umasica :桜里さんのマイページ

神糞神学への道

2010/03/27 21:41

 

 私が子供の頃、ギュスターブ・ドレの版画で飾られた子供向けに書き換えられた旧約聖書のページをめくっていたとき、雲の上に立つ神を見た。年とった男で、目、鼻、長いあごひげがあって、もし彼に口があるなら、食べるに違いないとつぶやいた。そして、もし食べるならば、腸もなければならない。しかしすぐこの考えにびっくりした。どちらかといえば神を信じない家庭の子供とはいえ、神の腸という想像は冒涜的であると感じたからである。

 何らかの神学的準備なしで、自然に、私はもう子供のときから糞と神が両立しがたいことを理解していた。そして、そこからキリスト教的人類学の基本的テーゼ、つまり人間は神の姿に似せて作られたというテーゼに対する疑いもおこった。二つのうちのいずれかでなければならない。人間が神の姿に似せて作られた、とすると神は腸をもっていたことになる。神が腸を持っていないとすると人間は神に似ていないということになる。

 古代のグノーシス派の人たちも、五歳のときの私と同じようなことを感じていた。二世紀のグノーシス主義の巨儒、ヴァレンティノスはこの糞いまいましい問題を解決するため、イエスは食べ、飲みはしたが、排便はなさらなかったと主張した。

 糞は悪よりもはるかに困難な神学上の問題である。神は人間に自由を与えた。従ってわれわれは神が人間のもろもろの罪に責任がないというのを結局許容することができる。しかし、糞に対する責任は人間を作り出した者だけが全面的に負うことになる。

 

 

 

五歳の時の私は、そんなことは考えなかった(と思う)が、五歳のミラン・クンデラはそんなことを考えたらしい(『存在の耐えられない軽さ』による)。

 

しかし、神と糞、美人と糞、天皇と糞の問題は、人類を通して、あるいは日本近代史を通して、それぞれの時代を生きた人々の前に(出来れば鼻をつまむだけで済ませたい)難問として横たわっていた、はずだ。

 

 

聖なる存在と糞。そこにある問題を要約すれば、神、美人、そして天皇こそは、世俗を超越した聖なる存在なのであり、糞との両立の困難が人を悩ますことになってしまう、ということだ。

 

五歳児の私は、神と糞のことは考えなかったとは思うが、後年の私が、その問題を考えなかったわけではない。

神は(自分のために)どんなトイレを創造し、どんな長さのトイレットペーパーをお使いになったのだろうか? …と、その問題にアプローチしてしまうのが、後年の私の姿であった。

 

 

 

 

ホロコーストの歴史に立ち向かう時、あの絶滅収容所の効率的な殺害システムが、その当初、抱えていた欠陥を知ることになるだろう。

当初ドイツ人たちは、確かに効率的な殺害には成功したが、死体処理システムの設計を怠っていたために、大いに不愉快な状況に直面させられることとなった。もちろん、効率的な大量殺害自体が大いに不愉快な事態なのであるが、それは絶滅収容所の運用に関与していたドイツ人達からすれば無意味でセンチメンタルな感情であったに過ぎない(彼らからすれば、ということだが)。

彼らが直面させられたのは、処理されないままに積み上げられた大量の死体が生み出す現実なのであった。

耐え難い悪臭を放ちながら腐乱していく死体(の山)。

もちろん、有能で勤勉なドイツ人達は腐乱死体の山を座視し続けることはなく、焼却処理のシステムを組み上げることにより、その問題に対処していくことになる。

 

ナチズムに忠誠を誓ったドイツ人達にとって、効率的に殺害されたユダヤ人の死体の処理は、糞いまいましい問題であったに違いない。

 

 

話を戻すが、神が聖なるイメージを負わされる存在であるのと同様に(とまでは言い切れないような気もするが)、生きている人間にも聖性を感じさせられる瞬間がある。特に死体との対比において、生きている人間は、穢れとしてイメージされる死体に対し、聖性を帯びた存在として立ち現れることになる。

しかし同時に、死体とは、生きた世俗を離れた存在なのである。穢れだからこそ触れてはならぬ存在であると同時に、毀損してはならぬ聖性を帯びた存在としても立ち現れるのである。

 

 

 

絶滅収容所の運営に当たっていたナチズムに忠実なドイツ人にとっては、そもそも死体にされるべきユダヤ人は、下等人種であり、軽蔑され排除されるべき既に汚れた存在なのであった。

しかし、死体となったユダヤ人達は、優越なるドイツ人の死体と同様に腐敗し、その処理を迫る存在となって彼らの前に山を築いたのである。腐乱することにおいて、人種の相違など吹き飛んでしまっているのだ。積み上げられた死体の腐敗する臭気の中に、人種主義の愚劣さが露呈する瞬間であった。死体となった汚れたユダヤ人が、聖なる悪臭を放ち、人種主義者を覆い尽すのだ。

 

 

 

 

 

食べる口を持った神は、そして食べることを楽しんだ神は、悪臭を放つ自らの糞の処理の必要に直面することになっただろう。

 

そんな、旧約聖書の神の姿を創造した民族の殺害を計画した民族が直面させられることになった死体処理の問題。神に選ばれたユダヤ人の殺害を計画した優秀なる北方民族が直面させられた糞いまいましい問題であった。

 

 

 

 

 

もっとも、聖なる神の糞は、聖なる香しき糞となるのであって、むしろ崇敬の対象とされるべきである、との神学的主張の可能性にも気付いてしまう、今夜の私なのであった。

 

 

 

 

 




Binder: スカラベ・サクレ(日記数:11/全体に公開)
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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2010/03/27 22:54
    神の糞シリーズの開始、となるかどうかは、神のみぞ知る。

  • Comment : 2
    Mr.Dark
    Mr.Darkさん
     2010/03/28 02:31
    なんと素晴らしいことかっ!
    この日記を覗いた各々方はコメントせざるをえないであろう!

    さあさあ!!

  • Comment : 3
    Mr.Dark
    Mr.Darkさん
     2010/03/28 02:41
    アメリカ辺りじゃあ、「Oh! Jesus!」は「てやんでぇ!糞ったれ!」てな意味で使われるようです。

    なんてこった!
    神様が糞‥

    Oh! Jesus!

  • Comment : 4
    ハートマン軍曹より怖いぴょん軍曹殿の命令で撤収します 失礼しました
     2010/03/28 15:59
    Smith-elさんとumasica :桜里さんはアラシ対策として何やらいろいろと企んでいるみたい。
    あの二人が本気になったら大変なことになるのは必至なんだけどね。


     
    こんなこと言うお馬鹿さんがいたの。
    教えてあげますね。


    確実なのはインターネット・ホットラインセンター(http://www.internethotline.jp/)に通報するのが一番。
    ホットラインセンターが、情報に違法性があると判断した場合、そのことについてホットラインセンターが警察庁に通報することになります。

    でも・・・・・・その辺はうまくやっているのではないのかなぁ?
    www

  • Comment : 5
    umasica :桜里
     2010/03/28 22:53
    ポポ☆様


    アホネタの続きを書くのに熱中していて、お返事遅れて申し訳ないです。

    >Smith-elさんとumasica :桜里さんはアラシ対策として…

    Smith-el氏は、
    「アラシ対策」仲間というよりは極上のウンコトーク仲間でございます。

    ただ、私たちにとってウンコの食用化は実践の問題ではないというのに、
    読解力のないバカが、
    ウンコを食べる話をしていると思い込んでいたりするようで、
    (少しだけ)困ったもんだなぁ…と。

    ま、それで実害があるわけじゃなし、たいした話ではないですが。


    いろいろとお心遣いいただき、ありがとうございます。

  • Comment : 6
    umasica :桜里
     2010/03/28 23:03
    Mr.Dark 様


    >アメリカ辺りじゃあ、「Oh! Jesus!」は「てやんでぇ!糞ったれ!」てな…

      Oh,Shit!!

    だと、文字通りの「糞ッ!!」ですなぁ。


    J.へラーの小説『キャッチ22』の登場人物に、
    シャイススコップ少尉(最後には将軍になる)ってのがいるんですが、
    これって、文字通り「糞頭」(Sheisskopf)という名前の設定。

  • Comment : 7
    やわらか☆不思議猫
     2010/04/24 23:33
     ほとぼりも冷めてきたみたいなので(←何のことだ?)神の糞をいじって遊んでみました。ほとんどアラレちゃん気分です
     コメントとしてつけるには重すぎたので、不承不承自分のブログに上げております。

  • Comment : 8
    umasica :桜里
     2010/04/25 00:29
    やわらか☆不思議猫様


    >ほとぼりも冷めてきたみたいなので

    実はこんなコメントをいただいていたのだけど、当人に削除され…
     ↓ ↓
    Comment 4 2010/03/28 10:52 レモンさん

     (大爆笑)

     ↑ ↑
    この「レモン」さんは、
    なりすましで有名な「freeml」の老舗アラシの「レモン」さんではなくて、
    老舗アラシのレモンさんのなりすましのアラシのレモンさんの方であります。

  • Comment : 9
    (博士)
    (博士)さん
     2010/04/25 09:03
    読ませていただきました。
    ・・神=ご都合・・個人的各付けの問題と依存・・・他人の都合は糞である。・・・ってことすな。

  • Comment : 10
    umasica :桜里
     2010/04/26 00:11
    (博士)様


    >読ませていただきました。

    とんでもないものを読んでいただき恐縮しております。

    これ、話せば長〜〜〜い話になるのですが、
    そもそもが、この春のアラシ騒ぎ用のネタでありまして、

     さぁ、かかって来いアラシども!!

    …という気分で書き始めたものだったのでした。

    「友達」だった、みやのたれさん(退会してしまいましたが)のところでの、
    盛り上がった(?)ウンコ話と、それに絡んだバカアラシの出現が始まりで、
    バカアラシの相手用にウンコネタを書くことを思いつき…

    …という実に不純な動機から始まったのでございます(告白)。

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