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(その八) 尾崎放哉未発表句 (その二)

投稿者:nangouanさん  2012/01/16 09:46  MLNo.1230   [メール表示]

(その八) 

句稿(1)
※○小浜ニ来て
層雲雑吟 尾崎放哉
小浜のオ寺で

今日来たばかりの土地の犬となじみになってゐる
を世話になる寺をさがして歩くつヽじがまっ盛だ
竹の子竹になって覗きに来る窓である
朝から十銭置いてある留守の長火鉢
其の侭はだしになって庭の草ひきに下りる
和尚とたった二人で呑んで酔って来た
汽車通るま下た草ひく顔をあげず(註・原案)
☆ 背を汽車通る草ひく顔をあげず  
あかるいうちに風呂をもらいに行く海が光る
カンヂキはいて草ひくかげが一日ある
重たい漬物石をくらがりであげとる
僧の白足袋ばかり見て草ひき話す
今日来たばかりで草ひいて居る道をとはれる
石だんあがって行くたそがれの白足袋である
女枕をして兎二角寝てしまった
雑草に海光るお寺のやけ跡(註・原案)  
☆ 雑草に海光るやけ跡  
くらい戸棚をあければ煮豆が腐って居た
たきものたくさん割って心よきくたびれ
竹の子の皮をむいてしまってから淋しい
あたまをそって帰る青梅たくさん落ちてる
そったあたまが夜更けた枕で覚めて居る 放哉
脚気でふくれた足に指をつっこんで見る
手紙入れに行く海風落ちた夕方
たった一人分の米白々と洗ひあげたる(註・原案) 
☆ 一人分の米白白と洗ひあげたる  
草ひけばみゝず出て来る春日ゆるやか
青梅たくさん落ちて居るみどりのくらがり
石だん上る人あり草ひく旅人として
草をぬく泥手がかはく海風の光り(註・原案) 
☆ 草をぬく泥手がかはく海風光り
障子切り張りして守番している顔だ
火ばしを灰に突っこんでいんでしまった
だれも居らぬ部屋に電気がついた 放哉

雑吟  尾崎放哉

かまどが気持よく燃える春朝
時計が呼吸する音を忘れて居た
豆腐屋朝をならし来るよい男だ
爪の土を堀ってから寝てしまう
時計が動いて居る寺の荒れてゐること(註・原案)  
☆ 時計が動いて居る寺の荒れてゐる  
万年筆がもたるゝ漬物臭い手である
和尚茶畑に居て返事するなり
あたへられたるわが机とていとしく
いつからか笑ったことの無い顔をもって居る
洗いものしてしまって自分のからだとなる
木の下掃きつゞけるよいお天気となる
下手な張りやうの侭で障子がかわいてしまった
のびたあごひげなでてのみなつかしみ居る
月夜となってしまった遂に来ぬ人
松葉数えて児等が遊べる術(すべ)を知らず
乞食に話しかける心ある草もゆ(註・原案)  
☆ 乞食に話しかける我となって草もゆ  
血豆をつぶす松の葉を得物とす(註・原案)
☆ 血豆をつぶさう松の葉がある    
考え事をしてゐろ田にしが歩いて居る
風が落ちたまゝの駅であるたんぼの中
朝の青空のその底見せきれず 放哉
寒い顔して会釈し合った
林檎の真ッ赤な皮が切れ/\にむかれた
さっきから晩の烏がないて居る草ひくうしろ
舟の灯を数えてから寺の門をしめる
雪の戸をあけてしめた女の顔
蟻を見付けた大地に顔触れさせて居る
妻が留守の朝からの小雨よろし
障子に針がさしてあるさびた針
障子のひくい穴から可愛いゝ眼を見せる
児の対手をして絵本を面白がってる 放哉
お山の晴れを松葉かき居り声あげんとす
米とぎ居るやあかつきの浪音
たくましい手できざみが上手にまるめられる
たった一軒の町の本屋で寄られる
くるわの中の赤いポストの昼である
和尚が留守の豆をいってるはぢける
するどい風の中で別れようとする
銃音がしてせっせと草をぬいて居る
どんどん泣いてしまった児の顔
晴れて行く傘で肩に乗せられる 放哉
窓に迫り来ろ雑草の勢を見る
大根ぶらさげて橋を渡り切る一人
新緑の山となり山の道となり
ポストに落としたわが手紙の音ばかり
急いで行く径の筍が出て居る
鏡の底のわが顔ひげのばしたり
草花一つ置き夫婦のみの夜更けたる
地図を見て居る小さい島々ある
鶏小舎鶏居らず春なり
たった一つ去年の炭団が残って居る 放哉
怪しからず凍てる夜となり炭団火にして参らす
去年の炭団がいつまでも一つごろ/\して居る
夕ベ煙らして居る家のなかから泣くよ赤ん坊
赤ン坊動いて居る一と間切りの住居
雑踏のなかでなんにも用の無い自分であった
家をたてること話し雑草やかれる
みんな泣いて居る人等にランプが一つ
病人の蜜柑をみんなたべてしまった
めし粒が堅くなって襟に付いて居った
淋しさ足らず求め足らず 放哉
層雲雑吟 尾崎放哉生
樋のこわれをなほし水だらけになってゐる
海いっぱいに尻を向け石だんの草をひいてる
田舎の小さな新聞をすぐに読んでしまった
猫が斜に出て行った庫裡の昼すぎである
あす朝の茶の芽をつむ約束をして和尚と寝てしまった
フトつばくろを見し朝の一日家を出ず
畳のその焼け焦げの古びたるさへ
麦わら帽のかげの下一日草ひく
きせるがつまってしまったよい天気の一人である
毎朝ごみ捨てに来て若い藪の風に立つ
縁に腰かけて番茶呑む一人眺めらる
ひょいとさげた土瓶がかるかった
若葉にむっとしてお寺をさがして居る
冷え切ったを茶をのんで別れよう
蚤がとんで見えなくなった古い畳だ
夕陽の庫裡は茶潰をすゝる音ばかり
へりが無い畳の淋しさが広がる
あすの米洗いあげて居る月の障子となる
頭をそって出る小さい町の海風
花火をあげて海に沿ふて小さい町ある 放哉
雑吟 尾崎放哉
ひねもすゼこやら水音がして山寺なりけり
すゝけた障子にわがかげうつる夜となる
山ふところの水遠くひく太い青竹
庫裡の大きな柱に古い五寸釘が打ってある
土瓶がことこと音さして一人よ
どろぼう猫の眼と睨みあってる自分であった
番傘ひらいては干す新緑の寺のしゞま
雨があがったらしい児等が遊んで居る声が近い
魚釣り見て居ろわれに寄りそう人ある
寝ころぶ一人には高い天井がある 5/21
層雲雑吟 尾崎放哉
筍筍いそいで竹になってしまった
大きな古足袋もらってはきなれて居る
白い衣物ばかりたゝんで居る夜である
小さい茶椀で何杯も清水を呑む
かん詰の缶を捨てる早春の藪
留守番をして地震にふられて居る
焼け跡己に芽ぐまぬ木とて無く
落ちそうな大岩の下で清水絶えず
木の芽かゞやきあつい茶を出される
雪ふるにまかせ赤い灯に集ってゐる
歯みがき粉こぼし朝の木の芽の道
バケツがころがって泣く夕風
力いっぱいの二た葉持ちあげたり
夜通し水走る宿で夢を見てゐる
手を振り足を振り朝は新らしい空気
澄み切った空で眼が覚め出す
青梅木の下す鼻値見え来る
白たゝけた爪の色を眼の前にしてゐる
かまどの暗い口に火をつけてやる
静な朝の雀をさがす一つ居る 放哉
せんべい布団にくるまって居る剃り立ての頭である
腹の臍に湯をかけて一人夜中の温泉である(註・原案)   
☆ 臍に湯をかけて一人夜中の温泉である 
針の小さい光る穴に糸を通す
窓から女の白い手が切手を渡してくれた
病人らしう見て居る庭の雑草
浪音淋しく三味やめさせて居る
豆を水にふくらませて置く春ひと夜
姉妹仲よく針山をかれる 放哉

(「尾崎放哉記念館」収載句)

「障子あけて置く海も暮れ切る」は尾崎放哉の代表句。ところが、この句、原
作は「すっかり暮れ切るまで庵の障子あけて置く」だった。これはだらっとし
て潔さを欠く。添削したのは放哉が師事した荻原井泉水。
 この「放哉全集」第一巻には、井泉水に送られた放哉句二千七百余りが収録
されている。私たちが知っていた放哉句は、その句稿から井泉水が選んで発表
した一部の作品だった。しかも、井泉水はしばしば大胆な添削をしていた。
 というわけで、この全集によって放哉像が変わるだろう。有名な「咳をして
も一人」「月夜の葦が折れとる」などの孤独感の強い句は、実は放哉の一面。
井泉水の選句や添削を通して、つまり、井泉水との共作において、放哉は自己
を他者に開こうとしていた。
 句稿ではさきの障子の句の後に、「沢庵のまつ黄な色を一本さげてきた」が
ある。井泉水は採らなかったが、とても人懐っこい風景だ。

 朝日新聞平成13年12月16日付「日曜書評欄」より「坪内稔典・書評」


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