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『いもむし男』(149)ハンター-2

2010/03/04 23:19



【n2】
「きゃあっ!」という悲鳴とどよめきが甲府駅ビルのレコードショップ『新月堂』に広がった。悲鳴を上げたのはレジの店員だ。彼女は顔面に真っ赤な血を浴び、酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせながら目の前の客を見つめた。客は『アベ・マリア』のC.D.を手に持って呆然としたまま左胸から血を吹き出し続けている。ややあって、彼は突然事態に気が付いたように「たいへんだっ!」と叫んだ。
「だっ・大丈夫ですかっ!?す・す・す・すぐに救急車を呼びますからっ!」店員がそう言うまでも無く、他の誰かがすでに救急車を呼び、別の誰かが救命救急セットを持って駆けつけた。が、使い方が良くわからないので他の者を呼びに行った。そうこうする内にたまたま近くの『スタバ』で休憩していた救急隊員が飛んで来て、血だらけの彼を担架に横たえようとする。
「あ、いいんですっ、私は大丈夫ですからっ」などと言っても誰の目にも大丈夫には見えない。なにしろ心臓から掘り立ての油田みたいに血が吹き出ているのだ。彼はあっという間に止血帯でグルグル巻きにされ、担架に乗せられ運ばれて行く。
「ちょっと待ってくださいっ!私をどこへ運ぶつもりですかっ!?」
「どこって、救急救命センターに決まってるでしょうっ!あなた、死にたいんですかっ!?」
「私は死にませんから降ろしてくださいっ!」彼は担架の上で半身を起こし訴えた。「早く行かないと彼が・・・私はここで簀巻きになってる場合じゃないんですっ!」
彼の訴えはトイレから出て来た亜輝子の耳にも届いた。彼女は人だかりを掻き分けて担架まで辿り着き「ゴーショッ!」と叫んで目を剥いた。身を起こした彼は担架から降りようともがき、救急隊員に押さえつけられている。血を吹き出しながら逃げようとする怪我人に戸惑う隊員は混乱した表情を亜輝子に向け、「お知り合いですかっ?」と訊く。
「あ、はい・・・」亜輝子はコンマ1秒の間に全神経を集中して状況判断した。血は流れているがゴーショは死なない、ゴーストの彼を救命救急センターで治療したらエライ騒ぎになる、だからなんとかこの場を「一件落着」に持って行かねばならない、と。そして咄嗟に翔吾のことを思い出した。彼ならこんな時、どんなデタラメを言って切り抜けるんだろう?
「亜輝子さんっ」その時、ゴーショが彼女の腕を掴んで言った。「たいへんですっ、翔吾が撃たれましたっ」
(ええっ!!??)
亜輝子は声も出せずにさらに目をひん剥いた。ゴーショは続けた。「私は夫目高原に行きますから後を頼みますっ。さっきそこの店員さんの服を汚しちゃったので謝っといてくださいっ」彼はそう告げてから目を閉じ、眉間に皺を寄せた。かと思うと次第に輪郭がぼやけ、間もなくフッと消えた。
担架を持っていた救急隊員は互いの顔を見合わせ、空になった担架に目を落とし、それから亜輝子の方を見た。周りを取り囲む野次馬も一斉に彼女を見た。
亜輝子はコホンと咳払いをして髪を掻き上げる。「お騒がせしました。彼は修行中のマジシャンなので、ちょっとコントロールが下手でして・・・予告無く芸を見せるな、っていつも言ってるんですけどねぇ・・・」




轟く銃声と共に、至近距離から撃たれた翔吾は4メートル後ろへ吹き飛んだ。男はすぐに走って来て、今度は彼の頭に銃口を突き付けた。「化け物めっ」男は低く呻くように言い、引き金に掛けた指に力を込める。男の腕はガクガクと小刻みに震えていた。
「なぜ僕を撃つんだ?」翔吾は仰向けに倒れたまま訊いた。「僕が、あんたに何をした?」
男はギョッとして、銃口を少し下げた。「な・な・な・なんだっお前っ、喋るのかっ!?」
「当たり前だ」翔吾は少しだけ身じろぎした。「僕は、人間だ。言葉ぐらい喋る」
「に・人間っ!?」男の顔色がサッと蒼褪めた。「う・う・う・ウソだろっ?に・に・に・人間なら、な・な・な・なんなんだっその体はっ!?」
「ああ、これか・・・」翔吾は捲くれた裾から覗く吸盤をピクリと動かす。「・・・これは、着ぐるみだ」
「着ぐるみ・・・?」男の顔にクエスチョンマークが広がる。「着ぐるみ、ってのは、あれか、ウルトラマンに出て来る怪獣が着てる奴か?」
「そうだよ。ウルトラマンだって着ぐるみを着てる。だけど中には人間が入ってる。僕だって同じだ」
そう言って体を起こそうとした翔吾の頭を、男は銃口で押し戻した。「動くなっ、まだ信じたわけじゃねぇっ!」男は彼の胸に目をやる。弾の当たった痕が布の上に黒焦げのように残っている。そこにはしかし、一滴の血も流れていなかった。
「・・・その、お前の着ぐるみは・・・防弾仕様か?」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【お知らせ】
ブログ連載小説「いもむし男」は3月一杯で完結する予定です。完結後、この物語の感想コメントコンテストを実施します。感想コメントは4月1日から5月31日まで、応募フォームより受付けます(応募フォームは4月1日よりブログ上に設置します)。
締め切り後、最もn2を唸らせた(あるいは笑わせた)一点を選び、n2作オリジナルステンドグラスミニランプをプレゼントいたします。
どうぞ、腕によりを掛けてチャレンジください。


Binder: nanaのバインダー(日記数:1272/全体に公開)
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