : 15
    たぬき男いたち男
     2009/08/16 22:19
    「人恋しい」とは良くも云ってくれるな。「私」は「孤独」が趣味だ。

    なにも無理に「御相手」して下さらなくて結構だよ。自ら「封印」だ。

  • Comment : 16
    たぬき男いたち男
     2009/08/16 22:27
    だがネ「私」を非常に嫌う人が圧倒的に多い事は、素直に認めようか。

    「私」の「孤独」は自ら招いた事態。それで良いと云っているんだヨ。

  • Comment : 17
    umasica :桜里
     2009/08/16 23:01
    >「人恋しい」とは良くも云ってくれるな。「私」は「孤独」が趣味だ。
    >なにも無理に「御相手」して下さらなくて結構だよ。自ら「封印」だ。
    >だがネ「私」を非常に嫌う人が圧倒的に多い事は、素直に認めようか。
    >「私」の「孤独」は自ら招いた事態。それで良いと云っているんだヨ。


    招かれたわけでもないのに他人の家に上がりこんで、
    文句ばかり言い続けるような人物が、歓迎されないのは仕方がない話だろ?

    何度もそのことは説明しているはずだ。

    53歳になるタヌキ相手に毎度同じことを言い続けることもないだろ?

    それだけの簡単なお話。

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