umasica :桜里さんのマイページ

老眼と自己決定 (30) エホバの証人、あるいは輸血拒否の論理 6

2009/10/20 23:02

「エホバの証人」とナチスというテーマが続いている。

 

 

「エホバの証人」が、ナチスの強制収容所の中で、他の収容者から独立したカテゴリーを与えられていたことに着目して、これまでの稿を進めてきたわけである。

 

 

 

しかし、昨日ご紹介した、『ホロコースト大事典』中のシビル・ミルトンによる「エホバの証人」の項を注意深く読めば、ナチス体制が当初から「エホバの証人」を強制収容所収容者として取り扱っていたわけでもないことがわかる。

ミルトンによれば、


 35年の強制兵役の導入により、彼らの徴兵拒否や戦争関係業務拒否の結果、しだいに多くのものが刑務所や強制収容所に拘留されることとなった。


ということなのである。

 

1935年1月のナチスの政権掌握後に、「ハイル・ヒトラー」の敬礼を拒否し、選挙・国民投票への投票を拒否し、ナチ党組織への参加を拒否するといった「エホバの証人」の振る舞いは、就業機会の喪失、資産の没収、社会保証制度からの排除等の、彼らからの社会的基盤の剥奪という事態を生み出した。

彼らの子供も、ナチスの標的とされることを免れ得ない。再びミルトンによれば、


 エホバの証人の子どもたちは、学校で侮辱と宣伝のはてしない集中砲火を浴びることになった。また同級生や教師による身体的な暴力の散発的な標的にもなった。ナチ国家の抑圧的装置はエホバの証人の家族生活や育児の領域にも拡がった。子どもはナチ教育の規範に従わないということで排斥された。彼らはヒトラー・ユーゲントに加入する意思がないことを理由に、しばしば非行少年と宣告され、矯正施設に監禁された。両親の保護監督権も奪われた。そのもっともらしい理由は、ドイツ民法1666条によるものであった。エホバの証人の親たちは子どもを「国家社会主義の精神におけるドイツ的方法から遠ざけることによって、子どもの福利厚生を危険にさらした」というわけである。38年までに、エホバの証人の860以上の家族から、子どもが矯正施設、感化院、そしてナチスの家庭に移されていった。38年12月27日、帝国内務大臣はすべての青少年局や市町村の監督当局に宛てて回状を出し、「政治的に信頼できない家族」から子どもを引き離しナチスの家庭へ移すことを命じた。さらにナチ国家はまた、エホバの証人の両親には追加的な児童手当の支払いを拒否した。


という事態が、エホバの証人の家族を襲うのである。

しかし、彼らが反ナチの政治活動をしたというわけではない。そもそも、彼ら自身の意識の中では、彼らはナチス体制への政治的敵対者ではないのである。あくまでも、


 われわれは政治の出来事に関心はないが、キリストのもとにある神の王国にすべてを捧げる。


という、彼らの信仰に基づく、彼らの信仰が彼らに求める振る舞いを続けただけなのだ。

それがナチス体制に、徹頭徹尾、適合的ではなかったということなのである。

 

 

現在の「エホバの証人」に関して、彼らの特異性の凝集点として周囲の社会から取り扱われることの多い「輸血拒否」もまた、同様の構図の下にあることが指摘出来るように思う。

彼らは決して、社会的多数者(マジョリティー)の常識に対する反抗を目的として、「輸血拒否」の意思表明をしているわけではない。

医療という場において、彼らが彼らの信仰に基づく、彼らの信仰が彼らに求める振る舞いを続けているだけのことなのである。

ナチス体制下の「エホバの証人」にとり、ナチ体制への非同調は、彼らの信仰の維持の上で切実な問題であったが、ナチ体制への反抗を信者以外の人々に求めるものではなかった。同様に、現在の「エホバの証人」にとって、「輸血拒否」はあくまでも彼ら自身の信仰上の切実な問題なのであって、「輸血拒否」を信者以外の人々にまで求めようとするものではない。

私も含め、(「輸血」をめぐる問題において)マジョリティーに属する側にいる人間には、その構図に自覚的になっておく必要があるように思う。

 

 

「エホバの証人」による「輸血拒否」に関しては、彼らの子どもの取り扱いが焦点の一つとなっているわけだが、ナチス体制下でのエホバの証人の家族(彼らの子ども)の運命、その際の彼ら(親達)の態度を振り返ると、ここにも構図の同型性を指摘出来るようにも思う。

ナチスによる、彼らの子ども達への過酷な取り扱いが、彼らのナチス体制への態度を変化させることはなかったのである。

あくまでも、


 われわれは政治の出来事に関心はないが、キリストのもとにある神の王国にすべてを捧げる。


ということなのだ。「キリストのもとにある神の王国にすべてを捧げる」以上、現世内での彼ら自身が、そして彼らの子どもが味わう苦痛・苦難が、彼らの信仰上の態度決定に影響するようなことは、あり得ないこととして考えなければならないのである。

 

 

 

 

そして、1935年、ドイツの再軍備と共に兵役が義務化された際にも、彼らは徴兵拒否の態度を貫き、結果として強制収容所の収容者の独立したカテゴリーを構成することになるのであった。

 

 

彼らは、あくまでも、


 われわれは政治の出来事に関心はないが、キリストのもとにある神の王国にすべてを捧げる。


という態度、信仰者としての態度をもって、現世に臨んでいるだけなのである。

 

 

 

 

 

 



 読み込み中...
Binder: 現代史のトラウマ(日記数:652/全体に公開)
Gg[ubN}[N
最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2009/10/21 01:06
    今回も、「徴兵拒否」の問題の詳細にまでは、たどり着けなかった。

    信仰者としての彼らにとって、
    「死」はどのように問題化されるものなのか?
    …なんてことが、彼らの「徴兵拒否」を考えると見えて来る、はずだ。

  • Comment : 2
    たぬき男いたち男
     2009/10/21 01:15
    オヤ、御謙遜なさられて、良いですよ。「ウマシカ」の作文はプロ級。

    途中ちょっとコケルが、まぁ問題はないでしょう。或いは売れるかも。

    どうせなら何か「大宅壮一賞」辺りでも狙ったらいかがなモンかネェ。

  • Comment : 3
    たぬき男いたち男
     2009/10/21 01:20
    じゃ、又ね。

  • Comment : 4
    umasica :桜里
     2009/10/21 01:28
     ↑
    毎日、持ち上げたりこき下ろしたりと忙しいが、
    どっちにしても中身を読んでないことだけは確実なんだよなぁ…

  • Comment : 5
    たぬき男いたち男
     2009/10/21 04:24
    そうでもないぜ、結構読んでたりして…やはりバレるか…。

  • Comment : 6
    たぬき男いたち男
     2009/10/21 04:43
    でも「亜流」って、どうしてこうも明瞭なんだろうなぁ。残念だが…。

    何時までたってもやはり石は石。と、かつて「私」も云われたものだ。

  • Comment : 7
    たぬき男いたち男
     2009/10/21 04:49
    まぁ、悔しけりゃあ事実書いてみせるんだな。それしかないって…。

  • Comment : 8
    umasica :桜里
     2009/10/21 06:57
     ↑
    何が書いてあるのかも理解していないタヌキが、
                    なにやら得意気に説教している構図。
     (ほほえましいと言うべきか←独り善がりな説教は老人の特権だし)

  • Comment : 9
    たぬき男いたち男
     2009/10/21 09:09
    だから「スタ・コラ」の「客員教授」扱いするって云ってるじゃんか。

    アタマの鈍い男だなぁ。少しは「スタ・コラ」流のスタイルに真似て、

    面白可笑しく「作文」を書いとくれよ。文章に勢いってものがないネ。

    「血」が通じていないって云ったら解ってもらえるかな? 残念だが。

    「問題意識」のあり方そのものにレトロな所がある。鋭くないんだよ。

    退屈なんだな。現代には現代らしきテーマの構築があるべきだろうに。

  • Comment : 10
    たぬき男いたち男
     2009/10/21 09:16
    …と云うと、今度は「スタ・コラ」の悪口を始めるな。解ってるぞ。

  • Comment : 11
    umasica :桜里
     2009/10/21 10:12
     ↑
    何が書いてあるのかも理解していないタヌキが、
                    なにやら得意気に説教している構図。
     (ほほえましいと言うべきか←独り善がりな説教は老人の特権だし)



    …という評価に変化はなし、だな。

  • Comment : 12
    たぬき男いたち男
     2009/10/21 14:27
    アタマの鈍い男だなぁ。自分も老眼鏡を掛けてるくせに「老人」とは。

    まぁいい。愚かしいと言うべきか←ただの繰り返しはバカの特権だし)

  • Comment : 13
    umasica :桜里
     2009/10/21 22:17
     ↑
    愚かしいと言うべきか←悪態の繰り返しはアラシの「特権」、ってこと?

このブログにコメントをつけるには、ログインする必要があります。
マイページをお持ちでないひとは「マイページを作成する」ボタンを押してマイページを作成してください。
不適切なブログを見つけたら、こちらからご報告ください!

Mail Address(GMO ID):

Password:

自動ログインパスワードを忘れた方

最近書いたブログ


http://www.freeml.com/feed.php?u_id=316274&f_code=1



Copyright(C)2017 GMO Media, Inc. All Rights Reserved.