umasica :桜里さんのマイページ

『先祖になる』

2013/05/06 21:09

今年の「メイシネマ祭」は昨日で終わってしまったが、翌日の今日もドキュメンタリー映画に浸る。




池谷薫監督の『先祖になる』。ここ数カ月間、観たくて観たくて…だった作品を、ようやく観ることが出来た。



気仙沼に住む大震災の津波被害者の老人を主人公にしたドキュメンタリー、と書いて間違いではないが、しかしそれでは内容を伝えたことにはならない。

気仙沼に住む大震災の津波被害者の復興への思いを描いたドキュメンタリー、と書いて間違いではないが、しかしそれでは内容を伝えたことにはならない。

津波被害から自分の力で復興してしまう老人の姿を追ったドキュメンタリー、と書けば、ある程度は内容を伝えたことになるだろう。


老人は1934年生まれ。きこりとしての技術を持っている。

老人の家も津波被害には遭い、2階の床上まで水が来たという。しかし、家の柱は依然として垂直に保たれていることをカメラに向かって示し、老人は気仙大工の技術への信頼を語る。老人は、浸水被害に遭った家の建て替えを決意するのである。そして実行するのだ。

老人は、水田を借りて苗を植え、津波被害に遭った土地にソバの種をまき、町内会の存続を訴え、地元の七夕祭りの開催(震災の夏に実行された)を支え、とにかく自ら動くのである。


きこりである老人は、山に出かけ、家の材料となるべき木を切り倒し、必要な数を揃えてしまう(それが大震災の年の出来事である)。


そんな老人に惚れ込んで(誰が惚れ込まずにいられようか)支え続ける男。彼がまた見事にサポートするのだ。

行政としては被災地に居住し続けるのではなく避難所に暮らすことを求め、仮設住宅への入居を求める。行政にとっての「復興」はその先の話なのだ。被災者が勝手に家を建て替えてしまうような話は、行政の発想にはなじまないのである。それに対し、徹底的に老人を擁護するのが彼。彼の喧嘩っ早い男気のある性格が快い。



震災被害からの復興の問題、被災者と行政の間の問題を考える際に、普通は行政の対応の不備を告発する形になるものだが、ここでは「行政は余計なことをするな!」と求められているのである。

「お上が何もしてくれない」という感覚は、老人には存在しない。

観る者は、「公」と「個人」の関係をあらためて問われるのである。


老人は決して利己的な人間ではない。むしろ被災地の共同体としての存続のために、その第一歩として自分の家を自分の力で建て替えるのである。




しかし、被災地の被災者のそんな老人の存在を誰が想像し得たであろうか?

私の観たのは、確かに、「津波被害から自分の力で復興してしまう老人の姿を追ったドキュメンタリー」なのであった。









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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2013/05/06 22:09
    …と、本日もドキュメンタリー映画。

  • Comment : 2
    まことか
     2013/05/06 22:23
    柳田国男の本に書いてあったのですが、昔、次男、三男は分家をする時に
    「これでお前もご先祖になる。」
    と励まされたとのことです。代々の家を継ぐ惣領とはまた別の責任を負って
    新たな土地を耕したのだと思います。
    このドキュメンタリーの題も、そうした意味で、親代々から受け継ぐのではなく
    ゼロから出発して、次世代に残すものを創り出す気概をこめて
    こうした名前を付けたのですね。

    それにしても、凛と厳しく、粛然とさせられるお話ですね。

  • Comment : 3
    umasica :桜里
     2013/05/07 06:12
    まことか様

    私のパートナーの実家は町医者なのですが、
    海辺の町に開業したのが祖父の代で、
    その祖父が亡くなった際に葬儀を取り仕切った地元の人が、
    「この人はご先祖になる人だから…」という言い方をしていたそうで、
    そんな感覚があった時代が確かにあったのでしょうね。


    一人の人間の存在が持つ力の大きさに圧倒させられる映画でした。
    監督は老人と出会った最初の段階で三年の撮影期間を見込んだそうですが、
    あれよあれよと言う間に事態は進んで行き、
    早くも一年半後には家が完成していた、
    つまり撮影も終了という予想外の展開だったそうです。

  • Comment : 4
    umasica :桜里
     2013/05/07 17:58
    ココログ版の「現代史のトラウマ」記事としてアップしておいた。


     『先祖になる』を観る
     http://uma-sica.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-3684.html

  • Comment : 5
    umasica :桜里
     2013/05/07 18:14
    そういえば昨日の上映後、
    監督の池谷氏による舞台挨拶があったのですが、
    その眼目は、現在、両国の回向院で開催中の、
    「東日本大震災復興支援 善光寺出開帳 両国回向院」で用いられる、
    「回向柱」の斧入れにも件の老人(佐藤直志さん)が関わっているという話。
    で、映画の上映も予定されており、
    佐藤直志さん本人とその支援者として男気ある姿を見せた菅野剛さんの御両人も、
    上映会場(シアター・カイ)に姿を見せるというお話でした。

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