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メイド・イン・ジャパンの悲劇(第二次戦時標準船)

2011/11/15 22:38


 艦政本部は第二次戦時標準船の設計に際し、徹底した工期短縮を行なうために建造予定の各形式の船について、抜本的な対策としてかなり強引な設計の簡略化、それに伴う強引なまでの工作の簡略化を実施したのである。この抜本的な対策とは次のようになっていた。

 (イ)、早期完成のために量産化に適した構造の船であること。

 (ロ)、材料と工数の徹底した節約と節減。

 (ハ)、(ロ)項の要求から完成した個々の船舶の寿命は短期であっても可とする(戦争期間だけ持てば良い)。

 (ニ)、運用効率の上から一隻当たりの載貨重量は極力大きくする。

 (ホ)、個船には高性能は求めない。従って機関の低馬力と低速力は容認する(量産の利く低価格、低性能の機関の搭載が前提条件)。

 第二次戦時標準船に貫かれた建造方針は、一にも二にも徹底した簡易・簡略構造による建造機関の短縮であった。そして結果的にはこの第二次戦時標準船こそ、後に粗製濫造の見本として周知された、いわゆる「戦標船」なのである。

 第二次戦時標準船に採用された主な簡易・簡略化は次のとおりであった。

 (イ)、全船種からの二重底の廃止。

 (ロ)、船体のシーアやキャンバーの廃止。一部を除き曲面加工の廃止。

 (ハ)、ブロック建造方式の大幅採用。

 (ニ)、電気溶接工法の大幅採用。

 (ホ)、付属装置や機器の簡素化。

     大内建二 『戦時標準船入門』 (光人社NF文庫 2010  75〜76ページ)




 この徹底した簡易構造の中でもその際たるものは船舶の安全の基本に関わる二重底の廃止であった。二重底とは船底を二重構造に組み上げ、船舶が座礁などしたときに船底の決定的な破損を少しでも軽減し沈没の危機から救うこと、また船体の強度を高めるための基本的な構造として採用されている、船舶の構造上必要不可欠なものである。

 二重底の組み立てはその船が起工され船台上で工事が始まった直後から開始される最重要の工程で、確かに多くの鋼材と多くの作業を要する複雑な工程である。この複雑な工程を排除することは船の建造のスピードアップには確かに極めて効果の大きなものであるが、その反面、船の安全性を根底から否定することでもあり、特に用船者側から見れば信じられない暴挙であった。

 二重底の撤廃に対しては航海の安全が保証されず、任務の遂行も保証できないとして各海運会社等からは、設計主務者である海軍艦政本部に対し厳しい批判と苦言が呈された。しかし艦政本部はこれら全ての批判や苦言を黙殺し二重底撤廃を強行したのである。つまり第二次戦時標準船は大小全ての船が二重底を装備していないという、信じられない構造の船となったのであった。つまり各船の船底は十〜二十ミリの鋼板一枚だけであったのである。

 徹底した簡略設計や工作が強行され、また作業工程が簡略化されて完成した船はその後それぞれに多く問題を残すことになった。その代表的な例が水密性の欠陥であった。

 造船所で完成した船が、竣工検査で必ず実施するものに船体の水密性に対する検査があった。これは船体の吃水線以下の船体の漏水の検査で、不良工事は将来的にその船の沈没も招きかねず、事前に徹底的に検査することが決まりであった。ただこの検査は多くの時間を要することになり、不良個所の改修作業も決して容易ではなかった。第二次戦時標準船では完成時のこの検査を極めて簡単な簡易検査だけにとどめてしまったのである。

 このために信じられないことではあるが、完成直後から直ちに輸送任務に投入された各船では、しばらくの間は乗組員による漏水個所の手直し作業が行われるという、異常な状態が続くことが多かったのである。また甲板の鋼材の電気溶接個所も、工作不良により船内に水漏れが生じることは日常的で、就航後は当分の間、乗組員による様々な手直し作業が続くのは当たり前というのもこれらの船の特徴でもあったのである。粗製濫造の極みともいえる状態は確かだったのである。しかしこの混乱は設計だけに原因があるのではなく、後述するように多くの部分が造船作業員の技量の大幅な低下に由来していたのであった。

     (同書 80〜82ページ)




 



こういう船舶が、戦時日本の海上輸送を担わされていたのであった。









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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2011/11/15 23:40
    風邪は相変わらずだが、
    幸い、今日は仕事は休みで、午前中は完全休養。

    で、午後は、こんな本を読んでいたのだった。
     (あまり健康に良い本ではないなぁ…)

  • Comment : 2
    Mr.Dark
    Mr.Darkさん
     2011/11/16 23:20
    うぅ…
    まさに「貧すれば鈍す」ですね(T_T)
    戦艦大和は、建造当時は世界最高の技術と資材を投入された最強の不沈艦(対艦戦闘という条件ならば)だったのに…

  • Comment : 3
    umasica :桜里
     2011/11/17 18:36
    Mr.Dark 様


    >うぅ…
    >まさに「貧すれば鈍す」ですね(T_T)

    開戦前から、
    大本営政府連絡会議では「船舶需給ノ見通シ」をテーマに、
    いろいろ議論はしているし、開戦後もやってるんですが、
    要するに大変に甘い(自分に都合のよい)予想を立て、
    実際は大変に厳しかった、というお話がベースにあるわけです。

    で、「戦時標準船」てのは平時より工期を短縮して増産し、
    戦時輸送(これ戦争の基本ですからね)を支えるというもの。
    大戦では、日本と米英がそういう船舶を造ったそうなんですが、
    安全度外視の「二重底廃止」ってのは日本だけだそうです。
    電気溶接はアメリカも採用しているんだけど、
    日本の場合、その技術自体が未熟というか、
    熟練工を確保出来なかったことに問題があったと言うべきか、
    とにかく水密性が低すぎる状態。

    で、材料は間引きし、二重底は廃止し…しかも低速。
    で、海軍には輸送船団護衛は念頭にない。

    そんな船で兵員輸送もしていたわけで、
     (それも完全に積荷扱いですからね)
    戦わずして沈んだ陸軍将兵の数も相当なものなんじゃないかと…
     (一隻沈められれば陸軍の数千名が溺死です)


    靖国の「英霊」については、
    半数以上が餓死・戦病死という話は有名だけど、
    「戦標船」と共に海に沈んだ将兵の数もかなりのものに思われます。

    これもまた、統帥の無責任極まれり、な話。

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