検察庁(けんさつちょう、Public Prosecutors Office)は、
検察官の検察事務と検察行政事務を行う官署である。
日本においては個別の庁(
最高検察庁、
高等検察庁など)でなく総体としての「検察庁」が「
法務省の
特別の機関」として設置されている。
以下本項目では日本の検察庁について詳述する。
概要
検察庁は
検察官各人の独任官庁としての性質を持つが、行政機関であることから
検事総長を長とした指揮命令系統に従う(検察官同一体の原則)。
法務大臣は行政機関たる検察庁を擁する
法務省の長であり、下部機関である各検察官に対し指揮する権限を有しているともしうるところ、必要以上の政治的介入等を防止する観点から、
検察庁法において具体的事案に対する指揮権の発動は
検事総長を通じてのみ行い得る(いわゆる
指揮権の行使)との制限が規定されており、直接特定の
検察官に対し指揮することは認められていない。
このことにより、
検察官は
政治からの一定の独立性を保持しており、法の正義に従った職能を行使することが期待される。いわゆる指揮権については
法務大臣と
検事総長の意見が対立した場合に問題となり、かつては
法務大臣の指揮に従わないこともありうる旨を述べた
検事総長が
国会で問題とされたこともあったが、法的には「法務大臣の職務命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り違法なものでも服従する義務がある」とされ、その結果の是非については指揮権を発動した
法務大臣が政治的責任として負うことになる。
構成
Wikipedia画像へのリンク(大阪高等検察庁、大阪地方検察庁、大阪区検察庁がある大阪中之島合同庁舎)
裁判所の本庁・支部に対応して設置されている。
最高検察庁 -
最高裁判所に対応
略称は最高検。
検事総長を長とし、次長検事が補佐をする。検事総長、次長検事は
認証官である(
検事総長の記事も参照)。
高等検察庁・8庁(支部6庁) -
高等裁判所に対応
略称は高検。
検事長を長とする。検事長は
認証官である。札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡の8箇所にある。
地方検察庁・50庁(支部203庁) -
地方裁判所、
家庭裁判所に対応
略称は地検。
検事正を長とする。
区検察庁・438庁 -
簡易裁判所に対応
略称は区検。上席検察官(不置の区検においては検事正の指定する検察官)を長とするが、区検の所在地を管轄する地検の検事正の指揮監督を受ける。
組織
検察官の人数は
検事、
副検事を含めて日本全国で総数2,000人程度である。
検事は、主に司法試験合格、司法修習を経てなる。
副検事から内部試験を経て
検事になることもある。稀に、
大学教授から法曹資格を経てなることもある。また、
裁判官と検事の人事交流も行われている。
副検事には、主に検察事務官が内部試験を経てなる。稀ではあるが、試験を経て自衛隊の警務隊等検察事務官以外からなるということもある。その他、検察官を補助するものとして
検察事務官がいる。実数としては、各検察庁ともに事務官が検察官を上回る。テレビのニュース映像でよく見られる
ダンボール運びをしているのは主に事務官である。検察事務官は
国家公務員?種・?種試験から採用される。検察庁は、
法曹である検察官とその補助者の一般職公務員である検察事務官から構成されている。
近年では、女性検察官の人数が著しく増加しており、
大阪地検などでは
裁判員制度の対象事件は男女の検事が
ペアとなって担当する方針を明らかにしている
[「男女ペア検事配置 裁判員制度で大阪地検」産経新聞(2009年3月13日)]。
現在の検察庁幹部
検察庁幹部の内、認証官について一覧を掲げる(
建制順)。
業務
公訴
検察権を行使する権限を有する官庁は、あくまで独任官庁(つまり一人一人の検察官が一つの役所としての権能を有しているという意味)と称される個々の
検察官である。
検察官は
刑事事件の司法的処理を担当することを主な任務としている。
その場合、
警察から送致(マスコミ用語では「送検」という)された事件に対する捜査を行い、公訴の提起の是非を定め、公訴提起(
起訴)後は、同事件に対して、
裁判所が公正かつ適正な法適用を行うよう求めるための訴訟活動を行う。起訴に関しては
起訴独占主義が取られ、ごく限定的な例外(
付審判請求・検察審査会による起訴議決制度)を除き検察官のみがなしうることとされている(
公訴の項も参照)。
その他、
人事訴訟の際の一方当事者となることがある。また、
検事は
法務省や他省庁に出向し、立法に関与したり、政府における法律の専門家として活動したりすることもある(例:国が当事者となる訴訟における指定代理人としての訟務検事)。
捜査
検察は
警察に加えての第二次捜査機関(あくまでも役割としての捜査責任)としての機能を有しており、いかなる犯罪に対しても
捜査を行うことが可能である。
本来的には公訴官としての役割が大分を占め、また慢性的人不足に起因するマンパワー的制約から、基本的には警察などから送致された事件を取扱うことが多いが、警察は本来的に公共の安全を維持する活動が主であることなどの他、公判維持の観点から、複雑な法律的問題をはらむ事件、高度の政治的独立性が求められる事件については警察の関与なしに自ら犯罪の捜査を行うことがある。
著名な例として、
ロッキード事件、
リクルート事件などの
国会議員がらみの汚職、枚方官製談合事件のような汚職を取締る現職警察官(大阪府警察本部捜査二課警部補)の汚職、又は
ライブドア事件や
村上ファンド事件などの経済犯罪などの高度な「知能犯」に対するときには独自捜査を行うことになる。
さらに、
公正取引委員会・
証券取引等監視委員会・
国税庁などが法令に基づき告発をなした事件についても捜査を行なうことになる。
東京・大阪・名古屋の
地方検察庁に設置されている
特別捜査部(略称「
特捜部」)は強力なスタッフを抱えて独自捜査を専門に行う部署であるが、特捜部のみに捜査担当・権限が限定されているものではなく、それ以外の主要道府県の地検にも独自捜査を担当する
特別刑事部と呼ばれる部署が置かれている。
議論
裏金、冤罪、証拠隠蔽
元来、民主主義的な基盤が薄弱であり、例外を除き公訴権限を独占するなど、検察官に対する権限についての批判が高まり、司法制度改革によって
検察審査会の勧告に法的拘束力を持たせるなどの試みが行われてはいる。
しかし、元検察幹部による
裏金告発
[三井環 『告発!検察「裏ガネ作り」』 光文社、2003年5月7日。ISBN 9784334973919]や検察の捜査に対する手法を「
国策捜査」だとする批判
[佐藤優 『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』 新潮社、2005年3月26日。ISBN 9784104752010]は根強い。
北海道警裏金事件や
岐阜県庁裏金問題等数多くの裏金事件を検察がことごとく黙認したことも検察批判を拡大させることになった。
裁判所との関係
一般的に、検察庁は弁護士と比べて
裁判所との結びつきが強いと言われている。顕著な例としては
判検交流があり、裁判所との親密な関係を示すものとされている。このような関係は、刑事裁判において検察に有利な訴訟指揮が行われる危険性をはらんでおり、誤判が起こる一因となっているのではないかとの指摘がある。
[読売新聞社会部編 『ドキュメント検察官』 中央公論新社、2006年9月。ISBN 4121018656]
経済界との癒着
こうしたことから、近年では、検察の天下りと体質が
冤罪事件の原因として指摘されるようになっている。最近の検事総長の天下りは次の通りである。関西テレビ(ライブドアによるフジ産経買収騒動の後)、日本テレビといった報道機関への天下りがある点には注目したい。
また
日興コーディアル事件や日本テレビ視聴率操作・買収事件等、世論の注目を集める事件の場合、社内調査委員会に検察OBを起用することで検察による摘発を回避する手法も一般化している
[「検察不祥事についての基礎知識」『日本の論点 2008年度版』文藝春秋、2007年。]。
改革しない検察庁
大鹿靖明は『ヒルズ黙示録・最終章』の中で、
司法制度改革で弁護士の数が今後飛躍的に増え、裁判所も
裁判員制度といった今までに無かった仕組みを採用する中、検察庁だけが時代に取り残されていると指摘している
。
選挙違反や贈収賄で脛に傷を持つ政治家は触らぬ神にたたりなしと手をつけず、談合や粉飾が横行している経済界も何も言わず、ネタもらいに汲々とするマスコミは批判せず、それどころか戦時の従軍記者のように過剰に戦果を書き立てる。批判が無い組織は自制が利かず、東京地検特捜部はまるで現代の「関東軍」だと大鹿は指摘している。一旦暴走すると誰も止められず、しかも誰も責任を取らなかったという
。
検察を抑制する仕組みが不在なのは問題であり、特に検察官個人の責任が追及されることはほとんど無い。わずかに検察庁法には
検察官適格審査会が職務上非能率で職務に適さない検察官を審査し法務大臣に通知することが盛り込まれているが、ほとんど機能していないという
。
弁護士の数が飛躍的に増え、法律が今まで以上に経済活動や市民生活に入り込む「法化する社会」の到来を前に、検察の抜本的な改革は避けては通れないと大鹿は述べている
。
特捜検察と公安検察の対立
特捜検察
捜査を主眼とする検察として、証拠を追って事実の解明を重視する立場をとることから、疑獄事件など政治家が関与する案件では事態の拡大をためらわない立場に立つことが多い。批判として、検察が独走し特定の政治的効果を及ぼす検察ファッショである、との批判を受けることがある。
中立
公安検察
刑事事件を相対的に評価し、国家にとって有用な人物の処断には配慮が必要との立場を取ることがある。
西郷隆盛が
山縣有朋の汚職疑惑でピンチに陥ったときに、陸軍卿として復活させた「国家有用論」と軌を一にする。思想検察ともいい、戦前は庶民にとって暗い印象が付きまとったが、検察の中ではエリートコースであった。法務総裁(法務大臣)の
大橋武夫はじめ、多くの政治家が支持した。法務省と検察庁を往復するキャリアを積む。捜査に対しては政治的配慮からブレーキを踏む立場となることがあるといわれている。
※参考・
検察庁事務章程
検察のあり方
ロッキード事件では
田中角栄が逮捕され、
リクルート事件は
竹下内閣の崩壊につながり、
金丸信巨額脱税事件は
自民党分裂、野党転落のきっかけとなるなど、検察の捜査は時として社会や政治を根底から揺さぶるほどの影響力があるが、国民は法律を守らなければ元首相でも逮捕されるという法治国家のあり方を「よし」としてきたからこそ、社会に不安が広がらなかったと言える。検察は法律を武器に権力に対峙できる唯一の捜査機関であり、検察の権力は国民の側にあるという安心感の上に成り立っているのである
。
検察の強大な権力は常に国民の側にいるべきで、検察の意に沿わないような社会状況・政治状況が出現した時は独善に陥る危険性があるため、検察権の行使は慎重であるべきで、逆に検察の意に沿った政治状況でも、権力犯罪の芽があれば果敢に捜査すべきで、捜査の手を緩めれば、その分権力の腐敗は進行するという主張がある
。
特に近年、微罪で企業や野党のトップを逮捕(ライブドア事件や西松献金事件)するケースが相次ぎ、これらは資本主義や国政選挙に影響を与える「国策逮捕」だと批判がなされており、検察への信頼が揺らいでいる。
(「検証「国策逮捕」 経済検察はなぜ、いかに堀江・村上を葬ったのか」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20090417/192347/)
脚注
参考文献
-
伊藤栄樹 『秋霜烈日―検事総長の回想』 朝日新聞社、1988年6月。ISBN 9784022558817
-
山本祐司 『特捜検察物語〈上〉政治権力との闘い』 講談社、1998年9月。ISBN 9784062093934
-
山本祐司 『特捜検察物語〈下〉腐敗・汚職との闘い』 講談社、1998年9月。ISBN 9784062093941
-
産経新聞特集部 『検察の疲労』 角川書店、2002年7月。ISBN 9784043548033
-
魚住昭 『特捜検察の闇』 文藝春秋、2003年5月。ISBN 9784167656652
-
藤永幸治 『特捜検察の事件簿』 講談社、1998年10月。ISBN 9784061494183
-
宮本雅史 『歪んだ正義―特捜検察の語られざる真相』 角川学芸出版、2007年5月。ISBN 9784043827039
-
Soichiro Tahara & Yasuhiro Tase speak on the political impact of the Livedoor affair.http://www.fccj.or.jp/~fccjyod2/node/911/日本外国特派員協会
外部リンク
検察庁について