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アイヒマンの姿 2

2013/12/20 22:22




 彼の講義を聞くうちに、私は「政府」というものを行政機関という概念で捉えはじめるようになり、また官僚の基盤であると同時に基本的な手段のように見える法的秩序、すなわち管轄権という概念をも理解するようになった。いったんこれらの権力を握った者を止めることは誰にもできなかった。行政官としては、彼らは常に前例に従っていたが、必要とあれば、特許や商標や版権を登録することもなく、だれにも気づかれないうちに新規事業を始めることができた。官僚制度は陰の世界、見過ごされた世界であり、いったんそれに気がついた私は、何としてもそのよろい戸のついた窓や錠前のおりたドアをこじ開けなければならなかった。

     ラウル・ヒルバーグ 『記憶 ホロコーストの真実を求めて』 柏書房 1998  63ページ



ここでの「彼」は、ヒルバーグが第二次大戦から復員した後に学んだブルックリン・カレッジの政治学部の歴史学教授ハンス・ローゼンベルクのことで、プロイセン官僚制の専門家であった。

アイヒマンの行使した権力の性格がどのようなものであったのかを理解する上で重要な観点である。





 バロール検事―アイヒマンに会ったときのことを覚えていますか?

 マイヤー証人―はい。

 バロール検事―一度だけではありませんね?

 マイヤー証人―はい、はい。

 バロール検事―そういう会合では何を話し合ったのですか? 話題は何で、彼は何を知りたがったのですか?

 マイヤー証人―ありとあらゆることがらです。私はたいてい、ドイツ・ユダヤ人全国代表団(Reichsvertretung)の肩書で参加していました。私は入植者(Halutzim)の養成に従事していました。イスラエル開発基金(Keren Kayemeth Le Israel)の責任者として登録されているのが分かりました。私は彼がその地位にいるのを知っていましたし、当時は私たちの陳情を聞いてくれる立場の人だと思い、また私たちの状況と諸問題を理解できる人のように思っていたので、こうした会見の間、さまざまな要求や請願を提出したのです。そのつど彼は何かをしてくれた、と言うべきでしょう。……でも多くの場合、彼が言ったのは「とにかく上司に頼んでみよう」ということにすぎませんでした。ただ一般的には、お互いに一致することもできたのです。それを別にすれば、私は当時、彼が事態を詳細に知り、理解しようとしていたという印象をもっていました。もちろn私たちは皆、ユダヤ人に関することはそんなに単純じゃないことを知っています。私たちの間でさえ、説明できないことがたくさんありました。……もうこれ以上は申しませんが、彼は私にそれらを説明せよと求めていたのです。

 バロール検事―彼のふるまいはいかかでしたか?

 マイヤー証人―当時は平静な人で、まともな行動をする人だと思っていました。もちろん私たちの関係には個人的な要素は何もありませんでした。私たちの関係はまったく冷静で、きちんとしていたのです。

 バロール検事―会合のときの関係もきちんとしたものでしたか? まったく問題はなかった?

 マイヤー証人―はい、はい、はい。彼は私を敬称で呼んでいましたし、椅子に座ることも許してくれました。お分かりでしょう?

 バロール検事―あなたの全体的な印象では、彼は何に関心をもっていましたか?

 マイヤー証人―「この点を説明して下さい。私によく分かるように」と役人は言います。そんな役人に対してのごく普通の印象をもっていました。

 バロール検事―ありがとうございました。

     ロニー・ブローマン/エイアル・シヴァン 『不服従を讃えて 「スペシャリスト」アイヒマンと現代』 産業図書 2000  128〜130ページ



アイヒマンとユダヤ人組織の幹部は、基本的に、このような関係を保っていたようである。

アイヒマンの行政上の非凡な能力は、そのほとんどが、彼の事務室内で発揮されたものであった。アイヒマン自身がユダヤ人を手荒に扱うことはなかったが、彼の非凡な能力を抜きにして、ユダヤ人の大量殺害は実現し得なかったことも確かである。彼は殺害現場にはいなかったが、現場で殺害されたのはアイヒマンにより効率的に移送されたユダヤ人であった。










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最新コメント

  • Comment : 1
    umasica :桜里
     2013/12/20 23:53
    20世紀に実現された、
    行政組織による効率的な大量殺人を支えた構図。

  • Comment : 2
    askyneko
    askynekoさん
     2013/12/21 05:19
    >行政組織による効率的な大量殺人を支えた構図。

    大変に興味深いです。


    >もちろn私たちは皆、ユダヤ人に関することはそんなに単純じゃないことを知っています。

    (『不服従を讃えて 「スペシャリスト」アイヒマンと現代』の、中ほど)

    ここも、「もちろn」興味深いです。

    (ふふ)

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