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キャプテン・シャイスとアル・ラーシ島の魔物達

2010/04/01 18:42

斎藤智之の『蘭学夜話』(学而書房 昭和26年)に、キャプテン・シャイスに触れた一節がある。

 

1600年前後の英国社会では、ある程度、名の知れた人物であったらしい。

 

確かに、チャースル・タレルの1602年の曲集中に、「キャプテン・シャイスのためのパヴァーヌとガイヤルド」が含まれていることは私も知っていたが(数種のCDを愛聴している)、今回あらためて『蘭学夜話』を読んで、キャプテン・シャイスに注目することになった。

これまで、古いLPの解説文などでは、シャイス大尉として紹介されていたものだが、キャプテンは大尉ではなく船長の意であることが、斎藤の本を読むとわかる。

ドイツ出身の船長、それもいわゆる海賊船の船長として、当時は有名であったらしいのである。もちろん、海賊というのは、当時の英国にあっては犯罪者などではなく、冒険商人、武力行使を伴う経済行為の担い手だったのであり、その航海は上流人士の投資の対象でさえあったことは言うまでもないだろう。

 

 

今回、あらためてキャプテン・シャイスに注目したのは、シャイスと同時代のスミッシェル卿の日記に、シャイス船長によるクドァ=ラナイ探検への言及があったことが、『蘭学夜話』に書かれていたからである。

ハイアイアイ考古研究室の紀要(4巻38ページ)には、クドァ=ラナイ島東部海岸に居住するキビツー族の伝承が取上げられており、報告中にある「モモとアロー伝説」については以前にもご紹介した覚えがあるが、スミッシェル卿の日記には、キャプテン・シャイスの伝えた「モモとアロー伝説」の異伝とでも言うべき物語が残されていたのである。

 

 

 

シャイスが伝えるのは、クドァ=ラナイのキビツー族の祖とされる、モモとアローの兄弟の波乱万丈の生涯の中の、アル・ラーシ島での妖怪退治物語である。ちなみに、斎藤によれば、この「アル・ラーシ」という島名にはアラビア半島との交易の名残を見出すことが出来るのだという。

 

そのアル・ラーシ島は(伝承によれば)、そもそもは両性具有の妖怪レ・モン・ネ・カーマの支配する地であった。そこを通りかかったのが、魔物の総大将ヌーラ・リ・ヒョ−ンと鬼女サ・ザーエの一行である。

スミッシェル卿の日記には原因の記述はないが、レ・モン・ネ・カーマと一行の間に争いが始まり、最後にアル・ラーシ島はヌーラ・リ・ヒョーンの手に落ちる。

性悪な賢者の入れ知恵により、レ・モンの真の名前である「ネ・カーマ」を知ったことが、ヌーラ・リ・ヒョーン一行の勝利の一因であったらしい。

しかし、レ・モン・ネ・カーマも、ただ引き下がったのではなく、一行の一番の勇者であった戦士ザン・ギーフに呪いをかけている。レモン・ネ・カーマの発する「ホモジョンラ、ネ・カーマ!!」の叫びを浴びて以来、戦士ザン・ギーフは女を愛することが出来なくなり、そこで勇者の血筋は絶えることになるのである(勇者を襲う第一の悲劇)。

 

やがて、その島に向かい、ヌーラ・リ・ヒョーンと戦うのが、キビツー族の祖であるモモとアローの兄弟だというのが、この叙事詩的な物語の構図のようである。

 

 

…というのが、斎藤智之の『蘭学夜話』の伝える、スミッシェル卿の日記中にある、キャプテン・シャイスを通じて当時の英国にもたらされたクドァ=ラナイのキビツー伝承の梗概である。

 

 

 

このキビツー伝承については、これまでハイアイアイ考古研究室の紀要のウマシーカの報告(ただし伝承内容は異なる)のみが有名だったが、実は、17世紀の英国では人口に膾炙したものであった可能性があるわけだ。

 

今回、キビツー伝承を取上げたのには、もうひとつ理由がある。

実は、戦中の日本でも、伝承が研究の対象となった時期があるようなのだ。一時はクドァ=ラナイも日本の占領下にあったことを考えれば、当然のことであるようにも思える。

昭和18年の『民俗学論叢』に、「キビツウ族と人糞」と題された筆者不詳のエッセイが収録されていたことが、近年のキビツー研究の進展により明らかになったのだ。

 

そこに紹介されているのも、アル・ラーシ島(ただしエッセイ中での島名の表記はアル・ラァシィ、以下も同様)をめぐる攻防中のエピソードと考えられる。

 

「キビツウ族と人糞」によれば、ここで活躍(?)するのは、ヌーラ・リ・ヒョーン(ヌゥラヒオン)一行の中にいた、カ・オ・リークン(カヲリィクン)である。

カ・オ・リークンは、モモとアローの故郷であるクドァ=ラナイ(妖精の女王サ・オ・リーンに守られている)に潜入するのだが、そこでモモとアローの双子の姉妹であるミヤとタレに出会う。カ・オ・リークンはそこで、ミヤとタレに恋をしてしまうのだが、あまりに愚かなために相手にされない。空しくアタックを続けるうちに、ミヤとタレが食べていたオヤツを排泄物(大便)と誤認し、フラれた悔し紛れに、そのことを大きな声で触れ回る。

それが、妖精達の師匠であるオー・ス・トリー(オゥストリィア)の耳に入り、カ・オ・リークンは呪いをかけられてしまう。それは、口を開くと、口から大便が溢れ出るという恐ろしい呪いであった。

 

やがてアル・ラーシ島に戻ったカ・オ・リークンは、ミヤとタレのことを「本当は男で汚物を食べていた」と仲間に語ろうとするのだが、その度に口から汚物が溢れ出し、その汚物に触れた者も同じ呪いの虜となってしまうのであった(同じ言葉を口にし、その度に汚物が口に溢れる)。

島で最初に出会った勇者ザン・ギーフの運命は特に悲惨で、既に女を愛することが出来なくなっていたザン・ギーフは、カ・オ・リークンを介してオース・ト・リーの呪いを受けて、大便しか食べられない身体にまでなってしまうのである(勇者を襲う第二の悲劇)。この経緯に関しては、ザン・ギーフがオー・ス・トリーに向けて、偽オー・ス・トラリー(オゥストラリィア)だと口走ったことが原因だとする伝承もあるようだ。

やがてカ・オ・リークンに遭った魔物達は、すべて汚物まみれとなり、大便を口にしてのたうちまわることになるのであった。島は汚物で覆われてしまう(食べようとするものすべてが汚物に変化するという伝承もある)。そして、伝令役の魔物に至っては、汚物まみれで世界を飛び回る破目になるのであった。

その結果、カ・オ・リークンがヌーラ・リ・ヒョーンとサ・ザーエの大きな怒りを買い(伝説とはいえ、役立たずの部下ばかりなのには同情する)、「母上より怖いお仕置き」を受けるところで、『民俗学論叢』の記事は終えられている。

 

 

 

 

最後になるが、あらためて興味深いと思われるのは、キャプテン・シャイスが英国社会に伝えたクドァ=ラナイ伝承が、シェイクスピアの『テンペスト』のプロットにまで影響を与えているのではないかとの可能性を、『蘭学夜話』で斎藤智之が述べている点であろうか?

 

日本の「桃太郎」伝説とシェイクスピアの『テンペスト』が、クドァ=ラナイを中心として、17世紀の世界の中で結ばれることになるのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 We are such stuff as dreams are made on, and our little life is rounded with a sleep.


 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



Binder: スカラベ・サクレ(日記数:11/全体に公開)
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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2010/04/01 21:05
    …と、今年も4月1日となりました。

  • Comment : 2
    みやのたれ
     2010/04/01 23:32
    ダイエット成功しました。〜4月バカ〜

  • Comment : 3
    umasica :桜里
     2010/04/02 00:01
    みやのたれ様


    >ダイエット成功しました。〜4月バカ〜

    今や「freeml」で有名になった、かりんとうダイエットですね?

  • Comment : 4
    umasica :桜里
     2010/04/02 07:27
    【回覧板】スタッフの皆様、おはようございます。

    準備は完了しましたか?

    ウンコまみれのページの配布、お役目とはいえ、ご苦労様です。

    「今週の回覧版」となっていますから、
    これから一週間も、皆さんはウンコまみれの日々ですか?


    では、皆さん、声を揃えて、

       私たちは、今日もウンコまみれで頑張ります!!

                (元気に言えたかな?)

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