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原子力の明るい未来

2011/06/03 22:28

 『ウィキペディア』で「下條アトム」の項目を読むと、



アトムという名前は本名であり、父・正巳が第二次世界大戦後間もなく生まれた息子を、将来は日本でもアメリカのように名前・苗字の順に呼ぶようになり、ローマ字の順に名簿も作られるだろうと考え、ならばアルファベットのAで始まる名前なら最初に呼ばれるという理由で、さらに「今後の原子力は戦争ではなく発電など平和のために使われるはずである」という願いを込めて、原子を意味する英語atomから名付けた。

手塚治虫の漫画『鉄腕アトム』は下條アトムの命名より後に描かれたものであり、同名は偶然の一致であるエピソードは有名である。鉄腕アトムの連載当時、アトムという名の少年が実在することが話題となり、当時少年だった下條は手塚治虫と対面している。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E6%A2%9D%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%A0



…なんて書いてあるのに出会う。


 下條アトムは1946年11月26日生まれなので、戦後の「原子力の平和利用」としての原発推進政策採用をはるかに先立つ命名だということになる。『ウィキペディア』には、


  「今後の原子力は戦争ではなく発電など平和のために使われるはずである」という願いを込めて…


…とあるが、「発電」のためのエネルギーの可能性を彼の父がどこまでその時点で意識していたのかについては若干の疑問が残らぬでもないにしても、原爆として実現された軍事力としての原子力エネルギーの巨大さは、敗戦後(当時の用語で言えば終戦後)の日本人に圧倒的な印象を残していたことは確かであろう。

 エネルギーの巨大な可能性という意味ではその延長でもあり、非軍事的可能性という意味ではその反転でもあるイメージを、自分の子供の命名に際して思いついた、戦後間もない時期の彼の父の姿を、あらためて振り返っておきたくなったわけだ。




 福島の原発事故の圧倒的なイメージは、原子力エネルギーへのマイナスイメージを自明のことであるが如き状況を作り出してしまったが、少なくとも戦後間のない日本人のひとりには、明るい未来の予兆として感じられていたことを再確認しておきたい。



 手塚治虫の『鉄腕アトム』の方を『ウィキペディア』で読むと、



21世紀の未来を舞台に、原子力(後に核融合)をエネルギー源として動き、人と同等の感情を持った少年ロボット、アトムが活躍する物語。米題は『ASTRO BOY(アストロ・ボーイ)』。

本作は、1951年(昭和26年)4月から、翌年3月に連載された『アトム大使』の登場人物であったアトムを主人公として、1952年(昭和27年)4月から1968年(昭和43年)にかけて、「少年」(光文社)に連載され、1963年(昭和38年)から1966年(昭和41年)にかけてフジテレビ系で日本で初めての国産テレビアニメとしてアニメ化された。このアニメ第1作は平均視聴率30%を超える人気を博し、その後、世界各地でも放映された。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84%E8%85%95%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%A0



…とあり、下條アトムの誕生から5年過ぎてのデビューであることがわかる。原作の設定では、



1 善悪を見分けられる電子頭脳。よい人とわるい人の見分けが付くに変更され、電子頭脳も頭部から胴体へ変更された。
2 60か国語を話せる人工声帯。
3 涙もでるサーチライトの目。
4 10万馬力の原子力モーター。「地上最大のロボットの巻」では100万馬力に改造されている。(「アトム大使」の初出版では、五百万ダインと表記されていた。)
5 足のジェットエンジン。最大マッハ5で空を飛ぶ。宇宙空間ではロケットに切り替わり最大マッハ20で飛ぶ。
6 鼻がアンテナ。鼻が伸びて送信アンテナに。



…となっており、現在の私たちの関心からは「10万馬力の原子力モーター」というところが注目点となるわけだ。「原作の公式設定では、2003年4月7日がアトムの誕生日とされる」との記述もあるから、アトムは現在8歳ということになる。



 現在に続く日本の原子力政策を振り返れば、中曾根康弘の名と原子力政策の歩みが一体であることがわかる。再び『ウィキペディア』を引くと、中曾根康弘の項に、



1954年(昭和29年)- 3月、日本で初めて「原子力予算」を国会に提出し成立させる。正力松太郎にこの頃近づき、正力派結成の参謀格として走り回る。共に政界における原発推進の両軸となる。
1959年(昭和34年) - 第2次岸内閣改造内閣の科学技術庁長官として入閣。原子力委員会の委員長に就任。


1954年3月2日、一議員でありながら原子力研究開発のための予算を上程、これを通した(具体的には科学技術研究助成費のうち、原子力平和的利用研究費補助金が2億3500万円、ウラニウム資源調査費が1500万円、計2億500万円。これが現在に至るまでの自民党の原子力是認につながっている)。1955年の保守合同に際しては、長らく行動を共にした北村徳太郎が旧鳩山派である河野一派に合流したことから、河野派に属した。第2次岸改造内閣において、渡邊恒雄を介して大野伴睦の支持を受け、科学技術庁長官として初入閣。党内で頭角を現し、河野派分裂後は中曽根派を形成し一派を率いた。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9B%BE%E6%A0%B9%E5%BA%B7%E5%BC%98



…と記されている通りである。『鉄腕アトム』から少し遅れての、現実政治を舞台にしての「原子力の平和利用」の開始だったわけだ。


 確認したわけではないが、この時点で、中曾根康弘あるいはその周辺の原子力政策推進役であった人々が、原発操業のマイナス面としての核廃棄物問題の深刻さを考えていたようには思われない。それは彼等の無責任さの現われと言うよりは、当時の想像力の範囲がそこまで及ばなかっただけであるように感じられる。

 広島・長崎両市民の犠牲の上に、ようやく放射線障害の実態が明らかになりつつあったのが1950年代のことなのである。




 ちなみに1969年連載開始の藤子不二夫の『ドラえもん』は、



体内には、原子程度に分解してエネルギーに変換する「原子ろ」と呼ばれる胃袋を有し、人間同様に食事をする。基本的に人間と同じものを食べる。食べた物の消化率は100%、動物のように糞尿は一切排出しなくてもすむが、トイレに行って用を足しているようなシーンも存在する。ドラえもんは子守用のロボットとして作られた為、子供にトイレのしつけをするためにトイレで用を足すという設定もある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%A9%E3%81%88%E3%82%82%E3%82%93_(%E6%9E%B6%E7%A9%BA%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC))



…という設定になっている。ドラえもんの場合には廃棄物の問題は存在しないらしい。「原子ろ」という名称に原子力エネルギーへのプラスイメージの反映(藤子不二夫もまた、下條アトムの命名を大きな違和感なく受け入れられる世代であろう)を見出すことが出来るように思われるが、少なくとも危険性は排除されているわけだ。

 『鉄腕アトム』では、核廃棄物問題がどのように想定されていたかについては今のところわからない。しかし、アトムが事故に遭ったらと考えると、それは小型原子炉事故を意味するわけで、事故処理の困難さを想像してしまうのは私たちが福島後の世界の住人だからということになるのであろう。







Binder: 現代史のトラウマ(日記数:678/全体に公開)
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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2011/06/03 23:53
    原子力エネルギーに関しては、
    プラスイメージもマイナスイメージも歴史的に理解する必要がある。


    …というお話なんだろう。


    原発推進派も、危険なものを安全と考えて始めたわけじゃないだろう。

  • Comment : 2
    askyneko
    askynekoさん
     2011/06/04 01:56
    >それは彼等の無責任さの現われと言うよりは、当時の想像力の範囲がそこまで及ばなかっただけであるように感じられる

    なるほどと合点がゆきます。人間とは間違いを犯すものではあるけれど、その間違いを正すこともできるものであるという読み方もできますねぇ。ただし、間違いに気づくかどうかは、別のことですけれど・・・。

  • Comment : 3
    umasica :桜里
     2011/06/04 07:48
    加筆してココログにアップしておいた。

     歴史としての「原子力の明るい未来」
      http://uma-sica.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-fca3.html

  • Comment : 4
    Mr.Dark
    Mr.Darkさん
     2011/06/04 22:39
    「原子炉」というと、巨大な原子力発電所をイメージしますが、潜水艦のような比較的小型の艦船にも搭載できるほどコンパクトにして使用することもだいぶ前から現実化していますよね。
    「小型・軽量化がエライ!」というのは、クルマはもちろん、あらゆる工業分野における21世紀のトレンドでありますから、原子炉もミニマム化を目指した動きがあって当然だと思います…しかし、まだ私はそういう話を聞いたためしがないのですけど。(笑)

  • Comment : 5
    umasica :桜里
     2011/06/05 15:14
    akenosky 様


    >間違いに気づくかどうかは、別のこと

    気付いても意地を張るし…

    ホントは「君子は豹変す」なんですけどねぇ。

  • Comment : 6
    umasica :桜里
     2011/06/05 15:16
    Mr.Dark 様


    >原子炉もミニマム化を目指した動きがあって当然…

    原(子炉)付バイクとか…

    しかし、事故ると警察も救急隊員も近づけない。

  • Comment : 7
    Mr.Dark
    Mr.Darkさん
     2011/06/06 16:24
    >原(子炉)付バイクとか…
    わはははははっ

    思わず声出して笑っちゃいました(笑)

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