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(その十一) 尾崎放哉未発表句 (その四)

投稿者:nangouanさん  2012/01/19 09:49  MLNo.1233   [メール表示]

(その十) 尾崎放哉未発表句 (その四)

句稿(3)
雑吟 尾崎放哉

竹切る音の人が顔を見せない
遊びつかれた児に寝る灯がある
椿の墓道を毎朝掃くことがうれしい
釜の尻光らして春陽に居る
寺はがらんとして今日の落つる陽ある
車屋貧乏くさい自分を見て通った
自分の母が死んで居たことを思ひ出した
白い小犬がどこ迄も一疋ついてくる
たぎる陽の釜のふたをとってやる
犬がもどって来ない夕あかりに立つ 放哉
今朝の花のどの枝を切らう
暮れ切った坊主頭で居る
戻りは傘をかついで帰る橋であった
焼け跡一本の松の木に背をもたせる
蔵の横の残雪に痛む眼ある
時計がなりやむ遠くの時計がなり出す
月が出て居る障子あけんとす
菊の鉢買って来て客とはなして居る
傘をくる/\まはして考え事してゐた
好きな花の椿に絶えず咲かれて住む 放哉
いちにち山椒煮る特佃の香にしみ込んで居る
貧乏徳利をどかりと畳に置く
寺の名大きく書いた傘ばりばり開いて出る
妻を風呂に入れて焚いてやる
雨を光らして提灯ぶらさげて出る
バラの垣が無雑作に咲き出した
桜が葉になって小供が又ふえた
咲き切った桜かな郊外に住む
花の雨つゞきのわらじが乾かぬ
山吹ホキと析れて白い 放哉
朝寝すごして早春の昼めしをたべとる
古本の町の埃をばたばたはたいてゐる
たった一つ残ってゐる紙鳶に青空ある
うしろから襖をしめてもらう泥手である
うす陽一日くもらせて庭石ある
日曜日の一庭を歩いてゐる蔓草
小さい布団で児がふか/\と寝てゐる
埃が立たぬ程の雨の女客ある
笑ふ時の前歯がはえて来たは
から車大きな音させて春夕べ 放哉
処女の手のひらのやうな柿若葉の下に立ってる
蟻にかまれたあとを思い出してはかいてゐる
筍堀った穴にふっくり朝の陽がある
筍堀りに主人の尻について行く
眼の前筍が出てゐる下駄をなほして居る
ごみ捨場に行く道が雑草でいっぱいになった
障子張りかへて若葉に押されてゐる
はでな浴衣きて番茶をほうじてゐる
妻の下駄ひっかけて肴屋の肴見に出る
漬物桶の石がぎっしり押して居る 放哉
お寺はひっそりして国旗出してゐる
みどりの下かげの若い人等の話し
お寺の青梅落ちる頃を児等は知ってゐる
ボタンが落ちた侭でシヤツを着てゐる
わが行く手の提灯一つ来るさま
いっぱいつまってゐる汽車に乗りこんでしまった
水の輪ひろがる山の池の出来事
空っ風の日の児等はどっかへとんで行ってしまった
泥手で金勘定をしてゐる風の中
梅も咲いて居る小さい流れありけり 放哉
(注)「思ひ出してゐる」↓「恩ひ出した」
(「尾崎放哉記念館」収載句)

放哉は、会社づとめに失敗し、病いにもとりつかれて、社会から完全に脱落
した、いわゆる東大出エリートだが、その自由律俳句や書簡などによって、息
のつまるような失意と諦め、抑えきれない我執とのあいだをうろつく、孤独の
有り態を承知することができる。今回発見された二千余句によっても、その態
さらに如実のはず。(金子兜太・「放哉全集(筑摩書房)」推薦の言葉)


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