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(その十四) 尾崎放哉未発表句 (その七)

投稿者:nangouanさん  2012/01/27 14:54  MLNo.1237   [メール表示]

(その十四) 尾崎放哉未発表句 (その七)

句稿(6)
層雲雑吟  尾崎放哉

葉桜の暗夜となり蛍なりけり
木槿の垣に沿ふて行く先生の家がある
桜葉になってしまってまだあき家である
葉桜の下で遊びくたびれて居る
木槿の垣から小大がころがり出す
木槿壇の上を豆腐屋の顔が行くよ
木槿の葉のかげで包丁といでいる
松山松のみどり春日ならざるなし
燃えさしに水かける晩の白い煙り
すくすく松のみどりの朝の庭掃く
竹の葉がふる窓で字を習ってゐる
底になった炭俵の腹に手を突っ込む
豆腐屋の美くしい娘が早起きしてゐる
田舎の床屋で立派なひげをはやしてゐる
少しの酒が徳利ふればなる
久し振りに英語の字引の重たさ手にする
池で米とぐかきつばたは紫
池一つ置いて静かなあけくれ
お池のなかの黒ン坊のゐもり
縄が障子にぶつかる元気がよい 放哉
寺に来て居て青葉の大降りとなる
サッとかげる陽ある躑躅まっ盛り
物干で一日躍って居る浴衣
汐ぶくむ夕風に乳房垂れたり
砂山下りて海へ行く人消えたる
芹の水濁らかすもの居て澄み来る(註・原案)  
☆ 芹の水濁らすもの居て澄み来る
桜咲き切って青空風呼ぶさま
青葉日かげの石段高々とある
桜ひとかたまりに咲き落ちて池水
軒の口ガ手をのばす夕月 放哉
借金とりを返して青梅かぢって居る
落葉ふんで来る音が大であった
四角にかり込まれた躑躅がホツ/\花出す
池の朝がはぢまる水すましである
ぱく/\返事をして豆がいれる
落葉どっさり沈めて澄み切った池だ
煙草のけむりが電線にひっかゝる野良は天気
煙草のけむりがひっかゝる高い鼻である
小米花数限りなく白うて
池の冷めたさにごらす米のとぎ水 放哉
土塀に突っかい棒をしてオルガンひいてゐる学校
児にヨジユームを塗ってやる朝の空気だ
黒い衣ものきて後ろ姿を知らずに居た
夜の枕があたまにくっ付いて来る
今朝はどの金魚が死んで居るだらう
話しが間遠になって町の灯を見る
言ふ事があまり多くてだまって居る
小さな人形に小さいかげがある
鯖を一本持って来て竹を切っていんだ
話しずきの方丈にとっつかまって居る 放哉
梅雨暗れの七輪ばたばたあふいで居る
筍くるくるむいてはだかにしてやる
芙莫の小さい提灯が赤うなって来た
石油かんを叩いてへこましてしまった
茶の出がらしが冷えてゐる土瓶である
茶椀の欠けたのが気になってゐる朝である
墨すり流しつヽ思はるること
消し炭手づかみにしてもって来る
たばこを買ってしまって一銭しか残らぬ
山吹真ッ黄な蛇をかくしてゐる 放哉
口笛吹かるゝ四十男妻なし
うつろの心に眼が二つあいてゐる
花火があがる音のたび聞いてゐる
天幕がたゝまれて馬がひかれて行った
一日曇ってゐる手習ひしてゐる
破れたまんまの障子で夏になってゐる
夜がらすに蹄かれても一人
淋しいからだから爪がのび出す
電燈が次の部屋にもって行かれた
重たいこうこ石をあげる朝であった 放哉
髪を切ってしまった人の笑顔である
蛙が手足を張り切て死んでゐる
肉のすき間から風邪をひいてしまった
裸の人等のなかの風呂からあがってくる
屋根草風ある田舎に来てゐる
障子のなかに居る人を知ってゐる
赤ン坊火がついたやうに泣く裏に暮れとる
寝そべってゐる白い足のうらである
板の間光らせて冷へた茶を呑んでゐる
苔がはえて居る墓の字をよまんとす 放哉
襖あけひろげ牡丹生けられたる
たくさんの墓のなか花たててある墓
牡丹あかるくて読まるゝ手紙
山の茂りの人声下りて来る
人を乗せて来た戸板でさっさといんでしまった
米粒一粒もたいなく若葉に居る
汽車でとんで来たばかりの顔である
痛い足をさすりさすり今日もくれて来た
女房大きな腹をしてがぶがぶ番茶を呑んで
物を乞はれて居ろわれは乞食
放哉何くれとなく母の手助けをして女の子である
なぜか一人居る小供見て涙ぐまるる
他人同志が二人で寝起きしてゐる
貧乏ばかりして歳頃となってゐる
わが歳を児のゆびが数へて見せる
橋までついて来た児がいんでしまった
母の無い児の父であったよ
牛乳コトコト煮て妻に病まれてゐる
卵子たくさんこわしてあいそしてくれる
今朝も町はづれの橋に来てみる 放哉
裸ン坊がとんで出る漁師町の児等の昼
波音になれて住む若い夫婦である
渚消されずにある小さい児の足跡
小さい橋に来て荒れとる海が見える(註・原案) 
☆ 小さい橋に来て荒れる海が見える
一本松とて海真ッ平らなり
海の旭日ををがんで二階から下りる
えぼし岩目がけて朝の釣舟をやる
ひとひらの舟に乗る深い海である
島に人柱ばせて海は波打つ
手からこぼれる砂の朝日 放哉
(「尾崎放哉記念館」収載句)

第一巻 句集

定型俳句時代 自由律俳句時代 句稿1 句稿2

 放哉は生前に句集を持つことはなかった。没後すぐ、荻原非泉水によって句集
『大空』が編まれ、広く愛唱される放哉はほとんどこれによる。

 然るにこの全集を編むための調査の結果、新聞や雑誌への投稿句が多数確認され
た。それは大正三年ころまでの定型句でも、以後の自由律の句についても同様であ
る。埋もれていた句が新たに見出されるということは、放哉の句を全面的に読むこ
とはできなかったということである。この巻では、すべての放哉句を、初出の句形
で発表順に掲載する。さらに、残存する膨大な句稿も併録する。井泉水主宰の『層
雲』ヘの句稿として井泉水宛に送ったもので、これまでにその一部が幾人かの手に
あり、存在は知られていたが、一九九六年七月、二七二一句にのぼる句稿が荻原家
からまとまった形で発見された。

 全句と句稿を併せ、放哉『句集』としたこの一巻は、多くの読者に瞠目して迎え
容れられるに違いない。「放哉全集(筑摩書房)」


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