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「たかし楽土」の世界(その六)

投稿者:nangouanさん  2008/07/31 06:31  MLNo.1177   [メール表示]

○ 芥子咲けばまぬがれがたく病みにけり

 『松本たかし句集』の昭和七年作。当時の年譜に、「春から梅雨にかけて神経症で弱る。ホトトギス雑詠への投句もこの三、四ヶ月は怠るといふことが、凡そ毎年の例となる」との記述がある。たかしの宿痾は、この神経症(ノイローゼ)と結核(肺炎カタル)とであった。芥子の花は濃厚に見えて淡泊な美しい花だ。そして、芥子の花は、たかしの宿痾が毎年昂じる頃咲く花だ。この句の「まぬがれがたく」とは、「今年もまた」という、たかしの絶叫でもあろう。しかし、その絶叫は、悶え苦しむ絶叫ではなく、淡泊な可憐な一日花の芥子の花のように、己の傷つきやすいことを知りながら、その傷つきやすいことを愛隣しているような、溜め息にも似た吐息のような雰囲気である。すなわち、「楽土」の吐息とでも言うのであろうか。たかしは決して絶叫はしない。また、その病的な神経から来る歪んだ異常性の強い句もない。たかしの句は、内面の葛藤を止揚したような、安らぎの「楽土」の世界のものであるという思いを深くする。


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