OHVとは、
Over
Head
Valve(オーバー・ヘッド・バルブ)の略語で、
4ストローク機関の吸排気弁機構の形式の一つ。バルブ機構をシリンダヘッド上に備えた形式を言う。
日本語では
頭上弁式と表記される。
カムシャフトをシリンダヘッドに備えた
SOHCや
DOHCも、吸排気弁をシリンダヘッドの上部に持つため、
頭上弁式に含まれるが、
OHVでは、SOHCとDOHCを除いた物を呼ぶ。
構造
Wikipedia画像へのリンク(オートバイ用のOHVエンジン)
Wikipedia画像へのリンク(OHVエンジンのプッシュロッド機構)
カムシャフトが
シリンダの横に位置しプッシュロッドとよばれる長い棒を介して
ロッカアームを押し上げ
バルブを開閉させる。したがってマニアの間では「
プッシュロッドエンジン」と呼ばれる事もある。最初のOHVエンジンはスコットランド系アメリカ人である
デビッド・ダンバー・ビュイックにより開発された。それ以前には
サイドバルブや
スライドバルブが用いられていた。
SV(サイドバルブ) に対してOHVが有利なのは、バルブをシリンダヘッド内部に配置することで燃焼室を小さくできる点である。
これによりOHVはSVに比べて燃焼室の表面積が小さくなったことで、ヘッドへ逃げる熱が少なくなり、
圧縮比も高くとれるため、一段と
熱効率と出力を向上させることが可能となった。
SV方式からの移行期には吸気弁がOHV、排気弁がSV(Fヘッド)という エンジンも存在した(主に
汎用石油発動機に多く見られた)。
長いプッシュロッドではその質量と、
熱膨張による寸法変化が問題となるため、カムシャフトの位置を高くし、プッシュロッドを短くした、ハイカムシャフト方式と呼ばれるものもある。
OHV方式の採用例
四輪車
日本では、1960年代から1980年代に製造された
乗用車によく採用された。二輪車では
スーパーカブも1958年の発売開始時ではOHVであったが、1964年のモデルチェンジでSOHCに変更されている。同一車種に複数のグレードを設定する場合、上位グレードにはOHCエンジンを、下位グレードにOHVエンジンを採用し差別化を計ることが多かった
[ただし逆の場合もあった。]。代表的な車種は、
トヨタ・コロナ、
トヨタ・カローラ、
いすゞ・ベレット、
日産・サニー[B110・210型ではOHVのA型エンジン搭載の標準車に対してOHCのL型エンジン搭載のエクセレント系]、
三菱・ランサー[初代A73型の1200?車。]。
これらの車種で、モデルチェンジを行って存続したものは1980年代に入ってOHVの採用をやめた。1990年代以降の日本製の日本国内向け
小型自動車用
ガソリンエンジンに限定すると、
トヨタの
LPG車を含む一部の
商用車を除きOHVエンジンはほとんど採用されなくなり、現在はポペットバルブを持たない
ロータリーエンジンを除いては、すべて
OHCエンジン、もしくは
DOHCエンジンにに置き換えられた。
唯一の例外が、長らくOHCはかえって非効率・重量増過大・整備性悪化とされていた
水平対向エンジンで、
富士重工の
スバル・レオーネはいち大手自動車メーカーのフラグシップ車でありながら、
1984年になってようやくOHC化した。しかしそれも1800ccエンジンのみで、1600ccエンジンは据え置かれた。その後
1989年まで同一車種に混在する
[その後、1800cc車はレガシィへの移行により廃止。しかしその後もレオーネの1600cc車は廉価車種として生産され続け、1994年にようやくカタログ落ちしている。][なおスバルの直列エンジンは市販車初投入以降一貫してOHC(含むDOHC)である。]という、形式だけ見るならば他社に一段遅れた状況を展開していた。
プッシュロッドやロッカーアームの「音」が心地よいことと、オーバーホールやビルドがしやすく特、に
二輪車や汎用
ディーゼルを含む汎用OHVエンジン全般では、タイミングチェーンが無く
[ただし一部の自動車用は例外的にタイミングチェーンやタイミングベルトが用いられる場合がある。]、整備しやすいのが長所であることから、趣味の世界では依然としてOHVの人気は高い。
モータースポーツでは、カーボンコンポジットのプッシュロッドも登場している
[B110・310系サニーは、レース仕様としてA12エンジンをベースにプッシュロッドをカーボン素材とし、10,000rpmという高回転を実現し、現在に至るまで伝説になっている。当時はまだ、OHCにも市販用エンジンベースでは達成不可能だった。]。また、アメリカンモータースポーツの代表格といえる
NASCARにおいては、原則として参加する車のエンジンがOHVに限定されているため、
トヨタ・タンドラのように市販車ではDOHCエンジンを搭載している車がわざわざOHVにエンジンを換装して参加している例もある。
インディ500においては、
1994年に
ペンスキーが3400ccOHVターボの
メルセデスエンジンで優勝を飾っている。当時
フォード・コスワース・DFSエンジン等におされ、旧式化していた
ビュイックエンジンの救済の為に存在したOHV優遇規定
[当時、DFSエンジンなどのOHCエンジンは排気量が2650ccと規定されていたが、ビュイックエンジンなどのOHVを採用した場合に限り、3400ccまで排気量を拡大することが許されていた。]に則る形で
イルモアの手により作られたこのエンジンは、1000
馬力以上を発生する史上最強のOHVエンジンとなった。
またアメリカではコストダウンの波に押されて徐々に減りつつあるが、依然としてOHVエンジン搭載車が多く存在する。その一例として
シボレー・コルベットには、1980年代末期にZR-1と呼ばれるDOHC搭載モデルが存在したが、現行モデルではDOHCを廃しすべてOHVエンジンとなっている。これは機構が複雑なため重量が大きいDOHCエンジンに対し、OHVにはエンジンがより軽量であるというメリットがあり、重心を低くすることで運動性能を高めるという設計意図による。またDOHCのように回転数で馬力を稼ぐエンジンではなく、低回転だが大トルクによって馬力を稼ぐエンジンが、コルベットのアイディンティティであるという考え方による。また
クライスラーは半球形の燃焼室に由来する
ヘミエンジンを21世紀に復活させた。これには、数ある自動車メーカーのなかで、自社のアイデンティティを前面に打ち出し、差別化を図る狙いがある。
二輪車
ホンダは1977年にOHVながら4バルブを採用した
V型2気筒エンジンを搭載したGL500を市販した。このエンジンは最高出力を9,000rpmで発生し、約10,000rpmまで回った。高回転指向でない
クルーザー型
オートバイでは
ハーレーダビッドソン社・
ヤマハ発動機・
カワサキが採用している。また、
ホンダからは整備事情が悪い東南アジア・南米諸国向けにOHV125ccエンジンを搭載した
CG125やXR125Lが現在でも販売されている。なお
スズキも2003年から2007年にかけて製造販売した
チョイノリに専用設計のOHV50ccエンジンを採用していた。
汎用エンジン
OHVは、同じ排気量のSOHCエンジンと比べて構造が単純なため整備しやすく(とはいえSVほどではないが)、軽量・コンパクトという利点があり、4サイクルエンジンによる
自家発電機、
ポンプ、農耕用等の汎用エンジンといった自動車以外の用途では主役の座を維持している。しかし、一方で汎用エンジン大手の
本田技研工業は
2003年に従来の同社のOHVエンジンより軽量コンパクトな SOHCエンジン、
GX35(排気量:35.8cc、主に1インチエンジンポンプ、
動力散布機、
刈払い機用)を発表し、続いて
2005年にもSOHCの
iGX440(排気量:438cc)を発表するなど動弁機構をOHV からSOHCに置き換えている。
OHVは往復運動する部品が多く、特にプッシュロッドの重量が高回転時の
バルブの追従性を悪化させるため、
エンジンの許容回転数を上げることが難しくサイドバルブ程ではないがバルブサージングが発生しやすい。しかし、
飛行機や
船舶などの
レシプロエンジンでは
プロペラを定められた回転数よりも高速に回転させる必要がない上、耐久性と信頼性に優れるため、 OHV は多用されている。これは、
ディーゼルエンジンにも当てはまるが、自動車用でも小型のものはガソリンエンジンとの設計の共通化が進み、部品点数の削減や軽量化の面でもOHCが有利とされ、OHVは中型以上に見られるのみとなった。
関連項目
脚注
OHVについて