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深刻化する「土地所有者不明問題」 どんな影響があるの?

2017/10/16 07:02


2017年9月12日、国土交通省が「所有者が分からない土地に関する有識者会議」の初会合を開いた。その対策について年内に方向性をまとめ、来年の通常国会へ関連法案の提出を目指すそうだが、そもそも、「土地所有者不明問題」とは? われわれの生活に何か影響はあるのだろうか? 「人口減少時代の土地問題ー『所有者不明化』と相続、空き家、制度のゆくえ」(中公新書)の著者で、国土資源や土地制度の研究を行う吉原祥子さんに話を聞いた。「土地所有者不明問題=所有者がまったくいない」ではない土地所有者不明問題は、「所有者不明土地問題」や「土地の所有者不明問題」などと呼ばれることもあり、この言葉だけを見ると、「本当に誰の土地かが分からない」と思う人もいるかもしれないが、そういう土地はレアケースだそう。「土地所有者不明問題とは、『“現在の”土地の所有者の所在が、行政の台帳を見てもただちに分からない状態』のことを指します。そのため、必ずしも所有者がまったく誰もいないということではありません」(吉原さん、以下同)「行政の台帳」というのは、おもに「不動産登記簿」のことをいう。第三者が“ある土地”について所有者に連絡を取りたいと思ったとき、まずは各地の法務局が保管する不動産登記簿を見て、コンタクトを取るのが一般的。しかし、いざ連絡を取ろうと思っても、登記されている住所から転居していたり、すでに死亡していたりする。この状態が、「“現在の”土地の所有者の所在が、行政の台帳を見てもただちに分からない状態」なのだ。欲しい土地がある場合は、現在の所有者が分からなければ、「戸籍や住民票をいくつも取り寄せて、相続人を探していかなければいけません。その相続人は必ずしも近くに住んでいるとは限らず、日本各地、あるいは海外にいても全員に連絡を取る必要があります。その土地の権利移転をしようと思ったら、相続人全員の合意を取らなければいけない。そこに時間がかかってしまうのです」相続登記は義務ではない!吉原さんいわく、「相続登記は義務ではありません」とのこと。「現在、登記は任意であり、相続によって代替わりがおこっても、土地を担保にローンを組む必要がなく、売る見込みもないとなれば、名義が古いままでも困りません。つまり、相続登記を行う必要がないのです」また、「こうした任意の登記が主要な所有者情報源になっていることが、そもそも大きな課題」と吉原さんはいう。「不動産登記制度とは、本来、所有者の最新情報を把握するためのものではなく、権利を保全し、取引の安全を守るためのものなのです」「土地=資産」という考えが根強かったときには、争ってでもその土地が欲しいと思う人が多かったが、現在ではむしろ欲しくない人が増えているという。なぜなら、使い道のない土地をもらっても、管理責任や固定資産税など何かと負担が多いからだ。そんな負担を増やすために、わざわざ相続登記をしようと考える人はそういない。実際、法務省が行った「不動産登記簿における相続登記未了土地調査について」という2017年6月の報告では、最後に登記されたのが50年以上前という土地が都市部では6.6%に対し、地方都市や中山間地域では26.6%という結果も出ている。この数値を見れば一目瞭然。地方の土地ほど登記がされにくくなっているというのが現状だ。また、土地の価値に対する価値観の違いも一因となる。例えば、東京や大阪などの首都圏に土地をもっているのなら、資産価値は比較的高いため、むしろ誰が所有しているのかをはっきりさせたいと思うもの。しかし、地方ならばどうだろう?「田舎に帰る予定もない、畑や田んぼ、宅地など親の土地はいろいろあるけど場所もよく分からない。さらに、資産価値が見込めないとなると、わざわざきょうだい間で遺産分割協議をして、実印を押して、登記を書き換える、とはなりにくいかもしれません」個人の行動の積み重ねが地域の問題に発展土地所有者不明問題の現状がなんとなく見えてきたが、このままの状態が続くことで、われわれの生活に何か支障はあるのだろうか? 「今はあまり影響がないかもしれませんが、登記を更新しないという個人の行動の積み重ねが、やがて地域の問題へと発展してしまいます」と、吉原さん。「人口減少が進み、自治体では移住を促進したり、農地で新規参入を呼びかけ新しい就農者に農地を継承したり、国内外から優良な投資を呼び込んだりとさまざまな工夫をしています。しかし、それらを円滑に進めるためには、基本情報をきちんとととのえ、権利を明確化し、流動化しやすい土地・宅地にする必要があります。相続登記がされずに複数の法定相続人が権利を共有したままだと、土地の権利の移転に時間がかかりすぎてしまい、自治体や地域の新たな取り組みへの意欲を阻害しかねません。地方活性化の観点からも支障になるでしょう」また、「震災や土砂災害などの復興の足かせにもなる」と吉原さんは続ける。例えば、崩壊しかけた家屋をどうにかしたい、仮設住宅を建設したいといったときに、所有者が分からず手が付けられないという状況が生まれる。こうした事態を回避するため何かできることはないものか聞いてみると、「現在の不動産登記をはじめとする土地制度は、明治以降の右肩上がりの時代につくられたものです。そのため、土地への無関心や需要の減少などは想定されておらず、高齢化や人口減少、人口の都市部への集中といった今起きている社会の変化との間にミスマッチが生じています。構造的な問題なので、さまざまな局面を丁寧に分析し、それぞれに対応策をうっていく必要があり、息の長い話。万能薬や特効薬はありません」とのこと。そこで、吉原さんが提案するのは、「相続登記の簡易化・税負担軽減」「受け皿の確保」「情報基盤の整備」という3つの予防策。1.相続登記の簡易化・税負担軽減「登記をしようと思ったら、複数の人の住民票の写しや戸籍を全部たどって、法定相続人を確定させるために、多くの書類が必要。そういった手続きの簡略化や登録免許税の負担軽減を図るなどして、登記を促進することが大切です」2.土地の受け皿の確保「現在の土地所有者が安心して、納得して土地を手放せる受け皿をつくることも大切。現状、土地を寄付したいと考えても寄付先はほとんどありません。自治体でも、公共事業で使える見込みがある土地は受け取りますが、公的な使途がないと、『個人が維持・管理しきれないから』という理由だけで受け取ることはしていません。管理責任と管理コストが半永久的に続くわけですから。所有者にとっては、誰かに使ってほしい、譲りたいと思っても譲る先がないのです。『空き家バンク』が増えていますが、土地についても同様に、一旦プールできるような地域の特性に応じた受け皿をつくる必要があります。国としては、そうした地域の取り組みを支援するような財政面や法的な支援策をつくるべきです」3.登記情報に関する情報基盤の整備「3つ目は、きちんとした情報基盤を国がととのえていくこと。不動産登記は制度としては完成度が高いといわれていますが、それも登記がされてこそ機能するもの。相続登記の促進とともに、どうやって今ある仕組みのなかで情報を共有していけるかが重要です。死亡情報もその一例。現在、死亡届の情報は住民票がある自治体や本籍地の自治体、地方法務局などには共有されます。しかし、A市に土地をもっていて、B市に住んでいる、といった「不在地主」が亡くなった場合、A市には共有されず、把握できないのです。個人情報保護の観点から難しいかもしれませんが、例えばマイナンバーとひもづけるなどして、自治体間の情報共有をスムーズにできる情報基盤の整備が必要です」国や自治体の対策も当然求められるが、それと同時に自分でできることを考えることも重要。これから土地を相続するであろうわれわれの世代が、相続が発生したときにきちんと登記しようという意識をもつだけでも、問題解決への大きな一歩となる。まずは、実家の土地や物件の登記がどうなっているのか、現状を把握することから始めてみてはいかがだろうか。●取材協力・吉原祥子/東京財団


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