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カマキリの卵嚢と雪予想

2009/10/27 01:37

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今年もカマキリの卵嚢(らんのう)がみられる時期になった。
カマキリの卵嚢といえば思い起こされるのが「カマキリの雪予想」。
【カマキリの卵嚢が高い位置にあれば大雪】──というものだ。
もともと雪国の伝承だったようだが、これを科学的に確かめたという本──『カマキリは大雪を知っていた』(酒井與喜夫/農山漁村文化協会)が2003年に出版されたことで、この話題は一気に全国に知られるところとなった。

しかし……結果から言うと、この説はデタラメだった──そうみる専門家が多いようだ。
僕もそう思う。
カマキリの卵嚢の高さにはかなりバラツキがあるのを僕も確認しているし、『カマキリは大雪を知っていた』を読んでみたところ、疑問に思うところが多かったからだ。

それでも一度広まってしまった【カマキリの雪予想】を科学的事実として信じてる人は多いようだ。カマキリの卵嚢が目立つようになるこの時期、ブログ・ネタとしてバイラルCMのように伝播しつづけている感もある。

「あれは間違い」と指摘する日記ももっとあっていいのではないかという思いもあって、この説の根拠となった『カマキリは大雪を知っていた』の疑問について、あらためて主要な部分をまとめておくしだい。
(以前にもこのネタで日記を書いているが、長くなってしまったので、今回は主要な部分にしぼって……)

『カマキリは大雪を知っていた』の著者・酒井氏は、こう考えた──、

【カマキリの卵嚢は雪に埋まらないギリギリの高さに産みつけられる】
 ・卵嚢は雪に埋まると孵化がきわめて困難になるため、雪に埋もれ
  ない高さに産みつけねばならない。
 ・しかし高い位置の卵嚢は鳥に見つかり食われる危険が高まるので
  可能な限り低い位置に産もうとする。
 ・ゆえに、雪に埋まらないギリギリの高さ──最深積雪とほぼ同じ
  高さに産みつける必要がある。
【ならば、カマキリの卵嚢の高さを調べればその冬の最深積雪値が判るはずだ】

そこで【カマキリの卵嚢の高さのデータから、その冬の最深積雪値を予想する】研究が始まった。

本来ならまず確かめるべきは【カマキリの卵嚢は、本当に雪に埋まらないギリギリの高さに産みつけられているのかどうか】という大前提の真偽だろう。ところが本書ではその真偽は確かめられていない(裏付けデータは出てこない)。

酒井氏は熱心にカマキリの卵嚢の高さのデータ集めをしているが、調査した卵嚢が実際に雪に埋まったかどうかは確かめていないのである。
卵嚢の高さがその地点での最深積雪値になるという前提のもとに、集めたデータから市街地の(卵嚢の計測地点ではない場所の)最深積雪予想値を割り出そうとしているに過ぎない。その結果、予想値が実際の最深積雪値とほぼ一致したとして「【カマキリの卵嚢が高い位置にあれば大雪】は成立する(正しい)」と結論づけているのである。

しかし、実際のところは……カマキリの卵嚢の大半は雪に埋まり、雪に埋まっても孵化率は低下しないことが他の研究者によって確かめられている。

大前提(カマキリの卵嚢の高さ=最深積雪値)が間違っていたことが確かめられているのに【酒井氏の雪予想】の方は成立するというから不思議である。
それについては、データの改ざん操作のよる辻褄合わせがあったのではないか……という疑念を払拭できない。

実は本書に記された酒井氏が集めたオリジナル・データでは、卵嚢の高さと最大積雪深との間に相関関係は見られない。実際に計測された卵嚢の高さはまちまちだったのだ。
それを酒井氏は、高さにバラツキがあるのは場所によって雪の積もり方が違うためだ──と解釈し、場所による誤差を平均値に修正するための人為的な補正を何重にも加えて数値の変換を行っている。そうした数値操作をほどこすことによって、初めて卵嚢の高さ(補正値)と最深積雪値との間に相関関係らしきものを引き出すことに成功しているのだ。この数値操作に辻褄合わせがあったのではないか?

また、計測のさいにもあまりに高い位置にあった卵嚢はデータから除外されており、都合の悪い数値を排除する取捨選択が行われているのもアンフェアな感を否めない。
こうしたデータの収集方法や補正加工が適正だったのか、大いに疑問が残るところである。

【カマキリは雪に埋もれない高さに卵を産む】──という前提から出発した研究なのに、酒井氏はその前提をしっかり確かめもせず「思い込み」のまま進めているのが、そもそもの間違いという印象が強い。

『カマキリは大雪を知っていた』は、意外な事に(?)実際は【カマキリは雪に埋もれない高さに卵を産む】を検証した本ではなかったのである。

【カマキリの卵嚢が高い位置にあれば大雪】──初めてその話を聞いたとき、これはガセネタ(正しくない)だろうと感じたが、その後『カマキリは大雪を知っていた』を読んで改めて、その感を強くしたしだいである。

※『カマキリは大雪を知っていた』を読む前に書いた日記
カマキリ卵の大雪予言説はなぜ生まれたか?

※『カマキリは大雪を知っていた』を読んでのもう少し詳しい感想
カマキリは大雪を知っていたのか!?(1)
カマキリは大雪を知っていたのか!?(2)


Binder: 昆虫ネタなど(日記数:41/全体に公開)
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最新コメント

  • Comment : 1
    カズシャン♪
     2009/10/30 20:58
    私が子どもの頃、理科の観察とか、自然を探る時にカマキリの卵のうを見かけたことがありましたが、今はあまり見かけません。写真のカマキリの卵のうは結構大きいですね。

  • Comment : 2
    星谷 仁
     2009/10/30 23:07
    画像はオオカマキリの卵のうです(種類によって形が違う)。
    この卵のうには耐雪性があることが専門家の研究でわかっています。

    カマキリの雪予想を信じた酒井氏は、雪に埋まると卵が凍死したり窒息死すると考えでいたようですが、冬の間4ヶ月も雪に埋まっていても卵はちゃんとかえることが確かめられています。
    雪予想などしていなかったわけですが、カマキリの卵のうは充分すぐれものだと思います。

  • Comment : 3
    ヒメオオクワガタ
     2009/10/31 19:21
    子供が小さいころカマキリの卵のうを一緒に見つけてきて
    家の中に置いていたら多数の幼虫が孵化して、妻がパニック
    になったこともありました。

  • Comment : 4
    星谷 仁
     2009/10/31 21:21
    カマキリはいっせいに孵化するから、虫が苦手な人にはそれなりにインパクトがあるんでしょうね(笑)。
    似たような話はときどき聞きます。子供がカマキリの卵嚢をとってきて、車の中に置いて──そのまま忘れていて、ある日ふつうに車に乗ったところ……やはりパニックになったとか。
    一方、息子が幼稚園に行っている間に孵化してしまったので、そのようすしっかりを動画に収めていた──なんていう、たのもしい女性もいました。

  • Comment : 5
    太一
    太一さん
     2009/11/03 23:54
    カマキリは子供の頃に襲われたイメージしかありません(笑)

    子供の頃は体が小さかったからそう感じるのか、襲ってきたカマキリの大きさは60cmはあったような・・。

    気のせいですよね(笑)

  • Comment : 6
    星谷 仁
     2009/11/04 01:26
    子供の頃に見た昆虫はでかい印象で残っていますね。

    さすがに60cmのカマキリは存在しないでしょうが、そんな印象がある──というのは、わかる気がします。

    幼稚園の庭や教室・イスが久しぶりに見ると小さく感じたりしますが(子供の頃には、もっと広く大きく感じた)、僕らの体が大きくなったことで対比が変化したせいもあるのでしょう。
    目線の高さや距離感のようなものも変化しているでしょうし。

    僕も子供の頃にみつけたオオクワガタは異様に大きくて化け物のような(?)印象で残っています(笑)。

  • Comment : 7
    やわらか☆不思議猫
     2009/11/06 11:06
    あの卵嚢1個から何匹くらいでてくるのでしょうか??

  • Comment : 8
    星谷 仁
     2009/11/06 11:22
    オオカマキリの卵嚢だと1つで200〜300個の卵が入っている──と読んだ記憶があります。

    で、オオカマキリ卵嚢の耐雪性を調査した安藤喜一弘前大学名誉教授(昆虫学)によると、弘前市の野外で採集した雪に埋もれた卵嚢の孵化率を調べたところ──約4ヶ月雪に埋もれていた417個の卵嚢内には9139個の卵があって、孵化率は97.9%だったそうです。ちなみに62日間雪に埋もれていた卵嚢内の5936個の卵でも孵化率は97.9%。雪に埋もれていた方がむしろ孵化率が高かったそうです。

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