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『まちや紳士録』(2013)と『鳥の道を越えて』(2014)を観る

2015/05/04 22:19

「メイシネマ祭 ’15」の二日目の上映の中から、伊藤有紀監督の『まちや紳士録』(2013)と今井友樹監督の『鳥の道を越えて』(2014)を観た。





伊藤監督の『まちや紳士録』は、福岡県八女市の八女福島地区の町並みの保存の試みを記録したものだが、監督自身が同地区の古民家に移り住んだ当人であり、その当人がほぼ一年の同地区での「町並み保存」の現状をまさに現在進行形で撮影したところに、作品としての特色の一つが見出されるように思える。

当人自身(とその妻)の地区住民(移住者)としての生活の進展があり、同時に地区内の二つの家屋の修復の進行があり、茨城県から同地区への移住を考える男性(とその家族)が実際に住民となるまで(監督当人もそうであるように、「町並み保存」の要と位置付けられているのは同地区への移住者であるところに、このプロジェクトの特徴がある)が、現在進行形で(つまり同時進行する形で)観客の前に映し出されるのである。画面には何人もの魅力ある人物が登場する。

まるで廃墟のようになってしまった駅前の商店街の映像に象徴されるように、人口減少の進行する八女市の現実があり、古い町並みを残していた福島地区も例外ではなかったわけだが、それがいかに保存・復活への道へと進み得たのか? 現在進行形の出来事を追う映像の背後には、何が(そしてどのような人物が)それを可能にしたのかも描かれている。先日の「ふくしまの話を聞く 4」でも、講演者の一人であった伊達市の職員の公務員的前例踏襲主義を越えた生き方に希望を見出したものだが、今回の八女市の町並み保存の記録映像の中心にも、そのような魅力ある元公務員が登場する。


…と書き続けてしまうと、実際に映画を観る楽しみを奪ってしまうので、これ以上は控えるが、町並みと家屋は物質としての現実の存在であるにしても、その場に生きる人間こそが、町並み、そしてそれぞれの家屋に命を吹き込み存続させる主人公であることを、あらためて実感させられる映像であったことまでは書いておこう。





今井友樹監督の『鳥の道を越えて』が追うのは、かつて存在した「かすみ網猟」の記憶である。

発端は、今井監督自身が少年時代に祖父から聞かされた、今井監督自身の故郷(岐阜県の山中の村である)の空を埋め尽くしたという渡り鳥の姿(それが「鳥の道」として見えたわけだ)の思い出話なのだが、かつては漠然と聞いていただけで終わってしまっていた話の詳細を、あらためて祖父に問い、祖父の同世代の村の人々にも話を聞き、聞けば聞くほど新たにわからないことが見出され、見出された疑問への答えを探るためには新たな出会いが必然となり、しかしそこで話は終わらず、到達した答えの先には新たな問いが生まれてしまう。

時代をさかのぼれば江戸初期の記録にまで及び、取材の足は福井県にまで至る。個人の記憶の背後には地域の歴史があり、更にその向こうには地域を超えた交流・移動の歴史が見えて来る。「かすみ網猟」は、戦後、占領軍の政策により禁止され、監督の祖父の世代の記憶としてのみ残されたのである(私にも、「かすみ網」を理由としての逮捕を報じる新聞記事を読んだ記憶があるし、宮澤賢治の「貝の火」には、賢治なりの「かすみ網猟」観が提示されている)。

そして、自らの経験において「鳥の道」の記憶の主人公であった世代の最後となる一人が今井監督の祖父であり、同世代の村の人々であったわけで、『鳥の道を越えて』に記録されているのは、今後は誰からも聞くことの出来ない、この国の「かつてあった世界」についての証言なのである。


伊藤監督の『まちや紳士録』の方は、基本的に現在進行形の町の中のエピソードだけで話は進んでいくが、今井監督の『鳥の道を越えて』の方は、次々と生み出される監督自身の問いに促された移動・取材によって構成されている(何かを知ることはゴールではなく、常に新たな何かを知るためのスタート地点に転化してしまうのである)。

そのような意味でスタイルは異なるが、両者の映像を通して問われているのは、私たちが安易に「伝統」と呼ぶものの内実である点においては、監督の問題意識は重なっているようにも感じられた。













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