バイク武勇伝?
若い頃、バイクに乗っていた時期があった。HONDAのXL250Sというヤツ。モトクロス基調のデザインでロードも走れるデュアルパーパスと呼ばれるタイプだ。

バイク屋でXL250Sのポスターを見て、そのスタイルに惚れ込み、このバイクに乗るために中型免許を取った。
念願のXL250Sを手に入れ気分良く乗っているときに、いくつかの【事故現場】を目にすることがあった。バイクが絡む事故はライダーの過失の有無にかかわらず、よりダメージを受けるのはバイク側だ。
「悲惨……」と思うと同時に「いつかは俺にも巡ってくるんだろうか……」などと予感めいた不安が脳裏をよぎるのであった。
そして、はたしてその時は、やってきた。
XL250Sで某所から帰宅中、自宅にほど近い市街地の一方通行の優先道路を走っていた時だった。信号の無い交差点にさしかかったときに、右側の路地から突如、乗用車が飛び出してきたのだ。
乗用車は「一時停止」を怠ったどころか「徐行」でもない──信じられないスピードで、いきなり目の前を塞ぐように現れた。
反射神経にはいささか自信がある僕だったが、この時はブレーキをかける間もなかった。見えたとほとんど同時に乗用車の左側面にそのままのスピードで激突!
その瞬間、
「ああ、ついに俺にも巡ってきたか!」と観念する気持ちと同時に
「ああ、俺のバイクがぁぁぁぁ!」
という悔しい思いが脳裏にフラッシュ!
不思議と「怖い」とか「痛い」とか──自分の体に対する不安はなかった。
一瞬の心を占めたのは、「ノーブレーキで自動車に突っ込んだ愛車がどの程度破損するか」という気がかりだけだった……。
車に突っ込んだ瞬間、でかい音とともにXL250Sの長いフロントフォークが信じられないほど沈み込んだ──という意識はあるのだが、その直後の記憶が一瞬サダカではない。
衝突直後、目に映ったのは、愛車を酷い目に遭わせた憎っくき乗用車がそのまま走り去ろうとしている「後姿」だった。
あろうことか、事故を起こした車は止まるどころか、加速して逃げようとしていたのである。
「逃がしてなるものか!」と激怒したものの、倒れているXL250Sで追いかけるのは無理(すぐにはエンジンがかからないと思った)。
「ならば、せめてナンバーだけは覚えておかねば」と、走り去る車のナンバープレートに意識を集中した。この瞬時の判断が功を奏し、警察は数時間後に逃げ去った犯人を検挙することになる。ちなみに無謀な運転をしていたのは、「なんと」というか「なるほど」というか──免許を取得していない十代の若者だった。後にわかった事だが、この車は事故現場から逃げ去るさいにその先の一時停止の交差点も猛スピードでつっきっていたらしい。
ところで気になる事故の被害だが……XL250Sはフロントまわりの交換が必要だった。
衝撃でひしゃげたフォークやリムは当然のことだろうが……モトクロス基調の頑丈なハンドルがうっすらU字型に曲がっていたのには驚いた。これは激突した瞬間、両腕でふんばったための変形だろう。かなりのGがかかった事を物語っている。「それにしても、ハンドルを曲げてしまうとは……俺って超人ハルク!?」なんて思ってしまった。
後日、大胸筋に激しい筋肉痛(ふんばったため)がでたものの、バイクが受けた損害の割には僕が受けたダメージはほとんどなかった。他には治療中の前歯の1本が折れた程度である。
ちなみに事故時にはモトクロス用のマウスガード付きヘルメットをかぶっていた(画像のものとは別)。なのにどうして歯が折れたのか?……と不思議に思ってマウスガードをよくみると塗装にヒビが入っていた。事故のとき乗用車のバイザーが落ちたので、屋根の部分にマウスガードが当たったのかもしれない。衝突時の一瞬、記憶が飛びかけたのは、このヘルメット越しのアゴへの一撃のせいだと思う。かくして愛用のヘルメットも交換となった。
もちろん修理代とメット代は、後に捕まった犯人に全額負担させた。
さて話を戻して、衝突直後の現場だが……事故を知った人が集まってきた。目撃していた人が通報してくれたおかげで、ほどなくパトカーが到着。
現場検証のかたわらで警官の聴取に応じることとなった。僕は懸命に記憶したナンバーを告げたが、番号を覚える事に集中していたため、乗用車の特徴についてはいまひとつしっかり確認していなかった。
そこで登場したのが、怪しげな(?)じいさんだった。いつ現れたのか、ギャラリーの注目をあびながらイキイキと証言している。が……その口から語られる車の特徴は、なぜか僕の認識と、ずいぶん食い違っていた……。
僕は激突の一瞬、もうろうとしたところもあるので、じいさんの自信たっぷりな話っぷりを聞かさせるうちに「あれぇ……俺の記憶違いか?」なんて自分の認識が不安になってきた。
しかしながら……結局、ナンバーから割り出された該当車は僕の記憶したものだったらしい。人騒がせなじいさんである。
じいさんに悪意があったとは思わないが……ふだん皆から注目されることのない年寄りが、にわかに「目撃者」として脚光を浴び、はりきって暴走(?)してしまったのかもしれない。話すほど皆がくいついてくるものだから、有頂天になって、推測や想像をまじえたイメージを、知りたがっている警官や皆のためにサービスして披露してしまったのではないか……という気がする。
犯人が捕まったから良いようなものの……もし、僕がナンバーを記憶しておらず、他に目撃者もいなかった場合、じいさんの誤認情報に基づいた捜査をしていたら、はたして該当車にたどりつくことができただろうか?……と思うと、ちょっと考えさせられる。
捜査は、こうした悪意の無い「誤認情報」でかく乱されることもあるのだろうな……と思った。
まあ、とりあえず、走り去る車のナンバーを記憶していたことで犯人は捕まり、XL250Sの修理代&ヘルメット代で自腹を切ることは免れた。
ただ、我ながらちょっと不思議に思うのは……事故直後、あわてて逃げて行く車両のナンバーをよく覚えられたものだな──ということ。
ノーブレーキでバイクごと車に突っ込んだのだから……普通に考えたらナンバープレートなど見ている余裕はないだろう。
どういう状況で車両ナンバーを確認できたのか、自分でもハッキリしないのだが……それについては事故を目撃していた営業マン風の男性に聞かされた。事故後その人は僕のそばにやってきて興奮気味に言った。
「お兄さん(その時は若かった)スゴイね、とばされて一回転して立ったね!」
確かに、そんな状況でもなければ走り去る車のナンバーを記憶する時間はなかった気もするのだが……。
着地した時にミラクル☆スターに変身していたら大したものだが……さすがに修行が足りず、そこまでのことは起こらなかったのである。
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