umasica :桜里さんのマイページ

続々・老眼と自己決定

2009/02/01 21:49

人の身の上に起る死は、誰によって決定されるべきものなのか?




…という話になってしまっているが、発端は「老眼のカミングアウト」だった。まぁ、論文を書いているわけではないので、話の流れに身を任せるのもアリだと考えることにしよう。



老眼になる(なってしまった)のは、自らの意思の結果ではない。つまり、考え・企み・思いつき・計画し・戦略を立て…といった言葉で表現される私の振る舞いの結果ではない。言い換えれば、私が自発的に老眼になったわけではない。

しかし、一方で、外部の誰かの強制により、老眼となった私が存在するわけでもない。生体としての私に組み込まれたプログラムが発現した結果の老眼、と言うことも出来るだろう。

私=意思する私、と考えれば、私の自発性に基づく老眼ではない。

私=生体としての私、と考えれば、老眼は自発的な生体の老化に伴う自発的な現象として表現され得るものだ。


既に、「私」として表現される対象が、必ずしも自明のものではないということが理解出来るはずだ。

文脈により、私=意思する私であったり、私=生体としての私であったりする、というのが実際のところだろうか?





さて、人の身の上に起る死は、誰によって決定されるべきものなのか?


私にとっての死自体も、意思する私の死であるのか、それとも生体としての私の死として想定されるのかによって、見え方が異なるものとなるであろう。

老化による死は、意思する私の「意思」に反するものであるかも知れないが、生体としての私にとっては「自発的な過程」の最終段階に過ぎない。

外部から強制される死は、意思する私の意思に反する死であると共に、生体としての私の自発性を無視したところに成立する(成立させられる)死でもある。





『生きるに値しない命を終わらせる行為の解禁』(1920)において、法律家カール=ビンディングは、
 

 1)助かる見込みのない患者〈末期癌の患者など〉。
 2)治療不能な知的障害者
 3)瀕死の重傷者
 

の三つのケースを、安楽死の対象とすることの法学的可能性を問題として提起していた。
しかし、ビンディング自身の本来の議論は、共著者アルフレート=ホッヘの論点(社会的コスト削減を趣旨とした、政策としての知的障害者への安楽死を提言)とは異なり、「自殺」をめぐる法学的考察であった。

1)と3)のケースは、まさに「自殺」の延長としての「安楽死」であり、意思する私の意思に基づく、他者の手を借りた自殺としての安楽死である。もちろん、社会的合意の存在という前提があっての話だ。1)および3)のケースの対象とされた当事者も、その社会の成員として、安楽死に関する社会的合意の同意者であるという想定が、安楽死実行の合法性を保障するわけである。

ビンディングは、自殺行為の違法性(の有無)を法学的に考察したわけだが、その違法性を主張する論拠を見出すことは出来なかった。その結果、安楽死の違法性に関しても、自殺の延長と考えることにより、そこに違法性を見出すことは出来ないと考えていたのであろう。


…「考えていたのであろう」とは実に歯切れの悪い表現ではあるが、手元に本がないので記憶に頼って書いていることの結果とご理解いただきたい。ビンディングやホッヘの思想の祖述・紹介ではなく、提出された論点をより深く考えることが今回の一連の文章の焦点なのである、と書いている当人は考えているわけだ。




さて、ビンディングの提出した三つのケースに戻ろう。

そこには共通点も存在する。「治療不能」という事態だ。

医療の目的が、「治癒」に至る「医療行為」であるとすれば、「治療不能」という状態は、「医療行為」の終着点であろう。

しかし、「医療行為」とは「治癒」という終着点をのみ目指すものであるのだろうか? 「苦痛の緩和」もまた、医療行為の中心を占める行為ではないだろうか? 言い換えれば、生体としての人間に対する、生きているという状態へのサポートこそが、「医療行為」の基底を形成するのだと考えることは出来ないだろうか?


これは、法学者ではなく、医師にこそ問われるべき問題なのかも知れないが、しかし、医師であるアルフレート=ホッヘこそが、知的障害者への安楽死の積極的主張者なのであった、というのが『生きるに値しない命を終わらせる行為の解禁』と題された出版物により世界に放たれた問題の焦点のようにも思えて来るのである。





Binder: 現代史のトラウマ(日記数:666/全体に公開)
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